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「それで、君は何しに来たんだ?」
ちゅう秋の家の居間で、お茶請けの煎餅をぼりっとかじる僕に彼は言った。その表情はやはりというか、不機嫌気味で眉を顰めている。
「あまりにも暇だったから、つい来てしまった」
「調査に行ったのに暇ってどういうことだい?」
「そのまんまの意味さ」
ずずずと茶を啜って、僕は淡々と言葉を続ける。元々、調査と言っても現地を見に行ってみようという思いつきだったのだ。それが果たされ、現地に情報がないとわかっただけ、儲けものではないか。
(収穫といえば、あの少女だけだな……)
えらい別嬪の高校生。そして巫女をやっているらしいという情報を脳で再生しながら、僕は次のお茶請けを手にする。ぽりっと軽快な音を立てて、煎餅を齧る。この煎餅、美味しいなぁ。妻の分としていくらか包んでもらえないだろうか。
「……もしかして、誰かに会ったのかい?」
ぽつりと呟くように口にした言葉に、茶請けを口に運んでいた手が止まる。……どうしてそれがわかるのか。もしかして付いてきていたのかと疑いの目を向ければ、ちゅう秋は首を振る。
「そんな顔をしないでくれ。それに、君は私の親友なんだ。わかるに決まってるだろう?」
「……随分と好かれているらしいな、僕は」
「馬鹿言え。嫌いになるものか」
ははっと笑みを浮かべる彼に、僕は肩を竦める。自分の親友はどうやらいろいろと鋭いらしい。彼のブラウンの目が僕を貫き、にやりと弧を描いた口元は嫌な予感を掻き立てた。
(相変わらず、性悪な顔で笑うなあ)
「ずばり。出会ったのは美しい女性だろう?」
「よくわかるじゃないか」
「だろうと思った」
軽快に笑みを浮かべる彼に、僕はニヤリと笑みを浮かべると差し出された茶を再び啜る。少し濃い茶を舌の上で転がし、僕はラジオから流れる今日の天気や道路状況などに耳を傾けた。
彼の妻が料理をする音が僅かに聞こえる中、僕はどうこの場を切り抜けるか思考を巡らせた。女性絡みだと気づいた瞬間、明らかに弧を描く彼の口元に、苦い思いが込み上げる。……面白がっているのが伝わってくる。
「奥さんがいるくせに不貞を働くなんて、私は親友として情けないよ」
「何言ってるんだい、相手はまだ高校生だよ。そんな事あるわけないじゃないか」
「本当か?」
「もちろん」
「それにしては頬が赤い気がするが」
そう言われて僕は一気に居心地が悪くなった。