ピピッ ピピッ──────
不快な電子音が私を夢から引き戻す。
鳴り止まないスマホのアラーム。

朝かぁ。
重たい瞼は未だ閉じたまま、布団から何とかスマホを探し出し、アラームを止める。

「まだ寝てたい……。」

昨日の夜、遅くまで勉強をしていたせいなのか疲れが未だ残っている。
でも、いつまで寝ているわけにはいかない。身体を起こしベッドから降りる。

カーテンを開ければ眩しい日差しが部屋へと入ってくる。気持ちがいい。軽く伸びをする。
私はこの時間が好きだ。どんなに眠くて辛い朝でも爽やかな気分になるから。

少しの間、朝日を見ながらのんびりしていると、朝食の時間が近づいていたことに気付いた。

朝はやることがいっぱいある。
私は急いで部屋を出ていく。


まずはキッチンへと向かった。
「今日は何も作ろうかな。」
私の1日は朝食の準備から始まる。


和食を好む父のため、
今日のメニューは
おにぎり・味噌汁・ソーセージ・卵焼きとなった。
私は急いで調理に取り掛かる。


「お父さんは甘めが好きなの」
前にお母さんが卵焼きの作り方を教えてくれた時に言ってたな。
そんなことを思い出し、味付けは甘めにすることに。


小さい頃にお母さんから料理を教わり、いつしか唯一の特技となっていた。
当時は不器用だった私だったが料理を担当するようになって数年が経ち、手際は良いほうだと思う。

昔は上手くできなくて拗ねてたなぁ。
お母さんとの昔話を思い出していると、家族が起きてくる時間が近づいていた。
残りの料理も手早く進めていく。


準備が終わるころ、父と妹の美桜がリビングへとやってきた。

「いただきます。」
全員揃ったところで朝食を取り始める。

テレビでは、昨日の野球の試合結果の音声だけが淡々と流れている。

陽気な性格だったお母さんがいなくなってから、家族での会話は減っていた。
誰一人も喋ることは無い。それがこの家の日常。

誰もが喋らず食事をしているなか、父が口を開いた。
その場の空気が張り詰めたのを肌で感じる。
私は息を呑んで父の発言に耳を傾ける。

「テスト勉強は進んでいるのか。」
教育熱心な父は、口を開けばいつも勉強のことばかり。
「うん。」
いつ機嫌を損ねるか分からないため、無駄なことは言わないよう簡潔に答える。

「そうか、気を抜くなよ。」

父の言うことは絶対で、逆らうことは許されない。
私はより気を引き締める。

私の言葉に満足したのか、それから父から話しかけてくることはなかった。

またしばらく沈黙の時間が続いた。


「ご馳走様。」
少しでも早くこの場所から去りたかった私は、急いで食べ終わった食器を片付ける。