あーん、ぱくり。

と、かぶりついてみて、私は「ん?」と首をかしげた。

「・・マズくは、ない・・んだけどーーーー」

出汁の取り方だろうか。どうにも味にしまりがない。
何かが足りていないのだが、料理のセンスに欠ける私にはそれが何かまではわからない。

「やっぱりヨータの作るおでんのほうが美味しいな・・」

コロッケだってハンバーグだって、ヨータの作ってくれたものはなんだって美味しかった。
インスタントラーメンですらヨータが作れば格段に美味しく仕上がるのだからとても敵わない。
手先の器用な男だったのだ。本当に。

ショボいおでんに箸が止まりそうになるも、そこはぐっとこらえておく。
だってこれから先は、このボヤケたおでんが冬のスタンダードとなるのだから。

口の中に残っていた大根をごっきゅんと飲み込んで、たまご、丸天、牛筋、白滝・・と次々に食べ進み、波に乗って2本目のビールにも手を伸ばす。

うん。これはこれでいいじゃないか。十分だ。
いい汗かけたし、すっごい満足。
と、笑ってみる・・が。

どんだけ食べても飲んでも。
やっぱり気持ちよくはなれないものだ。

なにもかも全部忘れて清々しく前を向くつもりだったのに、チョットまだ・・そういう境地には辿り着けそうにない。

あれから半年もたつのに、私はヨータのことをなにひとつ忘れられない。
傷口は生々しく開いたまんま、塞がる兆しすらない。

寝ても覚めても、思い出すのはヨータのことばかり。
後悔の沼にどっぷりとハマり込んだまま、私はぴくりとも身動きがとれないでいる。