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「ピィ…ピィ」
「ごめんね、おまたせ」

 部室に戻ってきて鳥籠に近づくと元気がなさそうに鳴いてくる。鳥籠の中にあったご飯はやはりほとんど減っていなかった。

「元気ないね」
「そうだね。早くあげようか」

 ガサガサと買ってきた食べ物を広げる。不知火さんは明らかに虫と生肉を避けて袋から取り出してた。苦手なんだな…いや、普通は苦手で当然か。虫を遠い距離から恐る恐るつっつく不知火さんは、誰がどう見ても普通の女の子だった。

「ほら、ご飯だよー」

 まずは果物をと思い、りんごを少し砕いて食べやすい大きさにして近づける。

「ピュイ…ピィ」

 手のひらに乗せた果物を薄目で見つめながら、弱々しく声を出して近づいてくる。

「キュゥ」
「あっ」
「食べた…!」

 そのまま恐る恐る啄み、シャクシャクと音を立てながら砕いたりんごを食べてくれた。僕も不知火さんも、思わず嬉しそうに声を上げる。

「…ん、今のところ吐かなさそうだね。明らかに昨日より食い付きがいい」
「よかった」

 パクパクと雛鳥が積極的に食べる姿を見て、不知火さんが安堵のため息をつく。

「不知火さんもやってみる?」
「う、うん!」

 不知火さんの顔が少し明るくなった。パッと少しだけ笑う。普段の無表情より、そっちの方が遥かに似合う。青い夏に映える綺麗な笑顔だ。

「じゃあ、他のを試してみようか」
「え?」
「どれが好きかわからないし、買ってきたのは全部試してみよう。とりあえず、虫とか」
「む、無理無理無理!」

 しかしそんな笑顔から一転、ブンブンと首を振って拒否する。笑顔を見れて少し空気が柔らかくなったのか、僕の心に小さな加虐心が芽生えた。

「えー、あげるって言ったのに?」
「だ、だって…」
「もしかしたら好きかもしれないし、虫は栄養たくさんあるんだよ?」
「うっ…」

 嫌がる彼女へのちょっとしたイタズラ、彼女の責任感に問いかけてみる。この子を助けたいという気持ちは昨日からひしひしと感じていたので、それを利用する形だ。