「……ごめん、彩珠(あじゅ)さん。
 ……利用……していた彩珠さんのことを」


 何秒かの沈黙。

 それを少しずつ破るように。
 口を開いた、静かに。
 真碧(まみ)さんが。


 真碧さんの表情(かお)は。
 申し訳ないという気持ちと気まずさで歪み。

 視線は。
 逸らしている、私から。


「彩珠さんは議員の娘。
 私は普通の会社員の娘。
 彩珠さんと繋がれば私の立場を変えることができると思った」


 やっぱり。

 そういう思いだった。
 真碧さんは。


「だけど、
 本当はわかっていた。
 彩珠さんと繋がっても
 自分の立ち位置を変えることなんてできないことを」


 わかっている、ちゃんと。
 真碧さんは。

 現実という厳しさを。


「そんな現実に、だんだんと腹が立つようになってきて、
 正直言って、ただのストレス発散だった。
 彩珠さんがいないときに、
 彩珠さんの……陰口……を言うようになった」


 やっぱり。
 わかっていた、真碧さんは。
 現実という厳しさを。



 ただ。
 できなかった、受け止めることが。
 その厳しさを。


 だから。

 言う、私の陰口を。

 そうすることで。
 保とうとしていた、心のバランスを。
 そう思う。


「だけど、
 彩珠さんの陰口を言っても全くスッキリしなくて。
 それどころか、罪悪感が湧いてきた」


 きっと。
 根は悪い人ではない。
 真碧さんは。

 だから。
 抱いた、罪悪感を。
 そう思う。