遡れば、宮司を始めとする神主達と顔を合わせた日。彼女の『良いご縁とは悪い縁切りから』という方針に、イコマとニコマを始め一同は困惑していた。彼女は「身近な例で言うとですね」と切り出す。

「初詣、すぐそこですよね」
「は、はあ」
「巫女さん達、お守りやお札を渡したりだとか、不特定多数の参拝客に接する事がありますよね」
「え、ええ。はい」

彼女は「嫌な事を思い出させてしまったら申し訳ありませんが」と決まりが悪そうに前置きした。

「お守りやお札を渡したりする時にやたらと手を触ってきたり、気持ちが悪い事を言ってきたりする、罰当たりで変な参拝客は、一定数いると思います」
『います!』

巫女達の声が揃った。宮司が気まずそうに目を伏せる。

「お恥ずかしい事ながら…皆からそのような被害を聞いておりますので、私達としても対策はしているんですが、追い付かないんです」
「私がやろうとしているのは、そういう変な参拝客と神社の縁を切る事です」

彼女は「つまりですね」と続けた。

「そういう変な参拝客は、他の普通の参拝客にも迷惑をかけている可能性が高いです」

なお彼女が言うような人間は、参拝の場でなくても、つまりは日常の一般社会でも誰かに迷惑をかけている可能性もあるのだが、そこまで言及すると話が脱線してしまうので、彼女はあえて言わないでおいた。

「変な参拝客と神社の縁を切る事は、巫女さん達、つまりは女性スタッフの心身の被害を防ぐだけではなく、他の普通の参拝客も安心してお参りができるようになる、要するに神社全体の治安を良くする事に繋がります。神社の治安が良くなれば、ごく普通の参拝客が訪れ易くなる。つまり神社にとっても良い縁を結ぶ事に繋がります。『良いご縁は悪い縁切りから』とは、そういう事です」

そこで一同は初めて納得したようにホーウと頷いた。
彼女は全員を見据え、凄みのある声で宣言した。

「変な人が二度とここに来られないように計らいましょう。手始めに皆さんを守ります」

かくして彼女は、神主達の心を掴んだのである。