写真っぽい、と思ってそれを引っ張り出す。

 本当に1枚の写真だった。

 それを見て私は思わず固まってしまった。

「何をやってるんだ」

 背中からかけられた声に、私は心臓が口から飛び出そうになる。


「辞書を貸してほしいならそう言えばいいだろ」

 近澤はキッチンでフライパンを自在に操りながら言う。

 奴の部屋を漁っているのがバレた私は、咄嗟に『辞書、ないかなと思って』と嘘をついた。

 そして近澤はまんまと騙されたのだ。

 私はズボンのポケットの中を気にしながら、答える。

「だって昼前まで帰ってこないって言うから」

 ダイニングにソースの良い香りが漂い、近澤がコンロの火を止めた音が聞こえた。

「佐藤、お前、そんなに勉強熱心だったか?」

 真顔でそう聞いてくる近澤は、トレイに二人分の焼きそばと麦茶の入ったグラスを持っている。

 これは部屋を漁ったの、バレてるな……。

 さすがに辞書を貸してほしい、だなんて言い訳は無理があったか。


 そんなこんなで、まるでお通夜のような昼食が始まり、私が焼きそばを半分ほど食べた終えたところで近澤が口を開く。

「俺の部屋を漁って何をしていたのか知らんが、まあ、佐藤の考えそうなことはわかる」

 私は動揺しているのを悟られないように、無言のまま焼きそばを口に運ぶ。

「今回のことは水に流す。お前も色々と複雑な心境なんだろう」

「だから?」

「だから」

 近澤はそこで言葉を切ってから、わざとらしく咳払いをしてから続ける。

「明後日は早く帰ってこい」

「は? なんで」

葉月(はづき)さんは式は挙げなくていいと言っていたけど、明後日は葉月さんとは婚姻届けを出そうと決めている」

「そう」

「それで、今日は結婚指輪を取りに行ってきたんだ。ついでにケーキも予約してきた。明後日はパーティーをしようと思う」

 照れくさそうに言う近澤の声が何だか遠くに聞こえる。

 息苦しい。

「だからその、葉月さんと莉緒の三人でパーティーをしたいんだ。祝ってほしい」

 その声を聞いた途端、意識がもうろうとした。

 箸が床に落ちる音が遠くで聞こえた気がする。

「莉緒?」

 近澤が私を呼ぶ声を聞いて、私は何だか妙に安心した。

 ああ、そうだ。

 私、この感覚を前にも味わったことがあったっけ……。