ねぇ?と同意を求める様に顔を覗き込むと、「それはそれ」と真顔でぶっきらぼうに答えられた。私はその答えに苦笑してから「何が良い?」と尋ねる。
「お前が作ったやつ、ほら、何だっけ。何とか姫」
「また影姫?本当に善次郎はこれが好きよねぇ、何が良いって聞くといつもこれじゃない?まぁ、その割には曲名を覚えないけれど」
 クスクスと笑いながら言うと「良いだろ、別に」とつっけんどんに返される。私はその答えに、「分かったわ」と破顔してから、離していた笛を口元に添えた。
 そして笛に息を送り込んで、美しい音を鳴らせる。先程の明るい曲調からは打って変わった、哀切な滑り出し。
 音が流れていく早さも、指の動きも穏やかだけれど。響かせる音は悲しげ。色々な事が、ちぐはぐとした曲。そんな齟齬が続く曲の山場では、その憂いが静かに、けれど必死に訴える音に変わっていく。
 空を悠々と泳ぐ鷹も、この侘しい曲に胸を打たれてくれたのか。ピーヒョロローと柔らかな響きを添え、色を添えてくれた。
 そうして段々と音は静かになっていき、終わりを迎えていく。音を広々と響かせ、その余韻に浸りながら、私は笛を口元から離した。
「いかが?」
 にかっと白い歯を見せながら尋ねると、善次郎は柔和な笑みを見せて「良い」と答えた。端的だけれど、その一言に感情の全てが乗っている気がする。
 私は「良かった」と喜色を浮かべ、優しく笛を撫でた。
「やっぱ、りんの笛は奥州一・・いや、日の本一だな」
「アハハ、それは言い過ぎよ」
 そしてお互い相好を崩しながら、しばらく語らい合っていた。柔らかな風に少し冷たさが込められ、空の色もほんのりと橙色に変わり始めてくるまで。
 その変化で、ようやくお互いにやるべき事を思いだし「帰るか」と重い腰を上げた。笛を袖にしまい、薪が入った重い籠を背負ってから、二人で帰途につく。
 私達は橙色が澄んだ天色に織り交ざり、美しい色合いを見せる空の下を歩いていた。ほんのりと白い三日月も浮かび上がり、仄かにキラリと一番星も煌めきだす。
「りん」
「なあに?」
 隣を歩く善次郎から唐突に名を呼ばれ、私はヨイショと重い籠を背負い直して尋ねた。
「お、お前さぁ。もうじき、十七だろ?」
 同い年で、分かっているはずなのに。何故そんな事を尋ねるのかしら?