「名前といえばこの子の名前も決めないとね」
「ピィ?」

 名を呼ばれて少し嬉しくなり会話を広げる。雛鳥が首を傾げて僕に反応した。

「名前か…難しい」
「んー、あっ!僕思いついたよ!不死鳥だからフッシーとかどうかな?」
「センスない」
「えぇ!?じゃあ、フェニ太とかは?」
「え、嘘でしょ…」
「ええ!?」

 提案するも僕のネーミングをザクザクと切り裂いていく不知火さん。僕って名付けセンスないのか…傷つくな。

「んー、ピーピー鳴くからピィちゃん?」
「…いや、不知火さんも僕と大差なくない?」
「む…私のは赤翼くんのと違って可愛らしい」
「いやいや」
「いやいやいや」
「ピィ!」
「ほら、この子もピィちゃんを気に入ってる」

 ただ鳴いただけじゃない?納得いかない。こうして半ば無理矢理だが、この子の名前はピィちゃんに決まった。

「ピピィ!」

 しかし、この子自身が気に入っているのなら是非もない。

 ガララッ!

 すると名を決めた直後、建付けの悪い部室の扉が響く。

「や、やぁ…」

 開いた扉から十鳥先生が苦笑いで顔を出した。

「あ、先生。私たち食べ物を買ってきて、食べて貰えました。それで…」

 間髪入れず、不知火さんが少し嬉しそうに現状の報告。しかしふいに言葉が止まる。

「…あっ!」

 僕も思わず声を出して驚く。開いた扉の先にいたのが十鳥先生だけではなかったからだ。

「あはは…2人ともごめんね、バレちゃった」

 気まずそうに謝る先生。先生の隣に佇むその人の姿を見て、しまった…と僕は絶句した。
 先生の隣には1人の女生徒がいた。長い茶髪に凛とした顔立ち。大人っぽく落ち着いた見た目。
 僕はその人を知っている。いや、この学園で知らない人はいないだろう。なにせ生徒の代表なのだから。

「突然訪れてしまって申し訳ないね。3年で生徒会長の一百野(いおの) (しおり)です」
「…ピィッ?」

 ピィちゃんが首を傾げる。その鳴き声とともに、サァッと一筋の夏風が部室を吹き抜けた。