私は早乙女の彼女ではない。
同じクラスだし、席は隣だし、おまけに最寄り駅は一つ違うだけだから、自然と仲良くなっただけだ。
お互いに恋心はない。
それに、私はそもそも早乙女には興味がないし。
「莉緒ちゃんの恋って不毛だよね~」
早乙女が突然、そんなこと言いだしたので、私は奴を見上げる。
「は? 何の話よ」
「なーんでもない。お父さんとは仲良くしなよ」
早乙女はそう言ってにっこりと笑う。
私の背後にいた女子が「きゃー」と黄色い悲鳴を上げた。
私が何かを言い返そうとする前に、早乙女がこう付け加える。
「あ、でもちゃんと家族として、だよ?」
私はバカバカしくなって、車窓の外を眺めながら鼻で笑う。
「なーに言ってんだか」
視界に見えたのは、ぽっかりと浮かぶ大きな入道雲だった。