『再婚したい人がいるの』

 二か月前に母が突然そう言った。

 そして、連れてきた男性を見てめちゃくちゃ驚いた。

 だって母の相手は私の担任教師だったからだ。

 三者面談で近澤が母に一目惚れでもしたのかと思ったけれど、聞けば母と近澤はもともと同級生らしい。

 中、高と同じだったとか。

 今年五月の三者面談で再会、お互いにバツイチ、しかもお互いに配偶者を事故で亡くしている、という共通点。

 そこで親近感を覚えてうんたらかんたら。


 そんなわけで、先月に引っ越しをして新築の家で近澤と同居が始まったのだ。

 母はもう10年以上も独り身だったから、同級生の懐かしい男性を見つけて幸せなのだろう。

 近澤だって、母は童顔で娘の私が言うのもなんだけどかわいい感じの人だ。

 だからきっと『学生時代と変わらない』と思って喜んで再婚したのだろう。

 だけど私からしてみれば、40歳のおっさんと同居、しかも担任教師だなんて気まずいどころの話ではない。

 ただの地獄だ。


 それでも、近澤がイケメン教師ならばまだいい。

 だけど近澤は、別にイケメンでもないし、体育教師特有の声のでかさに加え、年中に日に焼けた無駄に筋肉がついた体型なので、存在そのものがうっとおしいのだ。

 おまけにおでこが広くなっているのは、もともとじゃなくハゲる寸前なのだろう。

 体型は普通なのだけど、これで中年太りでもしてきたら腹に一発蹴りでも入れてやるつもりだ。

 もし、近澤が外見が残念なだけなら別に私だってこんなに冷たく当たらない。

 いつも偉そうだし、頑固だし、冗談通じないのがもう嫌。

 ってゆーかすべてが嫌だ。

 家の中では一応、義父と言ってやってるけど、母には目を覚ましてほしいと常々思っている。

「そうか……。目が覚めるような何かがあれば、お母さんだって考え直すよね」

 私は大きく頷いて、それからニヤリと笑った。