〜 Side 雛子 〜

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 生物不思議研究部が発足したその日の帰り道。みんなと別れて帰路に着いている途中で突然通り雨に襲われた。傘を持っていなかったので、早歩きで帰宅する。
 走って転んではいろんな意味で大変。だから私は人前では走りたくても走れないのだ。

「…ふふっ」

 今日の出来事を思い出し、雨だと言うのに思わず口元からは笑みがこぼれた。


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「ただいま」
「おかえり、雛子。雨、大丈夫だった?」
「うん、なんとか大丈夫」

 なんとか家に到着する。早歩きをしなくてはならない都合上、びしょ濡れになってしまうので普段は大嫌いな夏の雨。
 でも今日は少しキラキラして見えた。
 今日までの出来事を思い返す。高校生になって初めての経験ばかりだった。雛鳥にご飯をあげたことも、放送室に入ったことも、廊下を楽しく走り抜けたこともその全部が新鮮な経験だった。

「雛子、なんだか嬉しそうね」

 だからなのか、こんな風にお母さんに勘づかれてしまった。

「え?そ、そう?」
「なにかいいことでもあった?」
「別に?」

 なんとなくいつも通りを装って少しぶっきらぼうに返してしまう。

「…ふふっ」

 しかしなにかを察したようでお母さんは小さく微笑む。少し気恥ずかしい。

「雛子」
「なに?」
「学校はどう?楽しい?」

 普段は朝に聞かれるその問い。いつもなら酷く鬱陶しく感じる。

「…別に普通」
「ふふっ、そう」

 けど今は嫌な気がしなかった。

「い、いいからご飯の準備しなよ」
「はいはい」

 言いようのない恥ずかしさを隠すように普段履きのローファーを脱ぐために片足立ちになった瞬間──

「あれ?」

 身体中を嫌な悪寒が走り抜け、バランスが崩れる感覚に襲われた。ぐらりと視界が微かに歪む。頭がぼーっとする。熱いんだか寒いんだかわからない不思議な感覚。

「雛子!?」

 お母さんの心配する声ともに私はゆっくり玄関にへたりこんだ。
 あぁ。完全にやってしまった。これだけは大変だから気をつけてたのに。安心して緊張の糸が解けたのかな。
 ジューッという蒸気の音ともに玄関に焼けるような熱が広がった。