21
「すまない!」と再び声を上げて、僕は自分の鞄を引っ手繰ると再び外へと飛び出した。運動不足が否めない足を必死に動かし、ひ弱な肺に酸素を注ぎ込む。膝が折れそうになるのを何度も堪え、僕は街を走り抜けた。見えた神社の近くには、野次馬とパトカー、そして青色の制服を着た警察で賑わっていた。

――正確にいえば、犯行現場は神社に至るまでの道だったらしい。人々の足元の隙間から見える水たまり程の大きさの血溜まりは、未だ流されていないようだ。そのせいか、どこか血生臭い臭いが周りに漂っている。
「怖いわねぇ……」
「誰がやっているのかしら、こんなこと」
「迷惑よねぇ、ほんと」
ひそひそと話す婦人方に謝罪をしつつ、僕は人混みをかき分けて最前列へと飛び出した。そこに見えた現場は生々しく、凄惨な現状を伝えている。せり上がってくるものを堪え、ふと視線を周囲へと向ける。
「!」
(あれは……)
神社の鳥居から少し離れた、木の下。そこに添えられた花束は、昨日は置かれていなかったはずの物で。
(もしかして)
花束を置いた人物に思い当たった僕は、事件現場を大回りして神社へと向かった。パトカーで塞がれている大通りからではない小道から、足を踏み入れる。ここまで来れば、人通りはかなり少なくなっていた。
神社の本殿の近くまで足を進める。木々が生い茂るそこは神秘的な空気を感じるものの、どこかいつもとは違って見えた。本殿に近づき、中を覗けば神主らしき人間と、数人の警察の人間が見えた。恐らく事情聴取をされているのだろう。……もしかしたら、天使が餌やりをしていたのがバレたのかもしれない。僕は身を潜めてその状況を見送り、警察が後にしたのを見計らって彼に声を掛けた。
「あ、あの、すみません」
「はい?」
「え、ええっと」
振り返る神主に、僕は言葉を詰まらせる。……勢いよく話しかけたのにも関わらず、自分をどう紹介すればいいのかわからず声を止めてしまったのだ。――聞きたいことは決まっている。しかし、どう説明すればいいのか。
(友人……いや、知人か?)
天使と自分は、一体どういう関係なのだろう。
「あの、どうかされましたか?」
「あ、ああ、いえ! えっと……今いらっしゃるのは神主さんだけですか?」
「ええ。そうですが……もしかして、彼女のお知り合いですか?」
「えっ」