「こんなにも素敵で良い世界。
 だから忘れることができている。
 辛くて苦しい現実を。
 『心が呼吸できる世界』(ここ)にいるときだけは」


 確かに。
 神倉さんが言うように。
『心が呼吸できる世界』(ここ)にいる。
 そのときだけは。
 消えている、頭と心の中から。
 辛くて苦しい現実が。
 思える、そのように。


「と言っても、
 今、こうして話してる時点で
 思い出してるということになるけどな」


 神倉さんはそう言って。
 顔を少し上げ。
 見つめた、天井の方を。

 だけど、すぐに元に戻り。


「だけど、こうしてみんなに話をしてる。
 ということは……話すとき、なのかもな。
『心が呼吸できる世界』が見えて
 来るきっかけになったであろう理由を少しだけ」


 神倉さんの瞳は真剣そのもの。


「俺も……話そうかな、そろそろ。
 これは良い機会かもしれねぇな」


 そう言った、那覇も。


「私も……話してみようかな、少しだけ。
 これが何かのきっかけになるかもしれない」


 佐穂さんも。


「僕も……話してみようと思う。
 そうしたら少しだけ何かが変わるかもしれない」


 鈴森くんも。


「…………」


 私は……。

 正直なところ。
 わからなかった、どうしていいのか。


「じゃあ、まず私から話をしてもいいか」


 神倉さんの言葉を聞き。
 那覇と佐穂さんと鈴森くんは。
「うん」
 そう言って頷いた。