空が青かった。
 もくもくと立ち昇る白い雲はわたアメみたい。
 ときおり吹く風は爽やか、という表現が一番合うと思う。
 都会のどこかベタつく感じの風でもエアコンの尖ったような冷風でも無い。

 おばあちゃんの言っていた川はすぐに見つかった。
 だって、町の近くを流れていて、すっっっっごい大きかったから。
 流れも結構ゆるやか。
 木陰で水着に着替えたわたしはサラサラと流れる水に足を突っ込んだ。
「びゃーーーーーーッ!!!」
冷蔵庫から出したばかりの麦茶くらい冷たい水に思わず変な声が出る。
「うわあ、うわあ・・・・・・」
そろそろと水に浸かっていくが、そんなに深くない。
 一番深いところで、身長139㎝のわたしの膝くらい。
 じまんのクロールが出来るほどじゃないけれど、わたしは満足してた。
 だって水がどんどん流れてきて、プールには無いおもしろさが合ったから。
 ゴーグルをつけて川の中を覗いたら陽の光でキラキラしていて、名前の知らない魚が七色に光る不思議な世界だった。
 流れるように泳ぐ魚たちを追いかける。
 一緒に泳いでいるような気がしていたけれど、本当にそうだったわ。
 夢中になっている内に深いところに来ていることに気付かなかった。

「あっ!」
川底の石に置いた足が滑った。
 何かに掴まろうとした手が空を切る。
 膝までだと思っていた水かさが胸のあたりまであった。
「がぼっ! ごぼぼッ!!」
体がくるりと水中で回転する。
 どっちが上か分からないけれど、キラキラと輝きながら揺らめいているのが水面だと思って手を伸ばす。
 くるくると視界が回って、暗くてゴツゴツした寂しい光景が目に入る。

 くるくるくる。
 体が水中で舞った。

 ああ、死んじゃうんだ。

 冷たい水が口の中に入ってきて、またくるくると体が回る。
 キラキラした光景が視界に入る。
 もう一度だけ、もう一度だけ手を伸ばした。

 と、急に何かが腕を掴み、勢いよく引っ張られる。
 キラキラした光が、どんどん強くなって、やがて真っ白になったわ。
「大丈夫か!?」
真っ白な世界の中で、男の人の声が聞こえる。
 抱き上げられているみたい。
 ああ、きっとこれがお姫様だっこってやつね。
 最期に夢を見ているんだ―――。
「おい! 大丈夫か!?」
また声が降ってきた。
 歌手か俳優の人みたいな良く通る声。
 やがて、輪郭がはっきりしていくと覗き込んでいる男の人の顔が見えてきたわ。
 目鼻立ちがしっかりしていて、少し垂れ目のイケメンはみどり色だった。
 田舎のイケメンはみどり色なのね。
「・・・・・・うん」

 小学5年生の夏、田舎で出会った彼はみどり色のイケメンでした。