「はっ!ち、遅刻!」

シルビアはハッと目が覚めて寝すぎた!と飛び起きた!

「あ、あれ?」

そして自分のいる場所に気が付き目を見張る。
周りを見回すが見覚えがない場所にいた…豪華な部屋にサーっと血の気が引き、顔を真っ青にした。

「こ、こここ何処?え?私なんで…」

昨日の事を思い出そうと深呼吸して少し落ち着く。

体は…大丈夫。

自分を見下ろして服の乱れも無いのをみてほっとした。痛みなどもないようだ。

「えっと…私は学園に通ってて…アルを散歩させてから…ご飯を食べて…」

アル?

アルという犬の名前に色々と思い出してきた。

そうだ…自分はシルビアとして産まれる前に違うところで犬を飼ったいた…いじめられっ子の地味な女の子だった。

「はっ…」

鼻で笑ってしまう。
生まれ変わっても変わってない、今もいじめられていて地味で…

シルビアは長い前髪の間から自分を鏡で見つめた。

あの時と同じような姿…陰気な長い髪にボソボソと喋る癖。

そんな私を心配するようにいつもそばに居てくれたアル。

「ダメだ!こんな事ずっと繰り返してたらアルが心配する」

だからあんな夢を見るんだ。
まるでリクが人間になったような男の人が心配そうに自分を覗き込む夢…

シルビアは部屋の中を探し回って刃物を見つけた。

そしてそれで前髪を掴むとバッサリと髪を切った。

パーッと視界が明るくなった。

夢の中で心配そうに見つめていたアルの瞳がずっと頭に残っていた。

アルを心配させないためにもしっかりしないと…

「でもまずはここが何処か知らないと…」

シルビアはそっと扉に近づいて外の様子をうかがおうとすると…

バタバタ!

廊下を駆ける足音が聞こえてきた…音はどんどんシルビアのいる部屋へと近づいてくる。

まさかと思っているとバタンっ!と勢いよく扉が開いた。

「きゃっ!」

シルビアは驚いてベッドの横にサッと隠れる。

怖くて様子をうかがえないでいると声をかけられた。

「シルビア?」

優しそうな男の人声にシルビアはそっと顔をだした。

すると夢でみた男の人と目が合う、男の人はシルビアをみてほっとしたように微笑んだ。

「よかった、目が覚めたんだね」

その人はゆっくりとシルビアに近づいてきた。

シルビアはビクッと肩を揺らして一歩下がった。

「だ、誰ですか…」

警戒するように離れてじっと睨みつける。

すると男の人はポッと頬を赤らめた。

「そんなに見られると…警戒してる姿も可愛いな…あんなにも可愛いとやはり心配だな…」

「え?」

何かブツブツと呟いているがよく聞こえない。

「えっと、てっきり知ってると思ったんだけど…僕は君の義兄のアルバート。アルバート・シスレーだよ。君はシルビア・シスレーだよね」

アルバートさんはそう言って笑いながら唖然とするシルビアの手を取った。

「え?シスレー?シスレーってシスレー公爵とは関係ないですよね?」

「それは僕の父だね。君のお母さん、まぁ僕の義母になるんだけど…彼女と僕の父が結婚したんだよ。だから僕は君の義兄になるんだ」

そう言ってシルビアの体を引き寄せて大事そうに痛いところなどないか確認される。

「え?ちょっと待ってください…聞いてない。お母様が結婚?しかもシスレー公爵様と?」

「シルビア、様はいらないよ。父は君の義父になるんだからね。あっでもパパとかは呼ばないで欲しいかな」

理解が追いつかずにグルグルと頭の中で考える。

これって盛大なドッキリ?いや、この時代にそんなものないか…お母様が結婚?だって寝たきりみたいな状態だったのに…

そう思っていると遅れて、慌てた様子のお母様とシスレー公爵が現れた。

「シルビア!」

お母様は私を見るなり涙を流して駆け寄ってきた。

「お、お母様…お体は大丈夫なの?」

しっかりとした足取りにシルビアは戸惑う。

「ええ、ごめんなさいね…ずっと心配をかけて…でももう大丈夫、こちらのシスレー様に出会えて私は救っていただいたの…それよりもシルビアは平気?学園から倒れったって連絡があって…」

シルビアの顔を両手で掴んで心配そうに顔を覗き込む。

「シルビアが戸惑っているよ、ちゃんと説明してあげないと」

シスレー公爵様がお母様の肩にそっと手をかけてシルビアをみて微笑んだ。

お母様は隣に立つシスレー公爵を見つめて頬を赤らめる。

「初めましてシルビア、挨拶が遅れてしまってすまないね。君は学園に入ってしまいなかなか会える機会が無かったからね。とりあえずここに座りなさい」

お母様と一緒に近くのソファーに座らされた。

シスレー公爵が申し訳無さそうに話しながらお母様の手を掴み私の頭を撫でた。

「君のお母さんのことは何も心配しなくていいよ、私が生涯責任を持って君のお父さんの代わりに愛し抜くからね。君も幸せにしてみせるよ」

「父上、それは僕がやりますからご心配なく」

するとアルバートさんがシスレー公爵の手をやんわりと払って私の体を引き寄せた。

「わ、私は大丈夫ですから!」

シルビアはグイッとアルバートさんの体を引き離した。

「アルバート、シルビアは年頃の娘なんだからもっと丁寧な対応をしなさい。全くせっかく女性に興味を持ったと思ったら…」

シスレー公爵がアルバートさんを注意してため息をついた。

「シルビア、何か困った事があったらいつでも私のところに来なさいね。君のことは本当の娘のように思っているよ」

シスレー公爵の包み込むような優しい眼差しに思わず頷いてしまった。

「シルビア、僕の事も頼ってね。僕はやっと君の兄になれたんだから」

「あ、ありがとう…ございます…」

シルビアはそう答えるので精一杯だった。