ベッドから起き上がる。まるで自分のことを言われているかのようだった。手に汗もかいている。自分も下手をすると徳永のような変態になってしまうかもしれない。いや、自分の場合はそれ以上だ。もし繋がって目と耳を共有していることがバレたら、律子が徳永を見たようなあの蔑んだ目で見られ、嫌われ、変態と呼ばれる。それだけはごめんだ。彼女たちが嫌がるような繋がり方だけは絶対にしない。これは自分なりのルールとして絶対に守らなければならない…そう心に誓った。

6月11日 月曜日
 三島勇治先生の英語の授業では先日の抜き打ちのテストが返ってきた。いつかは返ってくるテストではあったが、いざ返ってくるとなると教室の空気は重くなった。皆手応えが悪かったのだろう。先生が一人づつ名前を呼んで答案用紙を渡していくと、あちこちでため息が漏れた。
 三島先生が「これが今のお前たちの本当の実力なんだ。文系の3クラス合わせた平均は65点だった。大学に行こうとするものは来年の1月までにはこのテストのレベルで80点は欲しいところだ。テスト前に慌てて詰め込んで勉強したものが身になっていないということがよくわかるだろう。日々の積み重ねこそが一番大切なんだ、分かったな!」というありがたいお説教がついた。
「ちなみに満点が一人いた。1組の井上唯だ」
 そのまま授業が始まったがテストの結果の余波が大きく、教室内はざわつきなかなか落ち着きを取り戻さなかった。
 豪介は48点で、中の下、もしくは下の上といったところだった。勉強をしていない分、本当の実力がわかる、もしかしたらいつもよりもいい順位になるかもしれないと思ったのはただの幻想だっだ。豪介は英語のテストを手に自分の将来を考える。と言っても将来の夢や、憧れの職業に就けないことはすでに理解している。現実的なことを考えると楽しくない未来しか思いつかない。もうちょっと身近な未来である大学のことを考えても私立の手の届く大学となると、3流も難しく…、それ以上考えるのをやめた。
 この同じ動揺は他のクラスでも起こっていた。多くの生徒が自分の点数を見てこの先の受験勉強を想像して暗澹たる気持ちになった。そして自分の頭と一人だけ満点を取った唯の頭の違いの不公平を嘆いた。

 学校が終わると、豪介は久保田と一緒に帰りの駅に向かった。