「今、家族は海外にいる。
今年の四月から仕事の都合で。
ただ、俺は引っ越したくなかったから、
そのまま地元で暮らしてるけど。
まぁ、一年後には戻ってくるから、
また一緒に暮らせるけどな」
空澄……。
それはそれで、問題なのでは……?
年頃の男子の家に。
おじゃまする、年頃の女子が。
そういうのは。
こういう場合。
どう返答するのが正解なのだろうか。
せっかく。
言ってくれている、親切に。
空澄が。
だから。
お言葉に甘えて。
『お願いします』
いいのだろうか、そう言った方が。
って。
違うか、やっぱり。
良いわけがない。
本当に甘えて。
空澄の親切な気遣いに。
「彩珠、いつまでベンチに座ってるんだよ。
寝ないと身体もたないぞ。
俺も眠いから早く行こう」
いいのだろうか、おじゃまして。
空澄の家に。
迷っている、その返答に。
そう思っている間にも。
空澄は少しだけ歩きかけていた。
「あのっ、
私、まだ何も言ってな……」
「いいから。
早く家に帰って、くつろぎたい」
私が言いかけた言葉。
それが言い終わる前に。
空澄はそう言い。
歩きかけていた方向。
そこから私の方へ向き直り。
歩いてくる、私のところに。
私の目の前に来た空澄。
空澄は私の腕を掴み。
「立てるか」
そう言って。
引き上げた、やさしく。
私のことを。