目覚めた私は、生まれて初めての感覚に包まれた。
　再びの衝撃。…なにこれ、何でこんなに汗掻いてるの？

　首の周りに、今まで描いたことのないベタベタした汗。額にも同じ種類の汗が、髪をしっとりと濡らしている。

　5月のある朝、気持ち悪さで目覚めた私は、どっぷりとため息の中に落ちた。

　今度はこれ。ホントやだな、東京って。

　4月に学生生活を初めてから衝撃の一つ目は、蛇口から出した水の不味(まず)さだった。これは飲んでも大丈夫？と、なんとなく匂いのする水を、しばらく唖然として見つめた。これで料理もするのか…と。

　朝の空気の埃っぽさと、色々な匂いがまざっれいることにも閉口した。マンションの隣の一軒家のご主人が、気持ちよさそうに深呼吸をして、犬の散歩に出かけるのが気の毒に思えた。深呼吸どころか、普通に息をするのも気が引けるのに。

　そして今度は、汗を搔いた。5月だというのに、しかも朝イチで。確かに昨日は気温が高めで、夜になってもムシムシ感が残っていたけれど。

　実家では考えられない自然の摂理に、驚きの連続だった。

　自慢ではないけれど実家は、エアコンの商品名にもなってしまうような高原と、そこから続く車輪を置いたような形の良い山と、さらに続く稜線に作られる2000メートル級の山々に囲まれている。
　水道からミネラルウォーターも顔負けの水が出るし、空気はたっぷりのマイナスイオンを含んでいて、肺の隅々まで浄化してくれる。朝は涼しくなるので、真夏でさえ窓を開けて寝るのは厳禁だ。

　そんな土地(ところ)で育った私は、東京の持つ多くの魅力はわかっていても、生理的にとても住み続けることはできないと、心底思った。

　それでも起きないと。時計は、7時になろうとしている。

　朝、シャワーを浴びる必要があることも初めて知った。
　今日は、朝から授業がある。

　新しく知ることが増えるのは、そう悪いことではないと自分に言い聞かせて、バスルームの扉を開けた。