彩珠(あじゅ)さん、
 御実家に帰りましょう」


 もがいている、必死に。







 そんなとき。
 聞こえた、他の人の声が。


 そうして。
 その人たちが。
 掴んだ、私の腕を。

 した、そんな感触が。





 見ると。

 お父さんは。
 離れていた、いつの間にか。


 代わりに。
 お父さんの部下の武藤さんと北山さん。
 二人が私の腕を掴んで。
 している、連れて行こうと。
 停めてある、車が。
 そちらの方へ。



 強引ではない、お父さんより。


 だけど。
 男性二人が連れて行く力。

 それは。
 できない、抵抗することが。
 女子の私では。


「武藤さんっ、北山さんっ、
 お願いっ、離してっ」


 そう言った、必死に。


「それはできません。
 彩珠さん、どうか先生のおっしゃる通りになさってください」


 だけど。
 離してくれそうにない。
 武藤さんと北山さんは。







 確かに。
 そう、だよね。

 無理もない、と思う。



 武藤さんと北山さんは。
 お父さんの部下。

 だから。
 仕事として。
 している、言う通りに。
 お父さんの。


 それは。
 仕方がないこと。





 だけど。

 やっぱり嫌。


 このまま大人しく連れて行かれるなんて。


「……空澄(あすみ)……」


 助けてっ。
 空澄っ。