5分って、先生、どこに行ったんだろう…。
 このまま電車に乗るのは、かなり勇気がいる気がする。

 改札の方を見渡すと案の定、電車が遅れているアナウンスが、雨に濡れた人たちの間から聞こえてきた。

 せっかくの、楽しみにしていた金曜日。ずぶぬれで、先生が戻ってきてくれるかもわからない。わざとゆっくり歩けば15分くらいあるはずだった道のりも短くなってしまって、ついていないと浅く溜め息をつく。

 蒸し暑い空気の中でも、濡れてしまった服に風が当たると、体が冷えてくる感じがした時。

「お待たせ」

 5分よりは時間が経っていたかもしれないけれど、先生が戻ってきた。

「着替えておいで」

 差し出された、黒いTシャツ。

 予想していなかった展開に、どう反応してよいかわからず先生の顔とTシャツを見比べていると、困ったように先生が言った。

「ごめん、無難なのにした」

 …そういう事ではないのだけれど。

 まさか、着替えを買いに行ってくれていたなんて思わなかった私は、先生の言葉に思わずTシャツを受け取ってしまう。

「着替えたら、飯食ってこうか。腹減ったから付き合って」

 着替えていいのかさえまだ決められないでいたのに、食事が付いてきた。

 背中に当たる風が、冷たい。先生は、私の返事を待っている。

「すみません。Tシャツ、お言葉に甘えます」

 私はとりあえず、電車に乗れることが可能な状態にさせてもらうために、トイレに急いだ。