「あら、ごめんなさい」

シルビアは隣の席の令嬢のセーラに肩をトンっと押された。

その拍子に手に持っていたノートや教科書を落としてしまう。

シルビアは淡々とそれを拾ってセーラを見上げて笑った。

「大丈夫ですよ。このくらい問題ありません」

「あらそう?よかったわ」

取り巻き達がセーラの後ろからクスクスと笑いシルビアの様子を覗き込む。

「では私はこれで…」

シルビアはペコッと頭を下げると三人の前からスタスタと歩き去った。

「ふふ、これで少しは自分の身の程をわきまえるかしら」

セーラはすごすごと退散するシルビアの背中を勝ち誇ったように見つめた。



「ふー、今日はここでご飯にしましょ」

シルビアはここの学園に通う一年生だ、ここではこの国の貴族のご子息やご令嬢が15歳になると通い出す。

全寮制で家との交流は休みの時だけ。

その際メイドや従者は連れてきてはならない、まぁシルビアには連れてこれるような従者はいなかった。

シルビアの家は貴族の中でも下っ端…貴族と言ってもピンキリなのだ。
最初は家柄も良かったのだが父が流行病で亡くなってしまってからシルビアの家は没落していく。

お嬢様でずっと甘やかされてきた母親は父が亡くなった事で精神的に落ち込んでしまい寝たきりになってしまった…

そんな母には家を任せられないと親戚の叔父が家を継ぎ私達は家を追い出された。

貴族の称号と気持ち程度のお金と屋敷を宛てがわれて暮らしている。

なのでセーラはこの学園に入ったときから立場が一番下だった。

そんな立場からシルビアはなるべく目立たないよう地味に過ごし一人で生きて行こうと勉強に励んでいた。

しかしそのおかげで成績が優秀なおかげで一部の令嬢に目をつけられるようになってしまった。

「はぁ…本当に面倒な人達…いつの時代もいじめは変わらないのね…」

思わず口から出た言葉にシルビアは口を押さえた。

いつの時代って何?
なんで私そんな事知ってるの…

そう思った瞬間に晴れていた空に大きな厚い雲が現れる。シルビアは雷で撃たれたような衝撃にその場に倒れ気を失ってしまった…


「はっ!」

シルビアが目を覚ますとそこは学園の保健室だった。

「ウッ…」

頭の痛みに顔を顰めていると保健室の先生が寄ってくる。

「シルビアさん大丈夫?」

心配そうにそっと手をおでこに当てられる。
少し冷たい手が気持ちよかった…

「まだ熱があるわね。シルビアさんは庭で倒れてたのよ、どうしましょう家に連絡して迎えに来てもらう?」

「いえ…家は…」

迎えに来てくれる人など誰もいないと首を振った。

すると振った頭のせいでクラっと立ちくらみがする。
先生に支えてもらいまたベッドに横になった。

「寮でゆっくり…してれば、大丈夫です…」

「でも熱もあるし、一人で何かあったらどうするの?」

それは…

「やっぱりお家に知らせますね、ちょっと待っててね」

先生にそんなことをしても無駄だと言おうとするが言葉が出ない…シルビアはそのまま、また気を失ってしまった。


シルビアは夢の中である出来事を見ていた…それは黒髪の少女が学校で一人でご飯を食べている夢だった。

場面は早送りのように流れる…女の子はいつも一人で学校で言葉を発することも無い。

女の子の友達は家の犬だけだった。

真っ白で金色の瞳の犬はいつも女の子のそばに寄り添っている。

女の子が泣いている時は涙を舐めてまるで慰めているようだった。

女の子にとってその犬だけが自分の拠り所だった…

場面は流れ少女が少し成長する。
すると犬の様子が少し変わっていた…艶々だった毛はボロボロになり体格はがっしりしていたのにやせ細っていた。

いつも寝ているがその女の子がそばにくるとグッと辛そうな体を起こして凛と立つ姿にシルビアはいつの間にか涙を流していた…

「アル…」

シルビアは犬の名前を呼んだ。

ピクッ!

すると夢の中の犬がじっとシルビアの方を見つめる、金色の瞳で優しく見つめていた。

その瞬間シルビアの体は女の子の中にいた。

「あっ…」

シルビアは涙を流しながら目を覚ました…

そうだ私はアルの飼い主の女の子で〝凛〟と言う名前だった…他の事はよく覚えていないがあの後すぐにアルは亡くなってしまって…

「いたっ…」

その先を思い出そうとするが思い出せない。

でも確かにあの時自分はアルと暮らしてきたのは何となく覚えている。
アルは自分が産まれる前から家にいて私を妹の様に可愛がってくれていたのだ。
大きくなってもその関係は変わらずにアルはずっと私のそばにいてくれた。

シルビアは自分の変化に唖然とした。
前世の記憶と今のシルビアの記憶がごちゃ混ぜになり混乱している。

「シルビア!大丈夫かい?」

すると目の前にアルと同じ綺麗な金色の瞳の男の人が心配そうな顔で覗き込んでいた。

泣きそうなほど心配するその瞳は優しく、サラと動く白い髪がアルを連想させる。

「アル…」

シルビアは懐かしさに目を潤ませてその男の人の頬にそっと触れた。

「大丈夫、私は大丈夫だよ…」

すると男の人の目が大きく見開き驚いている、そしてふっと嬉しそうに笑うと上からシルビアの手をおおった。

「よかった…」

男の人の嬉しそうな顔に安心してシルビアは再び眠りについた。



シルビアの寝る姿に男はそっと布団をかける。
顔を見れば泣いていたのか痕がうっすらと残り少し濡れていた。

指の先で起こさないようにそっと撫でると気持ちよさそうに手に擦り寄ってきた。

「可愛いシルビア、君のことは僕が守るよ」

シルビアのおでこにそっとキスをして、起こさないように音を立てずに部屋から出ていった。