「なになに? なんか美味しそうなものを飲んでいるじゃない! なにこれ? あたしにも飲ませてよ!」

「イサギさんの作った新しい飲み物が気になります」

「いいですよ。ぜひ感想を聞かせてください」

畑の一画でわいわいとしていると、今度はレギナとティーゼがやってきたので彼女たちの分のカッフェも用意してあげる。

「わっ、にっがーい」

「……微かに甘さがあって苦みがあって酸味もあって、実に奥深い飲み物です」

レギナはカッフェを口にして吐き出すことはなかったが舌を出して顔をしかめていた。

ティーゼはカッフェの味が平気だったのか興味深そうにして何度も口をつけている。

「あたしはちょっと苦手かも」

改良して飲みやすくなったとはいえ、独特な風味と苦みがあることに違いない。

カッフェを苦手と感じる人がいるのは仕方のないことだろう。

「でしたらカカレートと一緒に飲んでみるのはいかがでしょう?」

「紅茶をお茶菓子と一緒に食べるように、甘いものと一緒ならばレギナ様も飲みやすいかもしれませんね」

「やってみる!」

実践させてあげるためにマジックバッグからカカレートを取り出そうとしたが、レギナが懐のケースからカカレートの固まったものを取り出した。

「えっ? カカレートが固まってる?」

カカレートといえば、俺たちの作った液状のものだと思っていたので目の前で固形として取り出されたカカレートに驚いてしまう。

「なんか朝起きたら固まってた」

レギナの話を詳しく聞いてみると、食後のデザートに食べようと思っていたが放置して寝入ってしまい、朝目覚めると固まっていた状態で発見されたようだ。

ずぼらな第一王女の生活に突っ込みを入れたくなるが、そのお陰で新しい発見があったので叱るに𠮟れない。

恐らく気温差によって液体から固体へ変化したんだろう。

変化が気になり、再現したくなった俺はその場でマジックバッグからカカレートを取り出してみる。

そのまま冷やしても不定形な形になるのは目に見えているので、錬金術で正方形の型を作ってそこにカカレートを流し込む。

氷魔法を発動して冷やしてみると、カカレートは型の通りに固まってくれた。

型をひっくり返して叩いてみると、正方形状になったカカレートがコロンと出てくる。

「確かに固形になった」

「この方が食べやすそうですね」

カカレートとカッフェの相性を確かめるために俺は出来上がった固形のカカレートの皆に配ってみる。

「なんだこれ?」

「彩鳥族の特産品と育てているカカレートです。甘くて美味しいですよ」

「ほお」

カカレートの説明をすると、キーガスは怪訝な顔をしながら見つめていた。

赤牛族たちの青年は甘味が嬉しいのか後ろではしゃぎ声を上げている。

「……あたしもそっちのカカレートが食べたい」

「いや、レギナは自分のを持ってるじゃん」

「そっちの方が可愛くて美味しそうだもの!」

などとよくわからない理由を述べてレギナも俺の作ったカカレートを強奪した。

まあ、別にいいんだけどね。

カカレートを配り終わったところで俺たちはカカレートと一緒にカッフェを飲んでみる。

「あ、美味しい! これならあたしでも普通に飲めるわ!」

苦さを苦手にしていたレギナもこの組み合わせならば美味しく飲めるようだ。

ただカッフェを飲む割合よりも圧倒的にカカレートを食べる割合の方が多いけど。

俺もカカレートを口に運んだ。

カカレートが口の中で溶けていきじんわりとカカオの甘みが広がっていく。

口の中がカカレートの甘さでいっぱいになったところで、温かなカッフェを口に含むようにして飲む。

カッフェの芳醇な風味が口の中に広がり、追いかけるように苦みや酸味がやってくる。

それらは口の中に残っているカカレートの味と見事に組み合わさり、程よい苦みと酸味へと変化していた。

「カッフェの苦みがカカレートの甘みと中和されて飲みやすくなっています。カカレートがある方がカッフェは美味しいですね」

「なに言ってやがんだ。カッフェはカッフェだけで飲むのが一番良いに決まってるだろうが」

「なんですって?」

「ああん?」

味わい方の方向性が割れたせいかティーゼとキーガスがにらみ合う。

「まあまあ、味の好みは人それぞれですから」

険悪な雰囲気を醸し出す二人の間に割って入ると、ティーゼとキーガスはにらみ合うのをやめてくれた。

一緒に農業や話し合いをすることで問題なく話し合えるようになったと思ったけど、すぐに仲良くなるということは難しいのかもしれない。

「せっかくですから赤牛族の畑ではこのカッフェを育ててみましょうか」

「ああ、それができるなら是非とも頼む」

「彩鳥族ではカカレートを特産品に。赤牛族ではカッフェを特産品として将来的には二つをセットにすることで輸出すると大きな利益になりそうですね」

なんて提案をしてみると、ティーゼとキーガスは互いに視線を合わせ、嫌そうな顔をしてそっぽ向いた。

今すぐに仲良くなることは難しいかもしれないが、将来的には二つの氏族が仲良く手を取り合ってくれればと俺が思う。





それから俺は赤牛族が作り上げたプラミノスハウス内で品種改良した小麦、ジャガイモ、ブドウ、ナツメヤシを植えて栽培し、それとは別に特産品となるカッフェにも調整を加えることで栽培。

「すげえ! 本当に俺たちの集落で農業ができてやがるぜ!」

プラミノスハウス内ですくすくと育っている作物を目にして、キーガスが驚きの声を上げている。

「こんな砂漠で作物を育てちまうなんて本当にイサギはすげえな」

「すごいのはキーガスさんをはじめとする赤牛族の人たちですよ。まさかここまで早く形にできるとは思いもしませんでした」

彩鳥族の集落で散々試行錯誤し、ある程度の完成品を作り上げていたとはいえ、まさかここまで早く農園を作ることができるとは思わなかった。

畑に関してもゴーレムを一日中使役しても三日はかかる範囲を一日で開墾してしまい、農業に使用する水源は探知こそしたもののキーガスをはじめとする赤牛族が次々と掘り当ててくれた上に自らの手作業で井戸を作ってくれた。

水路に関しては俺が錬金術で手伝ったとはいえ、俺が手伝わなくても時間さえあればすぐに完成させられるほどのパワーと技術を持っていた。

ここまで早く農園を完成させることができたのは間違いなく赤牛族たちの力のお陰と言えるだろう。

「まあ、これだけ希望を見せられちゃ俺たちとしても気合いが入るってもんだ」

「そう言ってもらえるとやってきた甲斐があるってものです」

水源の上に井戸が設置されており、そこから水路を引いて水を引き込んでいる。他にも小さな水源は各所に散らばっており、いくつもの井戸があって引き込めるようになっている。

さらに保険として俺の作った水魔道具も設置しているので、彩鳥族の集落のようにちょっとやそっとの天災にあったところで農業が停止することはないだろう。

俺がいなくても赤牛族たちの力で継続して農業を行うことができる。完璧だ。

「まあ、俺の一番の希望はこっちなんだがよ」

ニヤリと笑みを浮かべるキーガスに付いていき、隣のプラミノスハウスに入ると、そこには大量のカッフェが栽培されていた。というか、ここにはカッフェしか栽培されていない。特産品となるカッフェ専用のプラミノハウスだ。

「他の赤牛族たちの人から聞いていますよ? キーガスさんがカッフェの世話しかしてくれないって」

「食材の世話は率先して他の奴等がやってくれるからな。だから、俺はこっちの世話に力を入れてんだ」

周囲からの小言を伝えてみるも、キーガスはどこ吹く風だ。

その代わりカッフェの世話は誰よりも率先して真剣に取り組んでいるので大きな不満となっているわけではない。本人もそれを理解しているのだろう。

「すっかりとカッフェにハマっていますね」

「元々の趣味だったからな。イサギにカッフェの本当の美味しさを教えられてから、俺もカッフェの奥深さを探求してみたくなってよぉ」

キーガスには錬金術に頼らなくてもカッフェを作り上げるための加工法を伝授したが、今では家でも道具などを自作して個人的にカッフェを作っているほどだ。

「カッフェの発酵具合、焙煎具合、お湯の淹れ方一つで風味や味は変化いたしますからね」

「いずれは自分好みのカッフェを思う存分に作るのが目標だ」

「そのためにはまず安定してカッフェを作り上げないとですね」

「そうだな」

なんてカッフェや集落の将来について話し合っていると、不意に足元から強い揺れを感じた。