あらかたおでんを食べ終えると、サンダルを脱ぎ捨てて、私は波打ち際に向かった。

右手には飲みかけのビール、左手はズボンのポケットの中をごそごそと探る。
中につまっているのは、ヨータと一緒にこの海で拾った小石やシーグラス。
いい歳した女がこんなふうに言うのもナンだけど、これはヨータの次に大切な私の宝物だった。

それをぎゅっと握りしめてから、ぽーいと海に放る。

「バイバイ」

思い出のシーグラスは、ちゃぽん、と気の抜けた音をたてて暗い波間に沈んでいった。
それを何度か繰り返してポケットが空になると、私は砂浜に腰をおろしてぬるいビールをちびちびと飲んだ。

夜の海はエモい。真っ暗な海の向こうに月の光がキラキラと輝いて。

そういえば。あのアパートへ越してきた日の夜も海を眺めにここへ来た。
たしかあれも夏だった。海のそばでの暮らしに憧れてここに移ってきたのが4年前の8月。

それからーーーと、この街でのささやかなヒストリーを辿りつつ、ビールを喉に流し込む。

ヨータと知り合ったのが3年前。
同棲をはじめたのが2年前。
そして、おいてきぼりをくらって捨てられたのが半年前。

この街も、ここでの暮らしも好きだったけれど。
きっともう、ここへは二度と来ないんだろうなって思う。