「今まで、どこに居たんだ。
 お母さんからは『友達の家に泊まっている』と聞いているけど、
 詳しいことも何も言わないで、
 いつまでも、よその娘を泊めさせるなんて、
 どうせ、ろくな友達じゃないだろ」


 やっぱり。

 お父さん(この人)は。
 言わない、悪くしか。
 私や私の周りの人たちのことを。


「大切な人のことを悪く言わないでっ」


 固まっている、身体が。
 恐怖で。

 それでも。
 声を出す、なんとか。


「まったく。
 お前には迷惑かけられっぱなしだ」


 聞いていない。
 お父さん(この人)は。

 私の話なんて。
 少しも。


「お前は
 これ以上、私に苦労をかけさせるな」


 嫌だ。
 もう。


「……出ていく」


 心の限界。


「私、家を出て行く」


 満杯で溢れている。





 なぜだろう。


『家を出て行く』
 言った、その言葉を。

 その瞬間。
 身体がスッと軽くなり。
 可能になった、動くことが。



 だから。
 ベンチから立ち上がり。
 歩き始めた。

 お父さんから。
 離れる、少しでも遠くに。
 そのために。