「最近、莉緒ちゃんってさ、吹っ切れたって顔してない?」

 あるお昼休み。

 廊下の隅の自動販売機でジュースを買っていると、早乙女がそう聞いてきた。

「失恋したからかなー」

 そう言ったものの、心は随分と軽かった。

 近澤莉緒になってもう半月以上が経とうとしているから、嫌でも現実は突きつけられるのだ。

「ふーん。失恋で女の子ってきれいになるんだね」

「早乙女、あんた私のことからかってんの?」

「いや、本音だよ」

 早乙女はこちらをじっと見てから言うと、こう続ける。

「ねえ、俺が近澤みたいな大人になったら、莉緒ちゃんは振り向いてくれる?」

「私に聞くなよ」

「だよねー」

 早乙女はそれだけ言うと、何も買わずに教室に戻って行った。

「変な奴め」と呟いたところで、廊下を歩いてくる近澤と目が合う。

 そして、奴の視線は私のスカートへ。

「おい、まーた短くしてんのか」

 睨みつける近澤に、私はにやりと笑ってこう言う。

「だって、校則違反すれば私のこと、見てくれるでしょ」

 ため息をついた近澤に、私はうつむいた。

 この恋を卒業式まで続けることはできない。
 
 だから、私が自分からこの恋から卒業しなきゃ、ダメなんだ。
 
 ちゃんと笑って、新しい一歩を踏み出さなきゃ。

 そう思って私は、意地悪っぽい笑顔をつくってこう言う。

「私、お父さんのこと大好きだもん」


 了