高校三年の夏――最後の大会に向けて多くの運動部が炎天下で練習に励む中、私は風邪をひいて学校を休んでいた。
 君から『大丈夫? 無理すんなよ』と素っ気ないメッセージだけでも嬉しくて、更に熱が上がったの内緒の話。窓の外から見えるぎらついた太陽を見て、君の方こそ無茶していないか心配になる。
 微熱になったのを見計らって、作りかけのミサンガを二本分()む。同じ赤と青の紐で編んだそれは、大会の前日までに完成した。
 無理を承知で夜の公園に呼び出したら、君は来てくれた。不器用ながらも作ったミサンガを渡すと、嬉しそうに笑ってくれた。来る前に左手に結んだ私の分を見て、何を願ったのか訊いてきたのを慌てて誤魔化す。
 君がベストを尽くせますようにって、言ってしまったら叶わないかもしれないじゃん。

 ――だから、君からメッセージが届いたとき、すぐ電話をしてしまったんだ。

 用事を終えて駆け付けた試合は緊迫していて、あと一歩のところでホイッスルが鳴り響いた。その場にいた誰もが悔しい顔をし、泣き崩れる中で君だけが平然としていた。
 放っておいた方がいいってわかってる。
 でもきっと君は、悔やんで自分を追い詰めてしまうから。
「好きなことを追い続けた君の姿勢が、いちばん美しいと私は思う」
 執着がないと自分で言う割に、部活には懸命に取り組んできたことを、私は知っている。
 沈黙の中、電話越しで鼻をすすった音が微かに聴こえる。私はしばらく繋げたまま、君との時間を過ごした。
 時々鼻歌を歌ってみたけど、聴こえてたかな?

 静かな時間さえも愛しいと思うのは、きっと君とだから成立したんだね。