僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

「みんな聞いてくれ。私、蔵持銀治郎は彼女と別れました。ただいまフリーです。自薦他薦を問いません。可愛い子を彼女にしたいです」と宣言した。
 あちこちのグループで銀治郎がフリーになったことが話題になり、皆銀治郎に似合うのは誰だと面白おかしく話し始めた。銀治郎のもとに辛島優斗と小林美咲がやってくる。
「銀治郎、お前そんなに彼女欲しいのかよ」
「そりゃいるだろう。だってもうすぐ夏じゃん」
「ちょっとは一人の時間を楽しんだらいいじゃない」
「そうだよ」
「お前たちが言うなよ。俺はね美咲よりも可愛い彼女を作るの」
「あら、私のこと可愛いと思ってるの?」
「まあね、タイプじゃないけど」
「ひどい」と、楽しそうに話している。
 久保田治は銀治郎たちを大きく避けて豪介の元にやってくると銀治郎の方を向いて嫌な顔をした。実は久保田は銀治郎のことを嫌っていた。原因は、久保田の運動神経の悪さに起因している。みんなから「久保田」と声をかけられ振り向きざまに消しゴムやボールを投げられ、そしてそれをうまくキャッチできない姿を見て笑われていた。そうやって一番久保田をからかうのが銀治郎だったからだ。だから久保田は銀治郎をちらりと見て、「嫌なやつ」と呟いた。
 この銀治郎の恋人募集宣言は瞬く間に他の教室にも広まっていった。

 豪介は夕飯をそそくさと食べ、誰よりも早く風呂に入る。今日もコンビニネコババ事件の犯人を探そうとしていた。風呂から上がり自分の部屋に行こうとすると母親から、「あんた最近、早く寝すぎでしょう、ちょっとは勉強してるの?」と怒られた。
『夜更かしすればしたで、「早く寝なさい」というのに、全く親というのは勝手な生き物だ』そう思いながら「してるよ」と母親に答え階段をあがる。そしてそのままベッドに入った。宿題はあしたの朝か、もしくはやらない。どちらかだ。
 ここ数日は大原純と繋がっていたのだが、あれ以来バイトには入っおらず何も進展がなかった。だから今日は徳永伸也と繋がることにした。
『徳永伸也…、徳永伸也…、徳永伸也…』
 
 スゥーと引っ張られるような感覚で光の中からコンビニの商品棚が現れる。ヨレヨレのジーパン、ぽっちゃりした手。どうやら徳永伸也と繋がったようだ。他のバイトは有田律子とどこかの国の留学生だった。徳永はレジを打ち商品を綺麗に整える。またレジを打ち、売れた分の飲み物をバックヤードから補充する。今のところ真面目に仕事をこなしている。30分、1時間と過ぎていく。
 豪介は徳永の真面目な仕事ぶりの中であることに気がついた。徳永の視界の中にはいつも有田律子がいるのだ。初めは気のせいかと思ったが、そのことに気がつき意識をするとそれは確信に変わった。お客さんがいない時などはあからさまだった。しかも律子の太ももやお尻ばかりを見ていた。特に下の段の商品を整えるために律子がしゃがみこむと、ここぞとばかりに視線が動く。パンティーラインがくっきり浮かび上がる時などは食い入るように見ていた。これに関しては豪介が恥ずかしくなった。こんなにジロジロ見ていることを誰かに知られたら恥ずかしいだろうに。気がつかないとは恐ろしいものだ。
 突然、有田律子がこっちにやって来た。険しい顔で徳永をみる。豪介は自分が律子に見られている感じがして落ち着かなくなった。
「ねぇ、私のお尻ジロジロ見てるでしょ、やめてくれない変態、気持ち悪い!」
『図星だ、気づかれていた』
 律子は見ていないようで見ている。そういえばこの調査を始める前、目線を合わせるためにコンビニに行った時もそうだった。
『さぁ、徳永伸也はどうする…』
「すいません…」と徳永は小さな震える声で謝った。
 律子はそれ以上何も言うことはなく、また自分の仕事へと戻って行った。徳永はその後彼女を見ることなく、仕事を続けた。
 豪介は徳永伸也の繋がりを切って目を覚ました。やりきれない気持ちになった。大原純は恋人のスカートをめくっても「もう、エッチ」ですまされ、徳永は律子のお尻を見ていて変態と蔑まれる。この違いはなんだろう。
『やっぱり見た目なのか…』人間はとても残酷だ。

6月10日 日曜日
 今日でコンビニネコババ事件を知ってから一週間になる。花田豪介はまだ犯人がだれか見当もついていなかった。怪しい動きもつかんでいない。もしかしたらもうネコババをしなくなったのかもしれない。それでも今日は牧園さんがバイトに入る日だ。お昼の12時から夕方5時のシフトで入っているのを確認していた。
『こういうことはいろんな人の目を通して見ることが大切だから』
 なんとも思ってない人と繋がるのに抵抗はないが、友達や好きな人と繋がるのはやはり罪悪感が生じる。牧園さんなら尚更だ。だがそこはあくまでネコババ野郎を探し出すという言い訳を自分にしながら…。ワクワクしている気持ちを抑えることができない。
 豪介はお昼ご飯を食べると、早速寝ることにした。
『牧園ゆかりさん…、牧園ゆかりさん…、牧園ゆかりさん…』

 向こうから光がやってくるとコンビニの明るい店内が見えてきた。牧園さんの見ている景色はどこか他の人とは違っているように見える。何かこう、見ているものがより明るいというか、色彩がポップというか、やはり可愛い子は見ている世界や、感じ方も違うのかもしれないと豪介は思った。
 今日、一緒に働いているのはインドからの留学生と近所のおばちゃんと有田律子だ。
 豪介は牧園さんと繋がっているおかげで、彼女の心地よい声や時に鼻歌まで聞こえてきて、あまりの心地よさにネコババ事件を捜査していることを忘れてしまいそうになる。するとお客がいない頃合いを見計らって律子が近寄ってきた。
「ゆかりちゃん、徳永には気をつけた方がいいわよ」
『ん? なんだ、どうした? もしかしたらネコババ事件に関することか?』
「徳永伸也さんですか?」
「そう」
「どうしてですか?」
「あいつ、変態だから」
『!』
「私のお尻ずっと見てるから変態って言ってやったの。でも、それだけじゃなくて、トイレに行ったら必ず近くにきてるのよ。一度入ってすぐ出たらドアのところに立ってたことがあって聞き耳を立ててたみたいなの」
「うわぁ」
「でしょ。最低の変態なのよ。ゆかりちゃんも気をつけてね」
「はい」
 有田律子は心底おぞましいという感じでそのことを話すとまた仕事に戻って行った。豪介は牧園さんとの繋がりを切って目を覚ました。
 ベッドから起き上がる。まるで自分のことを言われているかのようだった。手に汗もかいている。自分も下手をすると徳永のような変態になってしまうかもしれない。いや、自分の場合はそれ以上だ。もし繋がって目と耳を共有していることがバレたら、律子が徳永を見たようなあの蔑んだ目で見られ、嫌われ、変態と呼ばれる。それだけはごめんだ。彼女たちが嫌がるような繋がり方だけは絶対にしない。これは自分なりのルールとして絶対に守らなければならない…そう心に誓った。

6月11日 月曜日
 三島勇治先生の英語の授業では先日の抜き打ちのテストが返ってきた。いつかは返ってくるテストではあったが、いざ返ってくるとなると教室の空気は重くなった。皆手応えが悪かったのだろう。先生が一人づつ名前を呼んで答案用紙を渡していくと、あちこちでため息が漏れた。
 三島先生が「これが今のお前たちの本当の実力なんだ。文系の3クラス合わせた平均は65点だった。大学に行こうとするものは来年の1月までにはこのテストのレベルで80点は欲しいところだ。テスト前に慌てて詰め込んで勉強したものが身になっていないということがよくわかるだろう。日々の積み重ねこそが一番大切なんだ、分かったな!」というありがたいお説教がついた。
「ちなみに満点が一人いた。1組の井上唯だ」
 そのまま授業が始まったがテストの結果の余波が大きく、教室内はざわつきなかなか落ち着きを取り戻さなかった。
 豪介は48点で、中の下、もしくは下の上といったところだった。勉強をしていない分、本当の実力がわかる、もしかしたらいつもよりもいい順位になるかもしれないと思ったのはただの幻想だっだ。豪介は英語のテストを手に自分の将来を考える。と言っても将来の夢や、憧れの職業に就けないことはすでに理解している。現実的なことを考えると楽しくない未来しか思いつかない。もうちょっと身近な未来である大学のことを考えても私立の手の届く大学となると、3流も難しく…、それ以上考えるのをやめた。
 この同じ動揺は他のクラスでも起こっていた。多くの生徒が自分の点数を見てこの先の受験勉強を想像して暗澹たる気持ちになった。そして自分の頭と一人だけ満点を取った唯の頭の違いの不公平を嘆いた。

 学校が終わると、豪介は久保田と一緒に帰りの駅に向かった。
「なぁゴンスケ、テストどうだった?」と久保田が話しかけてきた。
「普通」
「普通かぁ」
「お前は?」
「普通」
「普通かぁ」
 二人は同じようなテスト結果にお互い安心して笑いあった。国道に出たところで、近くの別の高校だろう夏服の制服を着た三人がこちらをみていることに気が付いた。豪介も久保田も自分たちには関係ないことだと思いながらも笑うのをやめ、緊張した足取りで息を潜めて彼女たちの前を通り過ぎる。通り過ぎた後久保田が豪介に聞いた。
「ゴンスケいまの三人だとどれが好み?」
「えっ?」
「俺は一番右の子だな。可愛かったぜ。真ん中の子は胸も大きかったなぁ。本当は俺胸の大きい子が好きなんだけどね」
 その時、「あの」と、声がかかった。
 豪介も久保田もびっくりした。まさか自分達に声がかかるとは思っていなかった。どうやらすれ違った後に自分たちを追ってきたようだ。豪介たちは周りを見て、やはり自分たちに声がかかったと知ると二人は同時に返事をした。
「はい」
「何年生ですか?」
「2年だけど」久保田の方が積極的に返事をする。
「2年だって」
「ほら言いなよ」
「でも」
「大丈夫だって」
「わかった」などとブツブツ言っていると、突然。
「蔵持銀治郎君って知ってますか?」と久保田が気に入っていたという一番右の子が聞いてきた。だが、蔵持銀治郎の名前を聞いて久保田は明らかに不機嫌になり、返事をしなくなった。
「君たちと同じ高校の2年生だけど、知ってるかな?」
 豪介が仕方なく返事をする。「同じクラスだけど」
 同じクラスだと聞いて明らかに三人のテンションが上がった。それは希望を見つけた、そんな顔だった。
「よかった。ほら、渡しなさいよ」
「うん。これ連絡先なんだけど、銀治郎君に渡してくれるかな」
「あっ、あぁ」と言って、豪介は差し出された紙切れを受け取った。
『しまった、受け取ってしまった』と思ったが、もう遅かった。
「よかった、絶対よ。なんか恋人募集って話を聞いたから、すぐに渡してね、それで絶対に連絡してって伝えてね」
 そう言って三人はキャーキャー言いながら消えていった。
 銀治郎からの連絡が来ることの期待が彼女たちを飛跳ねさせているのだろう。嫌な役を仰せつかったと思った。受け取ってしまった以上今更嫌だとも言えない。渡された紙切れをみると、連絡先と小さな顔写真が貼ってある。今見た三人のうちの誰かだろうけど、なんだか写真は小さくてよくわからない。
『なんだよ帰ってるところだったのに、すぐに渡さないといけないのか…。クッソー』
 頼まれてしまったからにはこの紙を渡さないといけない気がする。豪介は自分の真面目さが呪わしかった。久保田に「一緒に渡しに行こうぜ」というと「嫌だよ、ゴンスケが頼まれたんだからゴンスケが渡せよ」と言い残して駅に向かって歩き始めてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」と背中に声をかけるが久保田は振り向かない。豪介は仕方なく今来た道を学校に戻り始めた。
 自分と久保田の二人に声をかけたのはきっと声をかけやすかったのだろう。『断らない気の弱さを醸し出していたんだろうなぁ…』と思うと自分が嫌になった。
 靴箱に靴を入れ上履きを履く。足取り重く教室の前まで来ると、頼むからいませんようにと神様にお願いをして扉を開けた。
「ハァ…」
 思わずため息が出た。残念なことに銀治郎たちは残っていた。
『何をやってるんだこいつらは?』
 周りの空気をピンク色にしてまだあの三人で話をしていた。くっそーと思いながらも三人に近づいていく。
「今、駅に向かう途中で」と銀治郎たちに話しかける。
「何ゴンスケ?」と銀治郎が自分たちの話に割り込んできた豪介を不機嫌そうに見る。
「えっ、いや、だから、駅に向かう途中で三人の女子高生がいたんだ」
「それでなんだよ」
「これ」と言って豪介は紙切れを渡す。「連絡してくださいって」
 するとそれを聞いた銀治郎が途端に上機嫌になって、「ほら、どうだ。ね、どうでしょう。俺の魅力は他校にまで伝わってるよ」と、得意げになった。そして「可愛かったか?」と聞いてきた。
「えっ?」
「えっ? じゃねぇよ、可愛かったかって聞いてんだ?」
「わからないよ」
「わからないって何見てんだよ。可愛かったら連絡するけど、可愛くなかったら連絡しないに決まってんじゃん」
 そう言われて豪介は顔を思い出そうとするのだが、一瞬のことだったのでうまく思い出せない。その代わりに紙切れに写真が貼ってあったことを思い出した。
「そこに写真があるよ」
「こんな小さい写真でわかるかよ、しかも加工してあるだろ。実物はどうだったかって言ってんだよ」
「多分、可愛い」
「なんだよ、それ?」
「僕だってそんなに見てないよ」
「なんで見てないんだよ、無責任だろ」
「ごめん」
『なんで僕は謝らなくっちゃいけないんだ。なんで僕は責められなくっちゃいけないんだ』
「まぁ、銀治郎それぐらいにしてやれよ」
「そうよ。銀治郎君自分で確認したらいいじゃない」
「でも、ブスだったら後々つきまとわれるかもしれねぇじゃん。俺そんなの嫌だよ。ゴンスケさ、一度連絡して写真送ってもらってよ。加工してないやつ。それで決めるわ」
「えっ? 僕そんなのやだよ」
「いいじゃねぇか。乗りかかった船だろ」
『何言ってるんだこいつは、僕がいつ乗りかかったよ。なんでこいつは人に物を頼むのにこんなにも横柄な態度を取れるんだ。どうして僕はこんなやつにきっぱりと断ることができないんだ』
「じゃ、ゴンスケ頼んだからな」
「そんな…」
「あらら、ゴンスケ君大変ね。まぁ、でもうまくいったらおこぼれがもらえるかもね。なにせ銀治郎君女の子に知り合いが多いから」
「いつでも紹介するぜ、そうだ典子とかどうだ?」
『典子って、この前から一体なんだ! ふざけるな!』
「そうだよ、それがいいぞ、俺、我ながらいいこと言ったよなぁ」
「銀治郎君そんな言い方したら悪いでしょう」
「そうか、お似合いなんだけど」
「典子に悪いだろ」と優斗が言った。
「そうよ」
『何を言ってるんだ、こいつらは、一体何を言ってるんだ…』
「そうか、典子に悪いか」
 三人だけで笑っている。豪介は静かにその場を後にした。

 家に帰った豪介は女子高生から渡された連絡先を見ていた。銀治郎に頼まれた写真を送ってくれという連絡をするべきか、しないべきか?
 する・・写真が送られてくる、すると銀治郎が面白半分に典子を紹介しようとする。それは最悪だ。
 しない・・写真が送られてこない。銀治郎から何を言われるかわからない。もしかしたらこの女子高生たちからも渡してくれなかったでしょう、と後々文句を言われるかもしれない。それも嫌だ。
 結局豪介にとってはどちらも嫌なことだった。
『仕方ない…』
 豪介は電話で話をしたらいろいろ聞かれるのも面倒だと思いメッセージだけで写真を頼むことにした。
【今日学校帰りに声をかけられたものです。銀治郎君が写真を送って欲しいと言っているのでお願いします】と、メッセージを送った。
『くっそー、くっそー、くっそー、全然面白くない。あぁムシャクシャする。なんでこんなことになるんだ』
 ピンと着信音が鳴った。
 【嬉しい。写真です】
 胸のでかさを強調したような写真が送られてきた。それも何枚も何枚も。しかも全部胸が強調されていた。豪介は無性に腹が立ってきた。男を挑発するような谷間を見せて、でも、私はそんな女じゃないのよ、これは偶然そう映っただけという印象になるような角度の写真だ。銀治郎にはこんな女がホイホイ近寄ってきて、写真を送ってくれと言えばすぐにこんな写真が送られてくる。
『なんだよなんだよ! くっそー…。顔は? 中の上じゃないか。くっそー、くっそー、全然、全然、面白くねぇ』
 豪介はあまりにも面白くなくてせめて銀治郎よりも先に…。

 山形大悟は自分の部屋で返却されたテストを見ていた。点数は70点、平均点よりちょっとだけいい点数だった。これが自分の実力なのか。学内の通常の定期テストでは常に上位10名の中に入るというのに、中間テストは5位になったのに…。三島先生の言葉がよみがえる。
「これが今のお前たちの本当の実力なんだ。テスト前に慌てて詰め込んで勉強したものが身になっていないということがよくわかるだろう。日々の積み重ねこそが一番大切なんだ。分かったな!」
 まるで自分に向けられた言葉のような気がする。しかも井上唯は満点だったという。
〈私バカだから、頭のいい人に憧れるんだ〉
 大悟は壁にかけられた写真を見た。こんな点数では頭がいいとは言えない。
『もっともっと勉強して絶対頭が良くなってやるんだ…』

6月12日 火曜日
 朝、駅を降りた花田豪介は久保田治と一緒になり二人で学校に向かった。
「よっ」
「おっ」
 周りには同じような学生がひしめき、やはり同じように2、3人のグループになって学校に向かっている。部活のこととか、誰と誰が付き合い始めたとか、今日は雨が降りそうだとかそんな会話で盛り上がっていた。
「昨日、あのメモ銀治郎に渡したの?」
「あぁ、お前帰るんだもん」
「仕方ないよ、銀治郎だから。で、どうなったの?」
「どうもこうも、ほら」
「なにこの写真?」
「銀治郎からさぁ、顔を確認したいから送ってもらえって、それで送ってもらったの」
「すげえ胸」
「な。だから銀治郎より先にこれでセンズリこいてやった」
「お前すげえよ!」
「まぁな」
「まぁまぁかわいいじゃん」
「でも、俺が先だから」
「お前格好いいよ」
「まぁな」
 久保田にすげえ、格好いいと言われ、豪介は自分のとった行動が間違っていなかったと確信する。
 学校に着き、教室の中に入るとすでに蔵持銀治郎たちがいた。銀治郎が豪介を見つけ、話しかけてくる雰囲気を察して久保田がすぅーっと豪介から離れた。
「おぅゴンスケ、写真持ってきたか」銀治郎も少なからず期待しているようだ。
「うん」
「見せてみろ」
 豪介は昨日送られてきた写真を銀治郎たちに見せる。向こうの席で久保田がにやにや笑っていた。つられて豪介もニヤついてしまう。この写真でオナニーしてやったことがほんのちょっと豪介に優越感を与えた。銀治郎と優斗と美咲が覗き込むようにして携帯を見る。すると銀治郎が「可愛くねぇな」と言って、携帯を投げ捨てるように豪介に返した。
「ゴンスケ、断っといてくれ」
「えっ?」
「断っといてくれ」
「なんで僕?」
「お前が持ってきた話なんだから、お前が断っといてくれよ」
「そんな」
「俺連絡先知らねぇもん。連絡先知ってるのゴンスケだけだろう」
「連絡先ならここに」
「いいよそんなもの、俺がもらったやつじゃないから」
「だって…」
「わかった、わかった。これは借りにしといてやるから。じゃあな」
 豪介は銀治郎達のそばから離れなかったが、もう豪介に話しかけてくることはなかった。そのうちチャイムが鳴って、豪介はすごすごと自分の席に戻って行った。そんな豪介の姿を久保田が心配そうに見ていた。

 家に帰ってきた豪介は携帯とにらめっこをしていた。学校で銀治郎に言われた「お前が断っておいてくれ」、これをどうしたものかと考えていた。
【銀治郎に写真を見せたけど可愛くないからいいって】と、正直にメッセージを送っていいものか…。
 それとも【いま付き合っている彼女ができたから、もうちょっと早かったら。だって君も十分魅力的だから】とかなんとか理由をつけたほうがいいのか…。
 それとも、【タイプじゃないって】とでもしたらいいのか…。