「でもさ、どうして私だけ成瀬くんが見えるんだろう」

「それな。海幻の家系に霊媒師でもいんの?」

「いないよ。多分」

「海幻、そろそろチャイム鳴るぞ」

「あ、うん。放課後また来るね」

「ほどほどにな」


朝のホームルームが始まる前、私はいつものように教室に向かう前に成瀬くんのところに寄り道をする。

教室に戻る際、私が「また来るね」と言うと、成瀬くんはいつも決まって「ほどほどにな」と言葉を返す。

第二校舎の屋上へと続く階段は五年前に成瀬くんが飛び降り自殺をしたせいで侵入禁止になっている。

おまけに幽霊が出るという噂が一人歩きしているおかげで、普段は誰も寄り付かない。私達にとってそれは好都合だった。

ただ、そんなところにクラスでいつも一人でいる私がここに出入りするとなると教室中に変な噂が流れるかもしれないから、ここに来る時は十分に気を付けなければいけない。

成瀬くんもそのことを心配して、あまり頻繁に出入りしないようにといつも私に釘を刺す。

けれど、ここは私にとって唯一の居場所にもなってきているから、いつもできればもう少し長い時間過ごしたいなと思ってしまう。


「やっぱり、放課後、ここで描いちゃだめ?」

「だめ。絵は教室で描くものだ」


少しでも成瀬くんの話相手になれればと思って、階段に画材を持ってきたことがあったけど、彼はなぜかここで描くことを許してくれない。

でも、描いた絵は毎回決まって見せて欲しいと言ってくるから、恥ずかしいと思いながらも渋々見せている。

人に見られることを前提に描くと、いつもより緊張感が増すから、なかなか筆が進まなくなる。

けれど、それでも頑張って完成させた絵は、いつもの数倍格好良く見えるから不思議だ。

成瀬くんも基本的には私の絵を褒めてくれるから嬉しくなってもっと頑張ろうと思ってしまう。私は意外と単純な性格をしている。