思ったことは、すぐに口に出さない方が良い。
その言葉を相手が聞いてどう思うかまで考えた上で、発するようにしなければいけない。私がこの十六年間生きてきて学んだ術だ。
「成瀬くんは、どうして幽霊になったの?」
私はいかにも非日常的な彼の話に興味津々であるかのように訊いてみる。
「わかんねえ。別にこの世に未練があった訳ではなかったんだけどな」
隣のブランコに腰を下ろしながら大きくため息をつく成瀬くんの足元を見ると、影がないことに今更ながら気が付いた。
通り過ぎる人の視線を度々感じるのはのは、きっと私が一人で話しているように見えているからだろう。
「落ちてる最中、強烈に虚しくなったのは覚えてる」
返す言葉を探す前に、ごくりと唾を飲み込む。実際に飛び降りた人の生々しい体験談ほど強い説得力を持つものはない。
「決心したはずなのに、これで本当に良かったのかって考えちまったんだ」
そう言って空を見上げる成瀬くんは、周りの景色と同化しかけているように見えた。
「やっぱり、まだ未練が……」
「どうだろう。人間って死ぬ前になるとやたら後悔する生き物らしいから、そう思ったってのもあるかもしれない」
いつだったかな。たしか、末期症状の病人を看取る看護師さんが書いた本だったような。
人は死期が近付いてくると、ベッドの上でもっと好きなことをしたり、行きたいところに行けば良かった、家族や恋人を大事にすれば良かったと後悔をする。だから元気に生きているうちは精一杯のことをしましょう。そんなことが書かれていた。
思い出しながら、私はしばらく考え込んでいる成瀬くんの横顔をしばらく眺める。
って、あれ?
「傷が、無くなってる」
「ああ、幽霊になってからは、どんなにひどい怪我をしても勝手に治るんだ」
頭に貼った絆創膏も、額の傷も無かったように消えている。
全身をよく見てみると、カッターシャツの袖に付いた血痕も、スラックスに付いた砂埃も、至る所に空いた穴傷も、綺麗に無くなっていた。
「すげーだろ」
いや、全然凄くないよ。
時間が経てば全てが無かったことのようになるのは、羨ましいけど、少し哀しい。
……成瀬くんは、どうして自殺なんかしたのだろう。
その言葉を相手が聞いてどう思うかまで考えた上で、発するようにしなければいけない。私がこの十六年間生きてきて学んだ術だ。
「成瀬くんは、どうして幽霊になったの?」
私はいかにも非日常的な彼の話に興味津々であるかのように訊いてみる。
「わかんねえ。別にこの世に未練があった訳ではなかったんだけどな」
隣のブランコに腰を下ろしながら大きくため息をつく成瀬くんの足元を見ると、影がないことに今更ながら気が付いた。
通り過ぎる人の視線を度々感じるのはのは、きっと私が一人で話しているように見えているからだろう。
「落ちてる最中、強烈に虚しくなったのは覚えてる」
返す言葉を探す前に、ごくりと唾を飲み込む。実際に飛び降りた人の生々しい体験談ほど強い説得力を持つものはない。
「決心したはずなのに、これで本当に良かったのかって考えちまったんだ」
そう言って空を見上げる成瀬くんは、周りの景色と同化しかけているように見えた。
「やっぱり、まだ未練が……」
「どうだろう。人間って死ぬ前になるとやたら後悔する生き物らしいから、そう思ったってのもあるかもしれない」
いつだったかな。たしか、末期症状の病人を看取る看護師さんが書いた本だったような。
人は死期が近付いてくると、ベッドの上でもっと好きなことをしたり、行きたいところに行けば良かった、家族や恋人を大事にすれば良かったと後悔をする。だから元気に生きているうちは精一杯のことをしましょう。そんなことが書かれていた。
思い出しながら、私はしばらく考え込んでいる成瀬くんの横顔をしばらく眺める。
って、あれ?
「傷が、無くなってる」
「ああ、幽霊になってからは、どんなにひどい怪我をしても勝手に治るんだ」
頭に貼った絆創膏も、額の傷も無かったように消えている。
全身をよく見てみると、カッターシャツの袖に付いた血痕も、スラックスに付いた砂埃も、至る所に空いた穴傷も、綺麗に無くなっていた。
「すげーだろ」
いや、全然凄くないよ。
時間が経てば全てが無かったことのようになるのは、羨ましいけど、少し哀しい。
……成瀬くんは、どうして自殺なんかしたのだろう。