鮮やかな雲が、風と共に流れていく。
夕暮れを舞いながら俺は、周囲の魔力濃度が高まっていくのを感じていた。
『魔剣、始動。秩序封印、解除』
それは、魔力の暴風雨だった。
俺の周りにだけ、嵐が巻き起こっている。
『何があっても絶対振り落とさないからな、ゴシュジン!』
『防御はお任せあれですわ! 根性ッ!』
ベルとルーチェは飛行し、敵を少しずつ減らしていく。
俺とヒナは魔力を通わせて、ただひたすら集中していた。
『――――原点回帰。
形天海、不要。帯着土、否定。不確定凝固光、完全無効』
魔力は高鳴る。渦を巻く。
幻想的。もしくは蠱惑的なまでの魔力粒子が、俺たちの世界の全てだった。
『帰還域世観から、不帰還域世観へ。
密接世界域の膜を持ってして、全ての物質を無に帰さん』
かつて。
世界が歪みに満ちたとき、一つの剣が産み落とされたという。
それは世界を滅ぼし、時に世界を救い、混沌も秩序も、善も悪も超えたところに、概念として穿たれていた、至高にして究極の一振り。
「いしきが……」
流れ込んでくる。
神々。よりも、更に前の時代なのか。
断片的な魔剣の記憶が、俺の頭の中を駆け巡る。
魔王――――のような、ナニカが見える。
一振りで破滅。一閃で殲滅。
一刺しで消滅し、一夜にして壊滅を与える魔の剣が、そこにはあった。
「――――関係ないね」
過去に何があったのか。どんな扱いをされていたのか。また、どんな封印を迎えたのか。
そんなものは、すでに俺たちには関係が無い。
魔剣ヴァルヒナクトは新生され、
今はこうして、俺と共に面白おかしく生きている女の子だ。
こんなにも、あまりにも可愛らしい、幼女なのだから。
「その名は、魔剣・ヴァルヒナクト!」
『世界に陰りと混沌と、そして――――』
きらめきと共に。
彼女は高らかに、勝鬨を上げた。
『おにいちゃんに、勝利をもたらす希望の剣だ!!』
俺は。
魔力を纏い、竜の背中に悠々立って、
剣を構えた。
風景が。空間が。
とてもスローモーに見える。
迫り来る爪も。邪悪な翼も。
魔力の残滓も。遠くの風景さえ。
全部が等しく止まって見えたような気がした。
「おぉぉぉぉッ!!」
咆哮を上げる間さえも、時間は止まっているように思える。
自分の瞳孔が開きっぱなしなのが分かる。
体中の血液が沸騰したように熱く、その中で、内側で、更に何かが回る。
今までに感じたことの無い、魔力の昂り。魔力の流れ。魔力からの――――支配。
頭の先から爪の先まで、きっちりくっきりと神経が通っているみたいで。その神経すべてに、さらさらの魔力が流れているような、そんな感覚。
――――器用に。
小器用に。
いつものように、魔力を使い分ける。
罠解除の要領で、ルーチェに。初級攻撃魔法の要領で、ベルに。回復や解毒魔法の要領で、ヒナに。
鋭敏になった肌感覚と、日常的に使ってきた魔力が、親和性良く回り始める。
配分。使い分け。切り替え。
約四十年間使い続けてきた身体と思考の癖は、とてもありがたいことに、意識的と無意識的の間で、上手いことソレを実行してくれていた。
時間は――――まだ動かない。
鮮明なのは、意識だけ。
止まった時間の中で、感覚と意識だけが、光速で動き出しているのを感じる。
「オォォォッッッ!!」
もう何体目かも分からない、ガーゴイルを両断する。
しかしながら恐ろしい。一撃でも、一体でも切り損ねたら、即アウトになるゲームをしているようなものだ。
今沸き上がる熱量に名前をつけるなら、間違いなく『勇気』である。
それくらいに今俺は、危うい綱渡りをしていると自覚している。
「けれど――――」
ベルもルーチェも、勿論ヒナも。
俺の味方で、力になろうとしてくれている。
だから俺も、前だけを見据える。力を、行使し続ける。
「はぁぁぁぁッ!」
両手で握りしめる魔剣を振るう。
一撃一撃が途轍もない膂力。
一斬一斬が並外れた破壊力。
次々と襲い来る魔物たちを、それを上回る速度で動き、一刀の下に切り伏せていく。
すでにベルの速度は最大だ。
目まぐるしすぎて目が回る。
超高速戦闘の世界に、今、俺はその身を置いている。
ルーチェの魔法支援により、視野は異常なほど広がり、この広大なまでの空にいるのに、隅々まで情報が頭に入り込んできた。
とにかく、今の俺は強い。
人でありながら、ヒトではなくなったかのように。
こいつらが見ている世界。
ヒナが見ていた世界。
そしてこれから、俺が見ていくかもしれない世界だ。
「おっ、お、お、お、お、お、お………………ッッ!!」
のう の しょり が、
おいつか ない。
ヒトの身でありながら、ヒトではないモノの力を振るっているのだ。そりゃあ、のうも、からだも、だめになる――――
『ゴシュジンッ!』
『旦那様ッ!』
「……お前ら!?」
ヒナの力に押しつぶされそうになっていた俺の意識を、彼女らの声がせき止めた。
『おにいちゃん! 大丈夫だよ! 使って!』
「ヒナ……」
『何があっても、おにいちゃんを闇には引き込まないから!』
一瞬の後。
闇抱きが思い起こされる。
「……はは、大丈夫だ、ヒナ」
『おにいちゃん?』
「闇に染まろうがなんだろうが、俺はお前らと一緒にいるからな!」
――――あぁ、
元気は出た。
気力は戻った。
いいさ。やってやる。ここでやらなきゃリーダーじゃねえよ……!
「一滴残らず……、もっていきやがれぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」
最後の力を、全て魔剣へと注ぎ込む。
黒く。
黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く……どこまでも黒色の魔力が唸り、膨大に膨れ上がったかと思うと。
それはまるで暴発するかのように魔力エネルギーを発して、全てのガーゴイルたちを消滅させた。
邪悪とも言えるどす黒い一筋の魔力光は、街の空を漂い、次第に霧散していく。
「………………あ、はは、は、やったの、か?」
あまりの威力に変な笑いが出てしまう。
その一瞬の後、手に残った熱が、任務達成への実感に変わっていった。
静かに空を舞いながら、俺はひと時、勝利の余韻に浸っていた――――
『あ、ヤバイぞゴシュジン』
「ん? 何が?」
ベルの言葉に俺が首を傾げると、後の二人も『あ、本当だ。まずいね』『そうですわね』と続いた。
『ベルたち……、今ので完全に力使い切ったみたい。この姿維持できなくなる』
「はい!?」
『もう……、無理だぞ~……』
疲労感のある声と共に、ぽんっという可愛らしい音がして――――三人の姿は、ニンゲン状態に戻った。
服は着ているな。あぁよかった。安心した。……などと思っている場合では無い。
ここは街よりはるか上空。
そう、空の上。
鐘付き塔よりも更に上へと上昇している高さなのである。
「………………は、」
人は……、この高さの落下から、耐えられるものではない。
だから。
「おにいちゃ――――」
「……大丈夫だ!」
俺は落下しながらも、冒険者バックから、みんなに上級者用アイテムを渡した。
「みんな! その石に魔力を通して、砕け!」
「うん――――!」
四つの音が、こだまする。
手に持った石が柔らかく砕けると同時。
俺たちの身体は淡い魔力に包まれ、ゆっくりと中空を舞っていた。
「わっ……! す、すごいですわ!」
「おぉ~……。翼で空を飛んでるときとは、また違う感覚だぞ」
「はは……。念のために、財産つぎ込んどいてよかったよ……」
それは。
飛翔の加護。
上級ダンジョンなどに発生する、飛行しなければたどり着けないような場所へ行くための、
――――とても高価なマジックアイテムである。
「最後の最後……、役に立ったな……」
苦い経験と共に、中空を舞う。
だんだんと降下しながらも、俺は隣を舞っているヒナと、手を繋いだ。
「ヒナ……」
「……えへへ」
彼女の脈動が伝わってくる。
眼鏡の奥の大きな瞳と、目が合った。
「ありがとう、おにいちゃん。信じてくれて」
「当たり前だろ、ヒナ。お前は俺の、仲間なんだから」
手は、重なる。
更に二つ重なって、四人になる。
魔剣と魔竜と魔法と、人間。
俺たちが救った街へと、
四人でゆっくり、着地した。
「さぁて……、なんて説明したもんか」
取り囲む喧騒。
向けられる視線。
降り注ぐ歓声。
帯びた熱。
ぼろぼろに薄汚れた身体で、しっかりと地面に立って。
俺は苦笑しながら、
前へと進んだ。
あのあと。
夕暮れと共に、俺たちは人々のざわめきに囲まれる。
「悪魔か!?」「反逆者だったのか!?」「いや、救ってくれたんだろ!?」「あれ冒険者のドリーだよな?」「まわりの幼女かわいくない?」「踏んで欲しい」「罵倒してほしい」「貢ぎたい」「匂いを嗅ぎたい」「孫の嫁にきてくれんかのう……」「あいつダンジョンで死んだとか言われてなかったっけ?」「いやレオス裏切って、一人だけ帰って来たんだろ?」「幼女の小さなおててはぁはぁ」「膝裏がえっちだよね」「軍の見解では、幼女は非常にえっちなのだと」「あぁ。幼女が三人そろってえっちなのは間違いない」「つまり幼女に囲まれてるドリーもえっちだということ?」「一縷の隙も無い完璧な理論ですね」「とりあえず通報しておこうぜ」「大丈夫だ通報しておいたぜ」
そんな調子で、ざわざわと言葉は踊っていく。
中には、魔法を操り、剣を振るい、竜を駆るその姿はが、まるで伝説にある竜騎士のようだったと言い出す奴も現れる始末で。
「いやそんなんじゃ無いから。なんだかんだ、高いところって怖いから」
「楽しそうだったぞゴシュジン」
「アレはハイになってただけというか何と言うか」
思い出しただけで胃のあたりがひゅっとなる。
概念的に落ちることは無かったとはいえ、万が一を考えると恐ろしい。
「――――で、何があったんですかね? ドリー・イコンさん」
「それは……、こっちが、聞きた……ぐぅ…………」
激闘を終えた後、ギルドへと報告に向かう。しかしながらその途中、俺は完全にダウンしてしまい、丸一日寝込んでしまった。
目覚めたのは次の日の夕方で。そこから夜に至るまでのこの六時間、ずっと喋りっぱなしだ。イレギュラーな事態を伝えていると、たちまちギルド側の顔色が変わっていき、糾弾は謝罪と補填に変わっていった。
「本当に申し訳ない。こちら側の調査が、あまりにも不完全でした……!」
「い、いやいや! 顔を上げて……!」
今回の騒動を紐解いてみれば。
結局落ち度は、ギルド側にあったようだった。
上級ダンジョンが発生したはいいものの、ランクが不確定なままに依頼書を登録。
本来ならば……数日前にギルドにてベルが倒してしまった、あのルーダス一味がこのダンジョンに挑む手はずとなっていたらしい。
……やっぱ落ち度は俺たち側にもあるじゃねーか!
まあただ、ベルに鎧を砕かれて瞬殺(殺してはいないが)されてしまったルーダスらが、あのダンジョンに足を踏み入れたとして、生きて帰ってこれたとも思えないので、そこは運が良かったとも言えるんだけど。
「とにかく…………………………あまりにもきつかった」
「ゴシュジンしなしなだな」
「フニャフニャですわね」
「かたくしてあげたいね」
「……言い方考えようね」
ともかく。
神経参ってるのです。
だから……、
「だからこんな封書に、目を通せる自信が無い……!」
部屋に帰ってみると、一通の手紙が届いていた。
それも表には、『出来るだけ早く見るように』という旨が書かれており、どうやら相当緊急のもののようである。
「仕方ないな……」
封を開けて見てみると、それは魔法屋からの呼び出しだった。
「魔法屋から……? 珍しいな。何だろ」
クエストに出る前、飛翔の加護含む、様々な高額アイテムを購入した。まさかその代金が足りなかったとかの督促だろうか。正直これ以上お金は払えないですよ、はい。
おそるおそる中を見てみるとそれは、遠隔対話魔法の連絡が入っているという知らせだった。
「おにいちゃん、遠隔対話魔法ってなあに?」
「あぁうん。離れたところにいても、特定の魔法波に乗せて、対象と話をすることができるんだ」
「魔法波?」
「俺も詳しい原理は分かってないんだけどな。とにかく……、街の魔法屋同士で話せたり、個人が持ってる魔法石に波を飛ばしたりと、色々方法はあるんだ。
まぁそのためには、別途、上級者用の高いアイテムを消費しなくちゃいけないんだけど――――」
説明しながらも書面を読み進めてみる。すると対話者は、誰あろう、元パーティリーダーのレオスだった。
「ん……? あ、やべ、マジか」
そういえばと思いたち、古い方の冒険者バッグの中を漁る。そこには、長年使っていなかった遠隔対話用の魔法石に、レオスからの呼び出し記録が残っていた。
「この間のダンジョンに行くときに、丸っと違うバッグに変更したからな……。前の荷物に置き去りにしちまってたかぁ」
しかも使う癖がついてなかったから、遠隔(略)石のことなんてすっかり忘れてた。
飛翔の加護とかと同じで高価だから、『使用する』という選択肢が頭から抜けていたのである。
「高級アイテムは持ってないと思ってたからなぁ。だからこそ、魔法屋で色々買い込んだんだけど」
……宝の持ち腐れとはまさにこのことだ。
まぁどのみち、アイツらの居るダンジョンとは離れているからな。魔法波が偶然キャッチ出来ただけで、取ってても対話は出来なかったと思うけど。
「なぁゴシュジン。
ゴシュジンの石の方に対話の意志を飛ばしても、意味ないんじゃないのか?」
「あぁいや……。同じダンジョン内くらいなら、相当階が離れたりしない限りは話せたりするんだよ」
あれから十日あまりが過ぎたくらいか。
レオスはまだ、俺が同じダンジョン内にいると思っていたのかもしれない。
けれど繋がらないものだから、街の魔法屋の方にかけて、呼び出しをしている……と。そんなところかな。
「魔法屋は、めちゃくちゃ強力な魔法石が設置されてあってさ。
ナグウェア地方全域で、遠隔対話が出来るんだ」
その分めちゃくちゃ石を消費するけどな。
一分対話するのに、通常の五倍くらいの量使うんじゃ無かったっけ。
「しかし……、そんなにまでして、俺に何の用だ?」
悲しいかな。俺の力なんて、もう必要ないと思うんだけど。
「というか、まだあのダンジョンにいるってことか?
あと三日か四日くらいで最奥だと思ったんだけどな」
まぁあくまで俺の目算だから、確かなことは言えないが。
しかし仮にそうなってくると、え~……、のべ十一日も同じダンジョンに居ることになる。そうなってくると精神的にきつそうだな……。
「仕方ない。面倒だけど行ってくるか」
「義理堅いですわねぇ旦那様は。自身もお疲れでしょうに」
「まぁ……そうも言ってられないしな」
ルーチェの言葉に、「それに」と付け足して俺は返す。
「別にレオスが心配なわけじゃないさ。ここの魔法屋には世話になってるからな。行ってやらないとさ。この案件でずっと起こしとくわけにもいかないだろ」
違う街には昼夜問わずやってる魔法屋もあるらしいけど。
うちの街の魔法屋は、夜はぐっすり眠るじいさんだ。この時間まで起こしておくのは、あまりに酷すぎる。
「てなわけで、ちょっと行って――――え、着いてくるの?」
「こんな夜更けに、旦那様を一人で向かわせられませんわよ」
「レオスって、前に酷いこと言っておにいちゃんを追い出した人でしょ?」
「何か言われたら、ベルが言い返してやるぞ。場合によっては殺す。遠隔でもどうにかして殺す」
「……大丈夫だよ」
あとベル、むやみやたらと殺そうとしない。
お前闇抱きしてねぇだろうな?
「ただまぁ、そうだな。
俺とパーティ組んでるんだもんな、お前らは」
心配してくれるのは素直に嬉しい。
それじゃあ、護衛に着いてきてもらおうかな。
「よし行くか。終わったら軽くじいさんに紹介するよ」
言って俺は三人を連れ、もう一度外に出た。
街の灯りはまだ点いているとはいえ、どことなく夜が深いのが気になった。
「というわけで駆け付けました、ドリーです~」
クローズの看板がかかる魔法屋のドアを軽く叩くと、中から馴染みのじいさんが顔を出した。
マジックアイテムが散りばめられた売り場を抜け、奥の対話用の部屋へと通される。
俺用の椅子のほか、追加で椅子を更に三つ出してくれて、ロリ三人はそこにちょこんと座っていた。
意外なことに大人しい。まぁヒナは元から落ち着いているのと、ルーチェはこういう時には大人しくできるやつだからいいとして……。
「いやに大人しいなベル?」
「うん。出来るだけ穏やかにしてるんだ」
「ん? どうしてだ?」
「……いっぱい、食えそうなモノがあるから」
「あぁそういう……」
ドラゴンって、宝石とかも食えるって言ってたなそういえば。
マジックアイテムには、高価な宝石を組み込んでいるものも多数ある。なので、食おうと思えば食えちゃうのか。
「誘惑が多い……。心落ち着かせてるぞ……」
「おう、了解だ。……くれぐれも食うなよ」
弁償できないから。
「新しい嫁か? ドリー」
「違うし、そもそも俺に嫁が居たことはねぇよ……」
「ほっほ、そうじゃったかの」
相変わらずとぼけたじいさんである。
「そんじゃァ、わしは向こうにおるでの」と言い残し、遠隔対話用の魔法石を渡してくれる。
そこへ専用の魔法液を垂らすと――――懐かしの顔が中空に浮かび上がった。
『ッ!! ドリー……ッ!』
「お、おうレオス……。久しぶり、だな……?」
開口一番、レオスは俺をギラリと睨みつけた。
あれ? ……何だろう。とても殺気立っている。
目の下にも深い隈が出来ていて、髪もボサボサ、髭もまばらに生え散らかっていた。身だしなみには気を遣うヤツなんだが、どうやらそんな余裕はなさそうだ。
とてつもなく。
心中穏やかではなさそうで。
『ドリーてめぇ……、どっ、どこで、何して……やがるッ?』
「え? いや、こうして街に帰って来てるけど、」
『今すぐダンジョンに戻って来い……!』
「――――は?」
レオスは俺の言葉を待たず、怒気を強めて言った。
目を血走らせ、歯を食いしばり、懇願するような、それでいて攻め立てるような表情で、ヤツは魔法越しの俺を睨む。
『さっさとこのダンジョンに戻ってきやがれってンだッ!! おま、お前はッ、オレのパ、パ、パーティメンバーだろうがッ……!!』
「は、はぁ……?」
いやいや。意味が分からないんだが。
俺を追放したのはお前だろ……?
困惑しながらも俺がそう伝えると、歯ぎしりをしながら、そして音を詰まらせながら……、レオスは恫喝めいた口調で怒鳴り散らす。
『う、うるせぇ! 口答えしてんじゃねえぞドリーのくせに! いいからテメェは、さ、さっさと、ここに駆け付ければイイんだよッッ!
オレのいうコトに従え! オレの命令を聞け! 良いからオレを助け――――チッ……!』
吐き捨てるようにレオスは、最後の言葉を言い切らずに舌打ちをした。
……なるほど。プライドの高いヤツのことだ。
一度追放した俺に対して、『助けて』とは言いづらいよな。
「というか、何があったんだよレオス。そっちには俺以上の魔法剣士のユミナが居る。正直そのダンジョンの敵くらいなら、彼女一人居れば十分くらいじゃないか?」
『テメェ、何だその分析は? どうしてそんなことが分かる?』
「あぁいや……、別に」
ヒナたちの、あのダンジョンでの無双っぷりを見ていたから。なんというか、上限が分かれば、ある程度の分析が出来たというか。
ユミナのプレートは俺よりツーランク上の黒だ。
それがどれくらいなのかは分からないけれど……、軽く動き回ったヒナたちレベルの実力を持っているのならば、よっぽど特殊な環境に追い込まれでもしない限りは大丈夫だろうと思ったのだ。
ともかく。
「その……、俺なんかが居ても役には立たないだろ? 力ならガディが。回復はマルティが。遠距離攻撃はジューオがいるし、剣技でも俺はユミナどころか、お前にも及ばないし」
俺は先日、英雄視されるほどに大暴れをした。
けれどそれは、三人娘の力を借りてのことだ。俺自身の力ではない。
本来の俺の実力は、今述べた通り。万年Cランクで、イエロープレートの冒険者なのである。
言ってて悲しくなってくるが、事実だから仕方がない。
四十年近く生きてきて学んだことは――――、出来ることと出来ないことは、しっかりと線引きしなければならないということだ。
身の程を知る、ともいう。
俺自身は特別な人間じゃないから。
無理なものは無理だと、割り切る力が必要なのである。
『口答えするなドリーッ!』
「……怒るなよ。というか、お前も冒険者規定を知らないワケじゃないだろ?
安全面を考慮して、一度そのクエストを断念した者は、もう一度そのダンジョンに入るわけにはいかないんだよ」
パーティメンバー全員が帰還して、また同じメンツで、もしくは違うメンバーを募って再挑戦ということなら可能だ。
けれど今回の場合、レオスパーティの一人である俺は、単独でダンジョンを脱出してしまった。
これ自体に罰則はない。が、その代わり。そのときのパーティリーダーが帰還するまでは、同じダンジョンの敷居を跨ぐわけにはいかないというルールになっているのだ。
だから例えば、俺がレオスを助けるために、この三人娘を連れて駆け付けることは出来ない。
あのダンジョンに行ったことになっていない三人娘を向かわせようかと一瞬考えたが、途中で俺からの魔力が途絶える可能性もあるし、あまり俺からは離れられないのでそれも不可能だ。
「というか、何があったんだよ? 怒鳴ってばっかりじゃ、何も分からん」
『…………ッ!!』
「いや、睨まれてもさ……」
振り上げた手を降ろす場所が無いのだろう。
まったく、こんな夜に呼び出されて、一方的に怒声を浴びせられる俺の身にもなって欲しい。三人娘が大人しく座ってくれいているのが、奇跡に近いんだから。
ちらりと後ろを振り返ると、三人はレオスに対して色々と話しているようだった。
「ゴミみたいだねー」「ホントですわね」「きらいだぞ、アイツ」「閃光魔法で目を潰してさしあげましょうかしら」「それよりは呪いの方がいいんじゃないかな?」「この場にいたらかじり殺すんだけどな~」「そうだね~。私も斬っちゃうかなぁ」
……うん、怖いよ。
日常会話っぽく話さないでほしい。怖さが増すから。
げんなりしていると、魔法面の向こうで『代われ』と声が聞こえた。
ユミナの顔が映し出される。
……どうやらユミナも、今のレオスの態度に付き合わされていたのだろう。俺と同じように、顔がげんなりとしている。
『久しぶりだなドリー』
「お、おうユミナ。無事っぽくて何よりだ」
『……ん? きみ、何かあったのか? 何だか顔つきが……』
「お、そ、そうか? 特に何事もなく平和デスヨ……?」
『そうか? なら良いが……。おっと、』
「おいおい、ふらふらじゃないか。大丈夫かよ?」
精神的な疲れがきているのか、ユミナの声にも張りが無い。
それでも気位の高さを示すように、ふらつきながらも、表情だけは強くもって俺に向き合った。
『すまない。私は止めたのだが、レオスが聞かなくてな。
どうしても、きみの知恵を貸して欲しい』
「俺の知恵を……?」
『そうだ。勝手を言っているのは、重々承知している』
頼むと、深々と頭を下げるユミナ。
なるほど。知恵を貸す……か。
まぁそれくらいなら認められている範疇だ。前パーティのよしみだし、力になろう。
「いいよ、頭を上げてくれ」
『……すまないな、ドリー。ありがとう』
そしてユミナとレオスは、現状を説明し始めた。
ところどころ感情的になるレオスを抑えながらだったので、聞いているこっちもすげえ疲れたが。
「えっと、整理すると……」
現在レオスたちは、あのダンジョンの九階まで登っているらしい。
見立てでは全十階層だったので、それを信じるならばゴールは目と鼻の先だ。おそらくこの扉を抜けた先に、上階へと続く階段が見えてくるはずとのことだった。
が――――
「トラップ魔法が、大量に敷き詰められている……か」
微弱な魔力感知でも分かるくらいに、この先の通路にはトラップが敷き詰められているらしかった。状況を詳しく聞いてみると……確かに。Aランクレベルの難易度かもしれないな。
ただ、数は多いがトラップ一つ一つのランクは高くないみたいで。解いていく順番は複雑ではあるものの、罠解除の魔法で地道に一つずつ潰していけば、進める類の通路のようである。ただ……、
「罠解除の魔法を使えるヤツが、一人もいない、と……」
『あぁ』
『……ッ』
神妙な面持ちのユミナに、憤りを隠せないレオス。
他の面々は、そもそもこの空気が続いているせいか、ぐったりと生気を失くしている。
そりゃリーダーがこんなになってたら、パーティの空気も悪くなるよな。
「んーと……、ユミナは使えない、よな。そりゃあ」
『あぁ。私はきみみたいに、器用ではないのでな』
「器用っていうか、俺のはただの、昔取った何とやらなだけだよ。大したことじゃない」
でもまぁ、そうだよなぁ。普通の魔法剣士では、わざわざ罠解除を覚えるヤツの方が少ないか。
「う~ん……」
しかし弱ったな。レオスのパーティには純粋な魔法使いは居ないし、罠解除の魔法じゃなくても、技術や知識で解除できる斥候も居ない。となると、あとは迂回するくらいしかないんだけど……。
「迂回路は見当たらないときたか」
『あぁ。ダンジョンの呼吸などが起こっても、この扉まわりだけは変動しなかったんだ』
「魔力濃度の高いところは、変動の影響を受けにくかったり、反射するんだよ。最終階段の目前の通路とか部屋とかは、そういうこと多いぜ」
『そうなのか? 知らなかったな』
「まぁ……、そういうのに苦しめられた時もあったからな……」
長年やってきて蓄えた知識みたいなものだ。
強い奴らは普通に突破できちゃうから、あんまり意味のない知識だけど。
そんな話をしていると、憤りを隠そうともせず、荒々しい語気でレオスが割って入ってきた。
『ゴ、ゴチャゴチャ喋ってんじゃねえぞドリー! 良いから突破するアイディアをよこせ!』
『レオス、きみ――――』
『分け前だ! 分け前をくれてやるッ! このダンジョンで得た宝の、三割だ! 三十ゼイルはくだらねぇ! 一ヵ月は働かなくて良いくらいの金だ! どうだ!?』
「いやその、俺は別に金は……」
『四割か!? 他にはなんだ、何か条件があるなら言えッ!』
「オイオイ……」
会話をしようという余裕さえ失っている。
『さぁドリー! さ、さッさと言えッッ! 打開策をオレに与え――――ぐォッ!?』
魔法面の向こうで。
ユミナがレオスを殴り飛ばしていた。
勿論本気ではないのだろうが……、それでも、彼女も我慢の限界だったようだ。
『きみな……、少し黙れ』
『……ぐッッ!!』
『ドリー、すまない。うちのリーダーが、失礼をした』
ユミナはもう一度頭を下げる。
まったくレオス……。何やってんだよ。
「いやいいよ……。大丈夫。
俺だってずっとそいつと一緒に居たんだ。理不尽な罵倒には慣れてるさ」
ここまでひどくはなかったけどな。
……まぁ、レオスがこういう状況だというのが、最後のピースだ。
俺はこれまでの話を総合して――――たった一つの選択肢を示すことにした。
「やれることは一つだけだよ、レオス」
俺の言葉に、ユミナも、レオスも、他のパーティメンバーも、後ろで怒りをなんとか我慢していた三人も、驚いていた。
『ドリー……、きみ……』
「扉の先には、罠がびっしりの通路。そこはどうやら、解除していかないと通ることが出来ない。迂回路もなく、地形の変化にも巻き込まれないため、そこを通る以外の選択肢は無い。けれど今、そっちに罠解除の魔法を使えるヤツはいない。……そうだな?」
俺は椅子に座る居住まいを正し、改めて魔法面に向き合って語り掛ける。
俺は俺の責任で。
声を発す。
このパーティに関わる、最後の役目として。
『ドリー、策があるというのか?』
うーん、策っていうか……だな。
「いやいや……。この状況で出来ることなんて、一つしかないだろうよ」
『な、何だと……? お前には分かるっていうのか!?』
レオスの怒号に、俺は静かに首を縦に振る。
そりゃもう。
……というかこんなの、分からない方がおかしいぞ。
「簡単だ。とてもな。
お前らは今、その先に進む手段が無い。そうだろ?」
『さっきからそう言ってるだろうがッ!』
「だったら答えは簡単だ。
――――先に進まなければ良い」
俺の言葉にシン……と静まり返る元パーティメンツ。
一瞬の静寂の後、レオスが首を傾げながら息を漏らした。
『…………は?』
「言ったとおりだよレオス。
そのダンジョンをこれ以上攻略するのは、諦めたほうが良い」
不可能だ。
進まなければ良いというより、進むことは無理だと言ったほうが良かったか。
そう俺が考えていると、魔法面の向こうから、殴られた頬を抑えるのも忘れたレオスが、目を血走らせながら怒声を浴びせてきた。
『ふ、ふ……、ふざけるなよッ!? 言うに事欠いて、あき、諦めるだとォッ!?』
いやだってさ……。
そういう答えになるだろうよ、この状況では。
「…………」
後ろからも、三人の息が漏れている。
幻滅させちまったかもしれないけど、これが俺の生き方だ。
生き方になった、が、正しいかもしれない。
――――オッサンと呼ばれる年齢まで生きて、これだけは学習できたということがある。
それは……、『上手い転び方』だ。
大した人生でもないし、これから先も、もしかしたら矮小なまま終わるのかもしれない。
そんな俺がこの四十年近く生きてきて学習したことは。
上手い転び方。
もしくは、最低限の怪我で、物事を終わらせることだ。
若いうちには気づけなかったが……、人生ってのは、『どうにもならないこと』ってのがある。
どうしようもない壁にぶち当たっても、気合いと根性、もしくは愛の力でどうにかできることもある――――のかもしれない。
けれどそれは、『まやかし』なときもある。
全否定はしないけどな。根性根性うるさい幼女も、後ろにいることだし。
まぁでも。
ともかく。
転びそうになったとき。
転ばないでいる方法もあれば――――、時には上手く転んで、怪我を最小限に抑えるというのも大事だ。
強くない者は、それなりのことをして……、どうにか生き延びなければいけないんだ。
でも、
生きてさえいれば、どうにでもなる。
新しいパーティメンバーを募って、再チャレンジすることだって、可能なんだ。
どれだけ力をつけても。
どれだけ気持ちが強くても。
理不尽は巻き起こる。それが、こんなオッサンが唯一知っている答えだ。
「今引き返せば……、時間が無駄になっただけで済む。まぁ他には、ここに来るまでの消費アイテムとか……かな?」
飛翔の加護をはじめ、おそらく俺を置いていった先でも、もしかしたら高価なアイテムを使っているかもしれない。それらは無駄にはなっちまうかもしれないけど……。
「でもとにかく、今なら生きて帰れるんだぞ、レオス」
『うるッさぁぁぁいッ! き、貴様……ッ、何様のつもりだ!
パーティメンバーでもなくなったくせに、口を出そうというのかッ!?』
「いやお前が意見を求めたんだろ……」
『や――――やかましいッ!
そ、そんな意見ッ! 却下だ却下!』
俺たちは進むんだと、激昂を繰り返す。
そんな彼を見て他のメンバーは……、呆れかえっていた。
最低限のリーダーシップは持ってる奴だと思っていたんだけどな。正直、俺もショックだ。
「レオス、悔しいのは分かるが……」
『うるさいッ……! リーダーはオレだ! 決めるのはオレだッ!』
駄々っ子のように、レオスはその場で地団太を踏む。
「……あぁ、」
――――魔物除けとか、はってるだろうか。
なんて。
とても気持ちが冷めていって、まるで他人事のようにしか、今のアイツらを見ることが出来なかった。
どこか地続きの世界ではないことのように。
同じ飯を食ってきた記憶すらも薄れていくように。
もう、違う世界の住人達。そう思えてしまう、熱の冷めを実感する。
「……いやいや」
でも俺は、なんだかんだでコイツに世話になった。
苦い思い出で終わってしまったが、楽しいことだっていっぱいあったはずだ。
だから。
だからこれが、最後の仕事だ。
あのパーティにおける、最年長である俺の。
最後の責務。
役目。
それは――――
「命の安全。その確保だ。
レオス……、引き返してくれ」
勝たなくて良い。
負けなければ、何度だってやり直せる。
次から次へと、繰り返し発生するダンジョンのように。
俺たちだって、何度も繰り返せるんだ。それを分かって欲しい。
「そのダンジョンをクリアしなければ、誰かが死ぬってことじゃ無いんだろう、レオス?
だったらせめて――――最後は」
言葉を区切って、俺は彼に伝える。
伝わるかどうかは、分からないけれど。
安全圏だからこそ言える、ただの上から目線の意見かもしれないけれど。
向上心の欠片もない、ただの敗北者からの言葉かもしれない……けれど!
俺は、伝えなければならない。
「最後は、お前がそのパーティを、導いてくれ」
どんな性格だろうと。
リーダーだろ、お前は。
『――――ぐっ……、』
『レオス……。行こう』
『あ……、あぁ……、あ……、』
へたりと。
力なく座り込むレオスを、俺はどんな目で見ていたのだろう。
俺を切り捨てた元リーダー。
俺を引っ張ってくれた頼りになる男。
今はもう、そのどちらの面影も、無い。
「……じゃあな、レオス」
俺はそう、誰にも聞こえないように。
虚空にそう呟いた。
僅かに揺らめく魔法面は、静かに俺を照らし続けていた。
そうして。
レオスとの対話魔法を切った後。
「…………」
俺が振り返ると、三人の幼女は、何とも言えない表情でこちらを見ていた。
視線が。
はたと、合う。
俺の方から口を開こうと思ったのは、何でだろうか。
ただ気づけば、思いを伝えていた。
「これが……俺だ。残念ながら、な」
救出に向かうことは出来ない。
立ち向かってやれる力はない。
無難にしか物事をこなせない。
それが、ドリー・イコンの精いっぱいだ。
「これがもしも……、もっと実績のある冒険者だったら、かっこいい感じに決まったんだろうけどな……」
こんな万年Cランクのオッサン冒険者が言っても、説得力に欠けるよなぁ。
実際問題として、俺がレオスよりも上のランクだったり、常にプラチナプレートだったりしたら、あそこまでの言い合いにはならなかったと思う。きっとレオスは、上級者からの言葉には耳を貸して、もう少しだけ冷静に話し合いを進めることが出来たはずだ。
「まぁ……、でもそれも。俺の実力ってことで」
なんだか、疲れた。
そんな。
力なく笑う俺へと、彼女らは小さな足取りで近づいてくる。
そして、見上げて、言った。
「――――すごいよ、おにいちゃん!」
「……へ?」
口火を切ったヒナに続き、ベルもルーチェも、目をきらきらさせながら続いた。
「戦わなくても生き残れる術があるんだね!」
「目から逆鱗だったぞ!」
「根性逃げ理論ですわね!」
「逆鱗じゃなくて鱗だし、根性の、逃げ……ツッコミが追い付かん!」
ともかく。
「お前ら……、さっきので、呆れてないのか?」
俺がそう聞くと、ヒナは「ううん」と首を横に振った。
「呆れないよおにいちゃん。
私たちは、『戦う』ことでしか生きられないと思っていた」
「けれど旦那様は、戦わなくとも生きていける道を、心の中に持っておりましたの」
「それってスゲーなって思ったぞ!」
そうか。
こいつらは、魔竜、魔剣、魔法だから。
戦いのために存在することが前提で、生きて来たんだ。
けれど、ニンゲンはそうじゃない。
戦わなくても生きて行けるし、戦わないで済む方法を考えることも出来る。
それらを持ったうえで、戦うという選択肢を選ぶということは、戦うしかないという状況に置かれている奴らとは、根本的な部分で違いが出るだろう。
「――――私たちは、おにいちゃんを誇りに思うよ!」
「お前ら……」
「だから、一緒にパーティを組めて、嬉しいな!」
三人は。
笑みを俺に向ける。
だから俺も……、負けじと笑った。
「そっか……! ありがとな!」
三人の頭をそれぞれ撫でて、俺は密かに決意をした。
この先何があっても、こいつらと一緒に生きて行こうと。
そして、こいつらに見合うように。
レオスに言ったような言葉に、説得力がつくように。
カッコイイ男に、なってやると。
――――というようなことがあって、あれから一週間が経って、現在。
俺はこうして三人娘と共に、ダンジョン巡りの日々を送っている。
「あ~……、疲れる、コレ……」
「やった~! おにいちゃんに強く握ってもらっちゃった~♪」
「お、いいなァ! ベルもベルも! ベルの上にも乗ってくれゴシュジン!」
「わたくしも! いっぱい放って欲しいですわ!」
「…………また今度ネ」
相変わらず誤解を招く言い方が多いのだが、今疲れてるからツッコミは後にさせてください……。
いや、ほんとに大変な一週間だった。
ヒナの剣を操れたはいいものの……、その代償としてとてつもなく体力を消耗するということが発覚し……。
そして更に、ベル、ルーチェの力も操れるようになり……と。追放されてからの一週間と、同じくらいの濃さを送ることになったのであった。
なんだこれ、新手のいじめか?
レオスに追放されてからの二週間、気が休まった時間がほとんど無いんだが?
「魔力集めのために高ランクダンジョンを短期間でクリアし続けてたら、いつの間にか冒険者ランクもAに上がってるしな……」
一見いいことのように思えるが、Aランクに上がった瞬間にめちゃくちゃ依頼の通知が来るようになったのだ。スピード昇格したこの三日間、通知に目を通すだけでいっぱいいっぱいだった。
「プレートは変わらず、黄色のままですけどね……」
もうプラチナと黄色を行ったり来たりするのにも慣れてきた。
首元のプラチナプレートの輝きを、ありがたく感じなくなってしまったな……。
「プラチナプレートを三人も従えているイエロープレートっていう噂が、どんどん広まっていってるしなぁ……」
しかも相手は幼女である。幼女たちである。
もうね……、世間からの視線はズタボロですよ。
まぁそれでも、ユミナ含む一部の人間からの信頼は得ているし、その手のソルジャーたちからは、ある意味英雄視されているけれど。
「不当な評価だなぁ、ドリー一味……」
「パーティの色だね!」
「コンセプト次第ですわ!」
「ゴシュジン、腹減った」
「んもうこの子ら、自由すぎ!!」
さて、そんな俺たちだが。
現在メノートゥ神殿内部に出来た、変異ダンジョンを攻略中。
このあたりでも有名な神殿が、突如としてダンジョン化してしまったので、元に戻して欲しいとの依頼である。
依頼提供者は、やはりあのお方。ギルドの受付嬢さんです。
あの人……、この手の案件抱えすぎじゃない!? お互い苦労性なんだろうなぁ……。
潜ってみるとやはりというか何と言うか。
あの時潜ったダンジョン以上に、内部はイレギュラーだらけだった。
でもそれも、三人娘にかかればお手軽攻略だ。練習がてらちょっと装備させてもらったりもしたが……、全然でしたね。
いやはや、強くて頼りになる子たちですこと。
「私たちが強くあれるのはおにいちゃんがいるからだよ!」
「そうだぞ! ゴシュジンは居るだけでえらい!」
「頼りになる旦那様ですわよ!」
「やめて! 急な持ち上げ、ホントやめて!」
いいよそういうの! お前らみたいに、常時強いわけじゃないんだって! プラチナランクの力を使ったら、すぐに疲れ果てちゃうんだって!
……誰だ今、オッサンが●ッ●●終わったらすぐ寝ちゃう現象みたいだなとか思ったヤツ!? 確かに否定できねえけども! 疲れたらすぐ横になっちゃいそうになりますけども!
「と……とにかく。ゴールは目の前だ。さっさと終わらせてしまうか」
待たせたなと言って立ち上がる。
重い腰。くたびれた身体。方も凝ったし足も痛い。
まったく……、オッサンだよなあ我ながら。
そんな冴えないオッサン――――だったものに、
コイツらは、屈託ない笑顔を向けてくれる。
人外幼女に助けられ。
人外幼女と共に生き。
人外幼女と日々を過ごして。
人外幼女と駆け巡る。
忘れてたけど、明日から四十歳。
まったく。
面白い人生の、折り返し地点だ。
「行こう、おにいちゃん!」
「おう。よろしく頼むぜ三人とも」
ダンジョンに吹く風は、強く、冷たく、どこか優しく。
俺たちを、包み込んでいた。
「えっと……、めっちゃ嫌な予感がするんだけど……」
ダンジョンクリア後。
鎮静化し、元に戻った神殿が、神々しく光っていた。
「ありがとうございました……。私、ただいま助けてもらった神殿です……!」
俺は。息を大きく吸い込んで口を開く。
その声は、四方の山々に大きく響き渡ったという。
「間に合ってますッッッッッ!!」
ようじょのおんがえし!
QUEST CLEAR!
ノベマの方でははじめまして!
おふなじろーと申します。よろしくお願い致します。
ロリ三人のわちゃわちゃ行く異世界ダンジョンもの。お読みいただきましてありがとうございました。楽しんでいただけましたら幸いです。
さて今作。
普段の出入口の切り口とは、違ったキャラクター造詣にチャレンジしてみました。
なんか老獪ロリとかは書いたことあるんですが、純粋(?)なロリって書いたことないなぁと思いえっちらおっちら。
一人だけだとパンチ弱くない? ってことで、三人に増やしてえっちらおっちら。
そうして書き上がったのがこちらの作品になりました。
制作過程は、なんか、アレです。
日本家屋を建てていたら、いつの間にか宇宙ステーションが出来てました、みたいな軌道の逸れ方をしたのですが、楽しかったからオッケーかなと思う次第でございます。
最初に出来たのはベル。次にルーチェ、そしてヒナという順番でした。
やっぱりダイナミックに動き回るベルは作りやすい。何をして何をしないのかが彼女の中でハッキリしている分、とても書きやすかったです。
ルーチェはまぁ、「おふなじろー好きなものよくばりセット」みたいなヤツなんで割愛。
コイツだけなんかテイスト違うんだよなぁという疑問を常にまといながら描いたキャラでした。
出入口の書くお嬢様キャラがまともなワケないんだよな……。
そしてヒナ。実はヒナが一番設定が変わったり戻ったり大幅に変更したり描写を削ったり、はたまた増やしたりしたキャラでした。
第一進化:ロリ巨乳。主人公への呼び方『兄様』。ややダウナー気味でヤンデレ気質。
これに関しては物語の方向性的にもボツへ。進行役が必要だったので常識人ポジに回ってもらいました。
第二進化:ロリ巨乳。主人公への呼び方『お兄ちゃん』。明るく元気。
ヒナさんの方向性が見えてきました。が、プロットもって友人に相談したところ、
「ロリなのに巨乳だとおいしくなくない?」
「えっ」
「他二人はおっぱい無いんでしょ? じゃあこの子もいらなくない?」
「えっ、で、でも、そうするとおっぱい要員が……」
「ロリモノにおっぱい要員いらなくない?」
「え、ロ、リ、え!?」
というような会話が行われたため、
第三進化:ロリ体型。主人公への呼び方『おにいちゃん』。明るく元気で健気に。
そして更にツイッターにて、
「ロリに苦戦している……。お兄ちゃんとかキャラに言わせたの初めてかもしれん……」
的なことを呟いたら、某ゲーム仲間の方が、
「ひらがなとか使わせるとそれっぽいですよね(*´▽`*)」
とのお言葉をいただきまして、それだぁぁぁッッ! ウッ……! ヒナぁぁぁぁ! 強く握るぞッ!! ――――となり、『お兄ちゃん』→『おにいちゃん』へ変更。おっぱいもなくすという調整が入りました。
今では立派に独り立ちしたキャラとなりましたことを、報告いたします。
というわけで、オッサン主人公でお届けいたしました。
カラダの節々が痛んでくるこの年代。うまく描けていることを願って、ここいらで筆を置かせていただきます。
それではまた、次回作などなどで!
2022/8/25 おふなじろー