「さくら、小春。お父さんは先に東京に戻るけど、良い子にしてるんだぞ」
「はーい」
「はーい、お父さん行ってらっしゃいー」
わたしと妹の小春が駅に向かって歩いていくお父さんを見送る。
白いガードレールがキラキラ光っていて、青い空に向かって歩くお父さんはヒーロードラマの主人公みたいでカッコよかった。
その時、次郎丸さんの顔が浮かぶ。
そして閃いた。
あ、これが恋というヤツでは? と。
ほら、ドラマとかで好きな人の顔が浮かんでくるアレ。
今まさにそれだった。
みどり色だけどイケメンで、一緒にいて楽しいし、何よりわたしに優しい次郎丸さん。
なるほど脈あり!
「おねえちゃん、顔、すごいことになっているよ?」
「え、あ。大丈夫よ」
きっとわたしはスゴイ悪い顔をしていたんだと思う。
まだ夏休みは残っているんだ。
川で泳いで遊んで。
少し山に入ったところにある淵で涼んだり。
川魚の獲り方を教えてもらったり。
夕陽に染まる農道を一緒に歩いたり―――。
「あ、あれぇ!?」
カレンダーを見て驚愕。
夏休みが今日を含めて、残り3日しかないでは無いじゃない!?
明日は夏祭りと花火大会、で最終日。
東京に帰らないといけない日。
「うそぉ!」
あんなにたくさんあった時間は誰に盗まれてしまったのか。
さりげなくお付き合いという関係になれたら、なんて思っていたら現実はドラマのようにうまく行かなかった。
「どうしたのおねえちゃん?」
「夏休みが、あと2日・・・・・・」
「え、もしかして宿題が終わってないの?!」
「いや、もう終わってる! じゃなくて、わたしの華麗なる計画が・・・・・・」
一緒に過ごしているだけでは人間、好き好き同士にはならないのね。
失敗をもって学んだわたしは強硬手段に出ることにした。
「お祭り行こうよ!」
水着の入ったカバンの代わりに巾着袋を。
タンクトップに短パンの代わりに浴衣を着込んだわたし。
いつものように午後から次郎丸さんと過ごし、夕方に取って返した後、急いで戻ってくると彼は目をまんまるにしていたわ。
「お祭り?」
「そう! 夏祭り! 次郎丸と一緒に行きたいなー」
さりげなく呼び捨てにして迫ってみる。
おしゃれをしてアピールすると男の人はドキマギするってマンガで見た気がするわ。
「ううん。ごめんね。人混みが苦手で」
申し訳なさそうに謝る彼。
こんなことも想定済みよ。
「うん、分かったわ。じゃあここから一緒に花火を見たいな」
少しの間、彼は思案したあと「いいよ」と笑った。
賑やかなセミの声から夏虫の鈴のようなBGMを背景に。
「ねえ、次郎丸さん」
オレンジ色の世界は薄い青色になって。
「なんだい、さくらちゃん」
少し離れた神社から祭囃子が聞こえてくる。
「次郎丸って呼んでいい?」
さっき呼んだけど。
「いいよ」
川の流れる音が聞こえる。
「ありがとう。わたしの事もさくらって呼んで?」
田舎に来た時は、どうどうと流れる音に少しびっくりしたけれど。
「わかった」
少し不思議そうな顔をする彼は、やっぱりみどり色だった。
最初は、田舎のイケメンはみどり色の人もいるのだ、と本気で思っていたけれど。
「明日、東京に帰るの」
「そうか。じゃあお別れだね」
彼の見上げる空に色とりどりの花が咲く。
「必ず帰ってくるから」
どーんどーんという太鼓の音か夜空に咲く花の音か。
「うん?」
首を傾げる彼の唇、じゃなくてくちばし? が半開きになる。
「その時はお嫁さんにして?」
何を狂ったことを言っているんだろう、なんて思われるかな。
ちらりと見やると白い歯を見せて笑っていた。
「ははは、いいよ。でも僕は河童だよ」
「知ってる。次郎丸がいい」
やっぱり河童じゃん。
お肌がみどり色の人間なんていないじゃん。
「そう」
深い青色を夜空に咲く花が照らし出す。
「じゃあ待ってる」
「はーい」
「はーい、お父さん行ってらっしゃいー」
わたしと妹の小春が駅に向かって歩いていくお父さんを見送る。
白いガードレールがキラキラ光っていて、青い空に向かって歩くお父さんはヒーロードラマの主人公みたいでカッコよかった。
その時、次郎丸さんの顔が浮かぶ。
そして閃いた。
あ、これが恋というヤツでは? と。
ほら、ドラマとかで好きな人の顔が浮かんでくるアレ。
今まさにそれだった。
みどり色だけどイケメンで、一緒にいて楽しいし、何よりわたしに優しい次郎丸さん。
なるほど脈あり!
「おねえちゃん、顔、すごいことになっているよ?」
「え、あ。大丈夫よ」
きっとわたしはスゴイ悪い顔をしていたんだと思う。
まだ夏休みは残っているんだ。
川で泳いで遊んで。
少し山に入ったところにある淵で涼んだり。
川魚の獲り方を教えてもらったり。
夕陽に染まる農道を一緒に歩いたり―――。
「あ、あれぇ!?」
カレンダーを見て驚愕。
夏休みが今日を含めて、残り3日しかないでは無いじゃない!?
明日は夏祭りと花火大会、で最終日。
東京に帰らないといけない日。
「うそぉ!」
あんなにたくさんあった時間は誰に盗まれてしまったのか。
さりげなくお付き合いという関係になれたら、なんて思っていたら現実はドラマのようにうまく行かなかった。
「どうしたのおねえちゃん?」
「夏休みが、あと2日・・・・・・」
「え、もしかして宿題が終わってないの?!」
「いや、もう終わってる! じゃなくて、わたしの華麗なる計画が・・・・・・」
一緒に過ごしているだけでは人間、好き好き同士にはならないのね。
失敗をもって学んだわたしは強硬手段に出ることにした。
「お祭り行こうよ!」
水着の入ったカバンの代わりに巾着袋を。
タンクトップに短パンの代わりに浴衣を着込んだわたし。
いつものように午後から次郎丸さんと過ごし、夕方に取って返した後、急いで戻ってくると彼は目をまんまるにしていたわ。
「お祭り?」
「そう! 夏祭り! 次郎丸と一緒に行きたいなー」
さりげなく呼び捨てにして迫ってみる。
おしゃれをしてアピールすると男の人はドキマギするってマンガで見た気がするわ。
「ううん。ごめんね。人混みが苦手で」
申し訳なさそうに謝る彼。
こんなことも想定済みよ。
「うん、分かったわ。じゃあここから一緒に花火を見たいな」
少しの間、彼は思案したあと「いいよ」と笑った。
賑やかなセミの声から夏虫の鈴のようなBGMを背景に。
「ねえ、次郎丸さん」
オレンジ色の世界は薄い青色になって。
「なんだい、さくらちゃん」
少し離れた神社から祭囃子が聞こえてくる。
「次郎丸って呼んでいい?」
さっき呼んだけど。
「いいよ」
川の流れる音が聞こえる。
「ありがとう。わたしの事もさくらって呼んで?」
田舎に来た時は、どうどうと流れる音に少しびっくりしたけれど。
「わかった」
少し不思議そうな顔をする彼は、やっぱりみどり色だった。
最初は、田舎のイケメンはみどり色の人もいるのだ、と本気で思っていたけれど。
「明日、東京に帰るの」
「そうか。じゃあお別れだね」
彼の見上げる空に色とりどりの花が咲く。
「必ず帰ってくるから」
どーんどーんという太鼓の音か夜空に咲く花の音か。
「うん?」
首を傾げる彼の唇、じゃなくてくちばし? が半開きになる。
「その時はお嫁さんにして?」
何を狂ったことを言っているんだろう、なんて思われるかな。
ちらりと見やると白い歯を見せて笑っていた。
「ははは、いいよ。でも僕は河童だよ」
「知ってる。次郎丸がいい」
やっぱり河童じゃん。
お肌がみどり色の人間なんていないじゃん。
「そう」
深い青色を夜空に咲く花が照らし出す。
「じゃあ待ってる」