翌日、空港までは兄が車を出してくれた。
 遠回りになるけど君の家に寄りたいとお願いしたら、すんなりと引き受けてくれたのだ。君とも面識があるから、気になっていたのかもしれないね。
 高校の頃に何度かお邪魔したことがある君の家は、あれから何も変わっていない。
 ――私も君も、あの頃から変わらなければよかったのかな。
 郵便受けに手紙を入れる。これで最後。空港に着く前に連絡先を削除するつもりだ。
 顔を上げて家の方をみると、二階の窓から誰かがこちらを見ていることに気付いた。
 すらっと背筋が伸びたその姿は、君以外考えられない。驚いた様子で目を丸くしている。

 ……ああ、そうだった。
 周りに合わせて流されてしまう、端っこにいる君に話しかけるようになったのは、君の姿勢がいつもきれいだったからだ。あの頃から何も変わっていない。そんな君が好きだった。

 私はなんだか自然と笑みが零れて、振り向かずに車に乗った。動き出した車のミラーに、家から飛び出してきた君の姿がちらりと映る。
 気付かないフリをして、私は君の連絡先を消した。