高校三年の夏――県大会への出場をかけて挑む予選会の前夜に突然、家の近くの公園に呼び出された。
 風邪をひいて連日学校を休んでいた君はすっかり回復しており、お守りだと言って僕に赤と青のミサンガをくれた。所々ほつれているのは、熱で朦朧としている中で作っていたものだったかもしれない。
 すでに君の左手に結ばれたそれに、何か願ったのかと聞いたら、君は恥ずかしがって教えてくれなかった。
 夜も遅いからと家まで送っていく。玄関に入る前に振り返って「またね」と笑った君を見て、もらったミサンガをぎゅっと握る。それだけで勝てそうな気がした。

 ――でも、現実がそう簡単に行くわけがない。

 結果は一回戦敗退。対戦相手は前回王者の強豪校で、一点差まで追い詰めたところで鳴り響いたホイッスルを酷く恨んだ。
 放心状態のまま家に帰ると、スマホに君からメッセージが届いていた。試合前に送られていた『頑張れ!』を見て、試合結果を伝えるのを躊躇う。
『ごめん、勝てなかった』
 送ってすぐに既読がつく。待ち構えていたのか、電話がかかってきた。
 放っておいてほしいと思ったけど、君の言葉に随分救われたんだ。
 勝ち負けがどうのと言う前に、「好きなことを追い続けた君の姿勢が、いちばん美しい」と言われて、会場でも零れなかった涙が頬を伝う。
 それからしばらく繋がったまま、沈黙が続いた。時折電話の向こうから君の鼻歌が聴こえてくる。

 苦じゃないこの静かな時間は、きっと君じゃないと成立しなかった。