「えっ」
「なんか元気なさそうに見えたから。困ったことあるなら、言ってみろよ」
「うん……。それがその……。」
 美樹はうつむいて、小さな声で言った。
「中山君に告白されたの。つきあって欲しいって」
 一瞬僕の頭は真っ白になった。美樹が誰かから告白されるなんて、もっとずっとずっとあとの話だろうと思っていたのだ。僕はなぜか安心していたのだ。
「どう思う?」
 いきなり訊かれて僕は戸惑った。美樹はうつむいていた顔を僕の方に向けた。
「どう思うって…」
 僕はどう答えていいか分からず、言葉に詰まった。
「私、つきあった方がいいのかなあ……」
 ぼんやりと呟く美樹に僕は言った。
「それは……。それは美樹が考えることだろ」
 美樹はじっと僕を見た。やっぱりその瞳は悲し気だった。
「ほんとにそう思う?」
 僕の胸はうずいた。今言うべき言葉はなんだろう。考えようとしたけれど、どうにもならなかった。だって中山は美樹に告白してしまったのだから。なぜだか急に僕は投げやりになった。
「そりゃそうだろ。美樹がつきあいたいか、つきあいたくないかそれだけだろ。美樹の気持ち一つだ」
 僕の言葉を聞いて、美樹はゆっくり頷いた。
「分かった……。そうする」

 その放課後のことがあってから、程なくして中山と美樹はつきあい始めた。