高校で初めて知り合った僕らの間には、恋愛感情なんて存在しなかったと思う。

 いつも明るくて誰とでも仲良くなれる人気者の君は、気を許してしまうほど一緒にいて楽な人。
 だから君が「付き合っちゃう?」なんて軽く問いかけてきた時は、本当に驚いたんだ。
 悪戯で言っただけかもしれないのに、タイミング悪く周りが聞きつけ、悪びれる様子もなく茶化し始める。
 この状況って、ドラマや小説の中だから成立するんじゃないのか?
 今から撤回しようと口を開くが、視界に入った君を見て思い留まる。
 顔を真っ赤にして嬉しそうに笑う君を見て、僕は流されることにした。
 案外僕も、乗り気だったのかもしれない。

 それから二人で過ごす時間が増えてくると、君の新しい一面を知った。
 斜めに切られた前髪は自分で失敗して、友人に頼んで整えてもらったこと。
 でも手先は器用で、料理も裁縫も得意で自信があること。
 甘いものが好きなのに、コーヒーだけはブラック一択なのは意外だった。

 二人でいる時でしか見られない、素の君を独り占めしている時間が居心地よくて、ずっと続けばいいと密かに願っていた。