「私、留学しようと思う」

 大学三年に進級したある日。待ち合わせをして入った喫茶店で、向かい合う君に告げた。
 いつ戻ってくるかわからない。戻ってきても、すぐ就職先を探さないといけない。今まで以上に一緒にいられる時間は減る。
 世の中、遠く離れていても連絡がとれる便利なものが増えてきたとしても、人の心だけはどうにもできない。
 好きじゃないのに付き合ってくれているんじゃないか――そんな不安を、君に否定してほしかった。

「だから、別れよう?」

 ここに来てから、君の顔が見れない。口元ばかりを凝視して、目を見て話す事ができなかった。
 本当は引き留めてほしい。離れていかないでほしい。今の距離じゃ足りないくらい、ずっと傍にいてほしい。

 ――でも君は「分かった」と一言だけ呟いて、目を逸らした。