ついさっきまでの騒動。


 それが、まるで噓のように。

 今はシンと静まり返っている。



 聞こえてくる、その中で。

 それは。
 風で揺られる緑の葉たちが触れ合っている音。
 スズメが鳴いている声。







 その音、その声。

 聞き流している、それらを。
 呆然と立ち尽くしたまま。


 ある後悔を抱きながら。





 さっき。
 買いに行った、ジュースを。

 そのとき。
 彩珠(あじゅ)は。
『私も一緒に行く』
 そう言っていた。



 あのとき。
 買いに行く、ジュースを。
 彩珠と一緒に。

 そうしていれば。
 連れて行かれなかった、彩珠は。
 そういうことではないだろうか。


 そう思うと。
 暴れ出す、激しく。
 頭の中で。
 後悔ばかりが。










『心が呼吸できる世界』
 そのルームメイト全員の連絡先は知らない。


 だから。

 連絡しよう、彩珠に。

 そう思っても。
 できない、連絡することが。



 会いたい、彩珠に。
 話がしたい、彩珠と。

 だけど。
 見つからない、その手段が。


 一体どうすれば……。



「……ひとまず帰らなければ」


 考える、公園(ここ)で。

 そんなことをしていても。
 思いつくわけではない。
 何か良い方法が。


 いったん家に帰って。
 冷静になってから考えることにしよう。



 そう思い。
 歩き出した、家へ向かって。