「私、留学しようと思う」

 大学三年に進級したある日、君はいつになく真剣な表情で告げた。
 留学なんて大学生にしたら選択肢に入るもの。ただ、異なることがあるとすれば、それが無期限であるということだった。
 いつ戻ってくるのかも分からない。帰国してもすぐに就職先を探さなければならない。
 世の中、遠く離れていても連絡がとれる便利なものが増えてきても、人の心は移り変わるもの。

「だから、別れよう?」

 君は、震えた声でそう言った。

 僕は君が決めた道を進むべきだと思った。
 いつも自分のことを後回しにして他人を助けてしまうほど優しくて、自分の我儘を抑え込んでしまう人だから、自分の為に選んだ道を真っ直ぐ進んでほしい。

 そのために僕は、今までもらってきたものをどうやって返してあげられるのか。――出した答えが、君の望んだものであってほしいと願う。

「分かった」

 僕なんかいなくても、君は大丈夫だ。
 君の顔を見ることなく、僕は視線を逸らした。