高校の文化祭も最終日を迎え、無事に閉幕した。
猫となった僕はゲストの立場でしかわからないが、出店していたクラスや部活などの団体は、後片付けを終えるか区切りの良い所でやめるかして、帰宅したり個人やクラス単位で後夜祭を行ったりしていることだろう。片付けの時間は翌日に代休という形で設けられているので、今日はもう休んだり各々で盛り上がったりしているわけだ。
僕は昨日と同じように、大木を伝って屋上へと足を運んだ。
「あっ、猫さん。来てくれたのね」
ギーナが屋上の中でもひときわ見通しの良い塔屋の上で、足をぶらぶらとさせていた。僕は足場を見つけ出して軽やかに塔屋を登ると、彼女の隣に行儀よく座った。
校庭には学生を中心に多くの人がいる。おそらく、近隣の広い公園で行われる花火大会を観賞するために集まったのだろう。目的は僕たちと同じというわけだ。
花火大会はもう間もなく開始の時刻である。日も落ち、辺りはすっかり夜の闇に包まれている。屋上にいるのは僕とギーナだけであり、僕と彼女の占領するこの場は、邪魔されずに花火が一望できる特等席だ。
「うちの高校が行うわけじゃないけど、花火が上がってこそ、文化祭のフィナーレって感じがするよね」
ギーナが笑顔で僕に話しかけてくる。僕は猫なので返事はしなかったが、静かに彼女の話に耳を傾けた。
「猫さん、聞いてくれる? 私ね、スキな人がいたの。始まりは小学五年生の夏。きっかけは、あなたと同じで猫だった。木から降りられなくなっている子猫を、同い年くらいの男の子が助けていたの。猫さんみたいに、木をスルスルッと器用に登ってね。かっこよかった。優しい男の子だなって、すっごく、輝いて見えた」
ギーナの言葉に、僕の心臓が跳ね上がらんばかりに主張しだした。猫でなければ、びっしりと汗をかいていたことだろう。
「それから、彼がでっかい白猫を連れているのを見かけて、思い切って声をかけたの。彼は夏休みを使って、飼い猫とおじいちゃんの家に遊びに来ているみたいだった。私は家まで遊びに行ってもいいかと、彼にお願いした。猫が大好きだから、猫と遊びたいって言ってね。本心でもあり、彼と関わる口実でもあったかな。彼のおじいちゃんの家に遊びに行って、彼と仲良くなって、そして一緒に夏祭りに行く約束をした。その祭りには、花火が上がった時にキスをすると、永遠に結ばれるって話があったから……ものすごく、ドキドキしたな。彼はそんな話、知らなかったかもしれないけどね」
ギーナが照れくさそうに微笑み、言葉を続けた。
「でも、彼は来なかった。夏休み明けに彼のおじいちゃんに聞いたんだけど、お父さんの入院で急遽帰ることになったみたい。だから結局、夏祭りには私だけで行って、花火もひとりぼっちで見たのよ」
彼女が花火の上がる公園の方角へと顔を向ける。
「彼とはこれっきりなのかな、失恋なのかなって、すごく落ち込んだ。でもね、この高校に入って彼と再会したの。まさに、運命よね。私は彼だとひと目でわかった。でも、彼は私のことに気づいていないみたいだった。学年四天王とか呼ばれても、スキな男の子に振り向いてもらえなきゃ意味ないよね。悔しいから、自分からは言わないで彼に気づかせようと思った。でも、そうしているうちに二学期になっちゃって……どうしようかなって思っていた時に、彼が文化祭実行委員になったという話を聞いたの。これだ、彼と話すチャンスだ――そう思って、私も実行委員になることに決めたのよ。実行委員に立候補するうちのクラスの男子が、彼のクラスと関わることはわかっていたしね」
彼女がその時のことを思い出してか、フッと笑った。
知らなかった。檀野が笹塚のために実行委員となったように、ギーナも僕と関わるために自ら立候補していたのだ。檀野が笹塚と行動をともにすれば、必然的に僕と彼女が一緒に動くことになる。彼女の狙いはそこにあったわけだ。
「彼と話をした時に、文化祭に花火の逸話があるって嘘を教えたの。彼は夏祭りにあった花火の逸話を知らなかったかもしれないけど、もし知っていたら、あの時の約束を思い出してもらうために、私に気づいてもらうためにね」
彼女が話を続ける。文化祭の花火の逸話が嘘であることは、薄々感づいていた。今年、文化祭が花火大会と被ったのは偶然であり、文化祭と花火大会が同じ日に行われるのは、毎年ではないはずだから。
「……あの嵐の日、猫を助ける彼を見て、彼に恋に落ちた時のことを思い出した。それで結局、気持ちが高まっちゃって、もう答えだろってことを自分から言っちゃった。……まさか、あれが……彼と交わす最後の言葉になるなんてね」
ギーナが視線を落とす。とその時、辺り一帯にドンッと大きな音が轟いた。
「あっ、花火が始まったみたい」
ギーナが夜空を見上げる。一方で、僕は花火ではなく彼女のほうへと顔を向けていた。
「……最後に、見られてよかった……」
花火の光に照らされて――ギーナの身体が透けて映った。
――助けられなくて、ごめん……。
あの時、僕はギーナを守れなかった。
救えなかった。
間に合わなかった。
僕は彼女とともに、燃え盛る大木の下敷きになってしまった。
「きれいな花火……この姿になっていなかったら、この景色はきっとなかったね」
ギーナが花火を眺めながら答える。屋上は普段から立ち入り禁止であり、ドラマのように鍵が壊れているといったことはなく、学生は決して入れない。僕と彼女の秘密の交流は、彼女が宙に浮いたりドアや床をすり抜けたりできる姿だったからこそ成り立っていたのだ。
「……彼と一緒に、見たかったな……」
急にギーナの声色が変わった。
「私のせいで、彼まで巻き込んでしまった。……ごめんね、ギーラ……」
彼女の透ける頬に、涙が伝った。
――謝るのは、僕のほうだよ。
彼女は知らないだろう。ギーラと呼んだ男が、猫となってそばにいるということを。
――だからこそ、僕は……。
『ギーナ、聞いてくれ。僕は渡辺祐輔、キミの知るギーラだよ』
僕はギーナに声をかけた。
『ごめん、キミを守れなくて。あの日……一緒に花火を見る約束、守れなくてごめん。……ずっと、謝りたかったんだ』
僕はためらわずに、声を出し続ける。
『……僕は、ずっと、キミのことがスキだった。僕たちは、両想いだったんだ』
僕は彼女に語りかけた。学校の屋上でギーナと出会った時から決めていた。ギーナに彼氏がいようが他に好きな人がいようが、秘めていた想いを告白しようと。猫の姿のまま、人間の言葉を話して。
ずっと、言えなかった。何かと理由をつけて、色々と御託を並べて、自分の気持ちをぶつけることから逃げていた。あの夏の時も、高校生になって再会した時も、傷つくことを恐れて自分の気持ちと向き合わなかったのだ。
『僕には、キミにスキだと伝える勇気がなかった。キミとの約束を破った自分には資格がないと、勝手に言い訳をして、キミと深く関わることを避けていた。だけど、本当は……自分に自信がもてなくて、自分をさらけ出す度胸がなくて……一歩が踏み出せずに、僕じゃ無理だと、戦う前から逃げていたんだ。情けないよね。猫が人間にプロポーズするのに比べれば、とっても簡単なことだったのに』
僕は一度、間を置く。根性なしだった。自分なんかでは駄目と卑屈になって、分不相応だと言い訳して、自分とは住む世界が違うと思い込んで、自ら勝手に距離を作っていた。バカだ、猫と人間ほど遠い距離でもないのに。
『僕もキミに気づいていたよ。キミはますます魅力的な女の子になっていて、あの頃にも増して僕をドキドキさせる笑顔をしていた。キミに彼氏がいるという噂を聞いた日の夜は、悔しくて泣いたっけな。……こんな情けない僕なんかの、どこを気に入ってくれたのかわからないけど……ありがとう。僕はキミが考えている以上に、キミのことが大スキなんだ』
僕はもう一度、ギーナに声をかけた。
だが、彼女はこちらを見ずに、夜空に次々と上がる花火へと目を向けている。
僕の言葉が、届いていない。
人間の言葉を出そうとしているのに、僕の喉からは「にゃー」という猫の鳴き声しか出ていないのだ。
クソっ、なぜだ!
決意したのに。人間の言葉を話して、伝えようと思っていたのに。
たとえ神様に消されようが、彼女に想いを伝えるのだと、そう固く誓っていたのに。
『気づいてくれ、僕はギーラだ! 猫だけど、キミのことが大スキな男なんだ!』
僕は叫ぶように声を上げた。
「もうすぐ、花火も終わりだね」
ギーナの姿が闇に溶けていくかのように、段々と薄くなっていく。
この世界から消えようとしているのだ。
神様に人間だった頃の記憶があるとバレてしまってもいい。
猫じゃなくなってもいい。
この世から消されてしまっても構わない。
だから、お願いだ、伝えさせてくれ。
守れなくてごめんと。
キミがスキだと。
もう猫の姿を借りなくても、自分の気持ちを素直に伝えられる。
だから――。
――と、その時、僕の体が急に浮いた。
ギーナに抱き上げられたのだ。
終幕を告げる特大の花火が、破裂音を響き渡らせる。
花火が夜空に咲くとともに、ギーナが僕にキスをした。
「ちゃんと、聞こえたよ」
満開の笑顔を咲かせたまま、ギーナの姿が消えていく。
僕の意識も、白く染まっていく。
屋上には、もう誰の姿もなかった。
そして、僕は猫を卒業した。
猫となった僕はゲストの立場でしかわからないが、出店していたクラスや部活などの団体は、後片付けを終えるか区切りの良い所でやめるかして、帰宅したり個人やクラス単位で後夜祭を行ったりしていることだろう。片付けの時間は翌日に代休という形で設けられているので、今日はもう休んだり各々で盛り上がったりしているわけだ。
僕は昨日と同じように、大木を伝って屋上へと足を運んだ。
「あっ、猫さん。来てくれたのね」
ギーナが屋上の中でもひときわ見通しの良い塔屋の上で、足をぶらぶらとさせていた。僕は足場を見つけ出して軽やかに塔屋を登ると、彼女の隣に行儀よく座った。
校庭には学生を中心に多くの人がいる。おそらく、近隣の広い公園で行われる花火大会を観賞するために集まったのだろう。目的は僕たちと同じというわけだ。
花火大会はもう間もなく開始の時刻である。日も落ち、辺りはすっかり夜の闇に包まれている。屋上にいるのは僕とギーナだけであり、僕と彼女の占領するこの場は、邪魔されずに花火が一望できる特等席だ。
「うちの高校が行うわけじゃないけど、花火が上がってこそ、文化祭のフィナーレって感じがするよね」
ギーナが笑顔で僕に話しかけてくる。僕は猫なので返事はしなかったが、静かに彼女の話に耳を傾けた。
「猫さん、聞いてくれる? 私ね、スキな人がいたの。始まりは小学五年生の夏。きっかけは、あなたと同じで猫だった。木から降りられなくなっている子猫を、同い年くらいの男の子が助けていたの。猫さんみたいに、木をスルスルッと器用に登ってね。かっこよかった。優しい男の子だなって、すっごく、輝いて見えた」
ギーナの言葉に、僕の心臓が跳ね上がらんばかりに主張しだした。猫でなければ、びっしりと汗をかいていたことだろう。
「それから、彼がでっかい白猫を連れているのを見かけて、思い切って声をかけたの。彼は夏休みを使って、飼い猫とおじいちゃんの家に遊びに来ているみたいだった。私は家まで遊びに行ってもいいかと、彼にお願いした。猫が大好きだから、猫と遊びたいって言ってね。本心でもあり、彼と関わる口実でもあったかな。彼のおじいちゃんの家に遊びに行って、彼と仲良くなって、そして一緒に夏祭りに行く約束をした。その祭りには、花火が上がった時にキスをすると、永遠に結ばれるって話があったから……ものすごく、ドキドキしたな。彼はそんな話、知らなかったかもしれないけどね」
ギーナが照れくさそうに微笑み、言葉を続けた。
「でも、彼は来なかった。夏休み明けに彼のおじいちゃんに聞いたんだけど、お父さんの入院で急遽帰ることになったみたい。だから結局、夏祭りには私だけで行って、花火もひとりぼっちで見たのよ」
彼女が花火の上がる公園の方角へと顔を向ける。
「彼とはこれっきりなのかな、失恋なのかなって、すごく落ち込んだ。でもね、この高校に入って彼と再会したの。まさに、運命よね。私は彼だとひと目でわかった。でも、彼は私のことに気づいていないみたいだった。学年四天王とか呼ばれても、スキな男の子に振り向いてもらえなきゃ意味ないよね。悔しいから、自分からは言わないで彼に気づかせようと思った。でも、そうしているうちに二学期になっちゃって……どうしようかなって思っていた時に、彼が文化祭実行委員になったという話を聞いたの。これだ、彼と話すチャンスだ――そう思って、私も実行委員になることに決めたのよ。実行委員に立候補するうちのクラスの男子が、彼のクラスと関わることはわかっていたしね」
彼女がその時のことを思い出してか、フッと笑った。
知らなかった。檀野が笹塚のために実行委員となったように、ギーナも僕と関わるために自ら立候補していたのだ。檀野が笹塚と行動をともにすれば、必然的に僕と彼女が一緒に動くことになる。彼女の狙いはそこにあったわけだ。
「彼と話をした時に、文化祭に花火の逸話があるって嘘を教えたの。彼は夏祭りにあった花火の逸話を知らなかったかもしれないけど、もし知っていたら、あの時の約束を思い出してもらうために、私に気づいてもらうためにね」
彼女が話を続ける。文化祭の花火の逸話が嘘であることは、薄々感づいていた。今年、文化祭が花火大会と被ったのは偶然であり、文化祭と花火大会が同じ日に行われるのは、毎年ではないはずだから。
「……あの嵐の日、猫を助ける彼を見て、彼に恋に落ちた時のことを思い出した。それで結局、気持ちが高まっちゃって、もう答えだろってことを自分から言っちゃった。……まさか、あれが……彼と交わす最後の言葉になるなんてね」
ギーナが視線を落とす。とその時、辺り一帯にドンッと大きな音が轟いた。
「あっ、花火が始まったみたい」
ギーナが夜空を見上げる。一方で、僕は花火ではなく彼女のほうへと顔を向けていた。
「……最後に、見られてよかった……」
花火の光に照らされて――ギーナの身体が透けて映った。
――助けられなくて、ごめん……。
あの時、僕はギーナを守れなかった。
救えなかった。
間に合わなかった。
僕は彼女とともに、燃え盛る大木の下敷きになってしまった。
「きれいな花火……この姿になっていなかったら、この景色はきっとなかったね」
ギーナが花火を眺めながら答える。屋上は普段から立ち入り禁止であり、ドラマのように鍵が壊れているといったことはなく、学生は決して入れない。僕と彼女の秘密の交流は、彼女が宙に浮いたりドアや床をすり抜けたりできる姿だったからこそ成り立っていたのだ。
「……彼と一緒に、見たかったな……」
急にギーナの声色が変わった。
「私のせいで、彼まで巻き込んでしまった。……ごめんね、ギーラ……」
彼女の透ける頬に、涙が伝った。
――謝るのは、僕のほうだよ。
彼女は知らないだろう。ギーラと呼んだ男が、猫となってそばにいるということを。
――だからこそ、僕は……。
『ギーナ、聞いてくれ。僕は渡辺祐輔、キミの知るギーラだよ』
僕はギーナに声をかけた。
『ごめん、キミを守れなくて。あの日……一緒に花火を見る約束、守れなくてごめん。……ずっと、謝りたかったんだ』
僕はためらわずに、声を出し続ける。
『……僕は、ずっと、キミのことがスキだった。僕たちは、両想いだったんだ』
僕は彼女に語りかけた。学校の屋上でギーナと出会った時から決めていた。ギーナに彼氏がいようが他に好きな人がいようが、秘めていた想いを告白しようと。猫の姿のまま、人間の言葉を話して。
ずっと、言えなかった。何かと理由をつけて、色々と御託を並べて、自分の気持ちをぶつけることから逃げていた。あの夏の時も、高校生になって再会した時も、傷つくことを恐れて自分の気持ちと向き合わなかったのだ。
『僕には、キミにスキだと伝える勇気がなかった。キミとの約束を破った自分には資格がないと、勝手に言い訳をして、キミと深く関わることを避けていた。だけど、本当は……自分に自信がもてなくて、自分をさらけ出す度胸がなくて……一歩が踏み出せずに、僕じゃ無理だと、戦う前から逃げていたんだ。情けないよね。猫が人間にプロポーズするのに比べれば、とっても簡単なことだったのに』
僕は一度、間を置く。根性なしだった。自分なんかでは駄目と卑屈になって、分不相応だと言い訳して、自分とは住む世界が違うと思い込んで、自ら勝手に距離を作っていた。バカだ、猫と人間ほど遠い距離でもないのに。
『僕もキミに気づいていたよ。キミはますます魅力的な女の子になっていて、あの頃にも増して僕をドキドキさせる笑顔をしていた。キミに彼氏がいるという噂を聞いた日の夜は、悔しくて泣いたっけな。……こんな情けない僕なんかの、どこを気に入ってくれたのかわからないけど……ありがとう。僕はキミが考えている以上に、キミのことが大スキなんだ』
僕はもう一度、ギーナに声をかけた。
だが、彼女はこちらを見ずに、夜空に次々と上がる花火へと目を向けている。
僕の言葉が、届いていない。
人間の言葉を出そうとしているのに、僕の喉からは「にゃー」という猫の鳴き声しか出ていないのだ。
クソっ、なぜだ!
決意したのに。人間の言葉を話して、伝えようと思っていたのに。
たとえ神様に消されようが、彼女に想いを伝えるのだと、そう固く誓っていたのに。
『気づいてくれ、僕はギーラだ! 猫だけど、キミのことが大スキな男なんだ!』
僕は叫ぶように声を上げた。
「もうすぐ、花火も終わりだね」
ギーナの姿が闇に溶けていくかのように、段々と薄くなっていく。
この世界から消えようとしているのだ。
神様に人間だった頃の記憶があるとバレてしまってもいい。
猫じゃなくなってもいい。
この世から消されてしまっても構わない。
だから、お願いだ、伝えさせてくれ。
守れなくてごめんと。
キミがスキだと。
もう猫の姿を借りなくても、自分の気持ちを素直に伝えられる。
だから――。
――と、その時、僕の体が急に浮いた。
ギーナに抱き上げられたのだ。
終幕を告げる特大の花火が、破裂音を響き渡らせる。
花火が夜空に咲くとともに、ギーナが僕にキスをした。
「ちゃんと、聞こえたよ」
満開の笑顔を咲かせたまま、ギーナの姿が消えていく。
僕の意識も、白く染まっていく。
屋上には、もう誰の姿もなかった。
そして、僕は猫を卒業した。