(男性視点1)
僕は美樹のことがずっと好きだった。でも美樹には中山がいて手の届かない存在だった。でもずっと夢見ていた。美樹の隣に僕がいることを……。


美樹とは幼稚園の頃からの幼なじみだ。色白で三つ編みの似合う女の子は、きゃっきゃっと笑うとえくぼが浮かんだ。その笑顔が見たくて、いつもからかってばかりいた。でも好きだと口に出すことはしなかった。それは僕の周りの友人達が、みんな美樹に恋をしていたからだ。皆口々にそう言うのを聞いたわけじゃないけれど、一緒にいればすぐに分かった。こいつは美樹のことが好きだなってことが。

中山もその一人だった。でもあいつは他の奴らと違って、行動力があった。あれは僕らが同じ高校に入って、まもなくのことだった。同じクラスだった美樹が放課後、教室の中で一人たたずんでいた。夕暮れ色に染まった机の上に手をついて、暮れゆく空を見つめる瞳はなぜか悲し気だった。僕はたまたま忘れ物を取りに教室に寄っただけだったけど、そんな美樹を見かけて声をかけずにはいられなかった。
「美樹」
 僕の声に、はっとしたように彼女は振り返った。
「和彦、いたんだ……」
「う、うん。ちょっと忘れ物しちゃって」
 それは事実だったから、僕は急いで自分の机に行くと中から数学の教科書を取り出した。
「今日数学の宿題あったじゃん。これないと困ると思ってさ」
「そう、数学」
 笑顔になろうとしているけど、美樹の表情は頑なだった。
「美樹は……。美樹は何かあった?」