「助けてくれてありがとう! わたし、夏川さくら11歳よ」
「大したことはしてないよ」
木々の合間から光が差す河原。
 大きな岩に腰掛けて言葉を交わす。
「そんな! あなたは命の恩人よ! ねね、何てお名前?」
少しくちびるが厚めで、はにかむ白い歯がカッコいい。
「そんな大げさな・・・・・・。名前、そうか。名前は次郎丸だよ」
謙遜するイケメン改め次郎丸さんが笑う。

 ジワジワジワミーンミンミンミン!
 壮大なオーケストラが出会いを盛り上げてくれているよう。
 顔はイケメンだったし、手足もスラリと長くて、身長170㎝のお父さんよりも高い感じがした。
 手足をおおう水着なのかな?
 顔はみどり色で体もみどり色。

「次郎丸さんはここら辺に住んでいるの?」
足先で水面を蹴りながら尋ねる。
 キラキラとした水滴が宙を舞う。
「そうだね。昔から住んでいるよ」
横に座った次郎丸さんのボブカットの黒髪がしっとりと濡れ、陽の光を浴びてキラキラとしていた。
 まるで川の水面みたい。
「わたしね、東京から来たの!」
「へえ! 遠いところから来たんだね。人がいっぱいいる町だよね」
「そう。でもわたしはあの町が嫌い」
「なんで?」
遊ぶところはいっぱいあるし、電車もバスもいっぱいあって便利だけど、灰色の町は好きになれない。
「キレイじゃないもの」
目の前にあるような透き通った川なんてないし、青々とした木々も無い。
「そっか」
「うん。ここは宝石箱みたいでキレイだから好き。次郎丸さんも親切だし」
チラッと横を見ると照れたような顔をしていたわ。
「次郎丸さんも泳ぎに来たの?」
「僕は魚を取りに来たんだ」
「お魚を?」
「そう。自然の恵みを少し分けてもらうんだ」
そう言うと次郎丸さんがキレイなフォームで川に飛び込んでいった。
 まるでイルカみたい。
「え? お魚って釣るんじゃ」
キラキラゆらゆらとした水面を見つめること数分。
 水面に姿を現した次郎丸さんの手には、キレイな魚が握られていた。
「すごい! 手で捕まえたの!?」
スイスイと泳ぐ魚はきっと捕まえにくいんだろう。
 それを手づかみしたのだ。
「昔からこうやって捕まえているんだ」
ニッコリと笑う次郎丸さんは、わたしの理想の男の人そのものだった。