(男性視点2)
「行くなっ! 中山のところには行くな」
「ごめん、私やっぱり中山君のことが好きなの。さよなら和彦」
僕の叫び声と、気の毒そうな目で僕を見る美樹。そうして彼女の姿が遠ざかっていく。そこでぱちりと目が覚める。
美樹が中山とつきあい出してから、何度もそんな夢を見るようになった。あの日の放課後、中山とつきあうなと言うべきだったのだろうか。ついつい後悔してしまう自分がいた。
そんな嫌なことを忘れるためにも僕は文芸部で書いてる小説を仕上げようとしていた。今書いているのは冒険ファンタジーものだ。剣や魔法やモンスター、それとちょっとした恋も描かれている。
小説の中では何もかもが自由自在だ。恋だって、ハッピーエンドが普通だったりする。思い通りに行かないのは現実だけだ。
僕が授業の合間の休み時間に小説を書いていると、美樹が寄ってきた。
「小説は順調なの?」
美樹は遠慮がちに僕に訊いてきた。
「ああ、締め切りには間に合いそうだ」
久々だった。美樹が僕に声をかけてきたのは。二人がつきあい出してから、美樹は中山と話していて、僕の入る隙はなかった。前はしゃべっている相手は僕だったのに……。今日は中山は風邪で休みだった。
「どこまで進んだの?」
「もうクライマックスまでいってるよ」
僕がそう言うと、美樹は急に目を輝かして嬉しそうに言った。
「すごい進んだね。よかったね! 書き終わったら読ませてね」
美樹は素直に喜んでくれた。笑顔が眩しかった。気のせいか、中山といる時より、楽しそうに見えた。
「そういえば、あのくだらないアイドルのコンサートは結局行ったのかよ」
美樹はとあるアイドル男性グループのファンだったりする。チケットを入手するのが困難らしくこの間ようやく手に入ったと喜んでいたのを思い出したのだ。僕はアイドルグループの歌なんて、全く興味ないから、いつもからかうネタにしていた。
「ううん……、行ってないよ」
とたんに美樹の表情が曇っていく。
「どうして行ってないんだ」
さすがに変に思って尋ねると、美樹は一瞬口を閉ざした。何かまずいことを訊いてしまったのかと思い、はらはらしていると、美樹がそのうちまたしゃべり出した。
「中山君がアイドルのコンサートなんて行くなって言うの。嫌いなんだってアイドルとか…」
沈んだ様子の美樹を見て、僕は思わず口走っていた。
「なんで美樹があいつの言うなりになってるんだよ。おまえが前から楽しみにしてたコンサートじゃないか」
さすがにむっとした。中山ってそんな奴だったのかと。好きな人の趣味を縛るような奴だったのかと思うと腹立たしかった。
「でもね、中山君それ以外はやさしいんだよ。それにアイドルが嫌だっていうか、相手が男性だから嫌なんだと思う。嫉妬してるんだと思うの。でもそれってそれだけ私のこと好きだってことだよね」
そう言われて僕は何も言えなくなった。ほんとに中山のこと好きなら、それならいいんだ。でも僕なら、美樹の悲しむ顔なんて見たくないけれどな……。
「はい、はい、のろけだったら、よそでやってくれよ。僕は執筆で忙しいんだから」
相手にならないとばかりにわざと手の平をひらひらせ、美樹を遠ざけた。
「何っ、それ!」
美樹は笑って僕をつついた。ようやく戻った笑顔に、僕は安心しながらも、寂しさを感じずにはいられなかった。
「行くなっ! 中山のところには行くな」
「ごめん、私やっぱり中山君のことが好きなの。さよなら和彦」
僕の叫び声と、気の毒そうな目で僕を見る美樹。そうして彼女の姿が遠ざかっていく。そこでぱちりと目が覚める。
美樹が中山とつきあい出してから、何度もそんな夢を見るようになった。あの日の放課後、中山とつきあうなと言うべきだったのだろうか。ついつい後悔してしまう自分がいた。
そんな嫌なことを忘れるためにも僕は文芸部で書いてる小説を仕上げようとしていた。今書いているのは冒険ファンタジーものだ。剣や魔法やモンスター、それとちょっとした恋も描かれている。
小説の中では何もかもが自由自在だ。恋だって、ハッピーエンドが普通だったりする。思い通りに行かないのは現実だけだ。
僕が授業の合間の休み時間に小説を書いていると、美樹が寄ってきた。
「小説は順調なの?」
美樹は遠慮がちに僕に訊いてきた。
「ああ、締め切りには間に合いそうだ」
久々だった。美樹が僕に声をかけてきたのは。二人がつきあい出してから、美樹は中山と話していて、僕の入る隙はなかった。前はしゃべっている相手は僕だったのに……。今日は中山は風邪で休みだった。
「どこまで進んだの?」
「もうクライマックスまでいってるよ」
僕がそう言うと、美樹は急に目を輝かして嬉しそうに言った。
「すごい進んだね。よかったね! 書き終わったら読ませてね」
美樹は素直に喜んでくれた。笑顔が眩しかった。気のせいか、中山といる時より、楽しそうに見えた。
「そういえば、あのくだらないアイドルのコンサートは結局行ったのかよ」
美樹はとあるアイドル男性グループのファンだったりする。チケットを入手するのが困難らしくこの間ようやく手に入ったと喜んでいたのを思い出したのだ。僕はアイドルグループの歌なんて、全く興味ないから、いつもからかうネタにしていた。
「ううん……、行ってないよ」
とたんに美樹の表情が曇っていく。
「どうして行ってないんだ」
さすがに変に思って尋ねると、美樹は一瞬口を閉ざした。何かまずいことを訊いてしまったのかと思い、はらはらしていると、美樹がそのうちまたしゃべり出した。
「中山君がアイドルのコンサートなんて行くなって言うの。嫌いなんだってアイドルとか…」
沈んだ様子の美樹を見て、僕は思わず口走っていた。
「なんで美樹があいつの言うなりになってるんだよ。おまえが前から楽しみにしてたコンサートじゃないか」
さすがにむっとした。中山ってそんな奴だったのかと。好きな人の趣味を縛るような奴だったのかと思うと腹立たしかった。
「でもね、中山君それ以外はやさしいんだよ。それにアイドルが嫌だっていうか、相手が男性だから嫌なんだと思う。嫉妬してるんだと思うの。でもそれってそれだけ私のこと好きだってことだよね」
そう言われて僕は何も言えなくなった。ほんとに中山のこと好きなら、それならいいんだ。でも僕なら、美樹の悲しむ顔なんて見たくないけれどな……。
「はい、はい、のろけだったら、よそでやってくれよ。僕は執筆で忙しいんだから」
相手にならないとばかりにわざと手の平をひらひらせ、美樹を遠ざけた。
「何っ、それ!」
美樹は笑って僕をつついた。ようやく戻った笑顔に、僕は安心しながらも、寂しさを感じずにはいられなかった。