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「んんん、わからん」
「いや翔、その問題は暗記だから覚えなよ」
「んなこと言われても、生物難しいって」
「というかそう言う赤翼くんもワークの小論文の問2、間違えてるからね?」
「えっ!?」

 夏休みに入って2週間とちょっと。もう折り返しに差し掛かった8月半ば。夏の日差しは暑さを増すばかりで、まるでこれからが本番といった風に弱まる気配がない。
 そんな中、僕らは3人部室に集まって夏休みの宿題をしていた。
 翔曰く『三人寄れば文殊の知恵!宿題は手伝うのが友達!』とかいう謎理論でみんなで軽く勉強している。絶対に手伝って欲しかっただけだ。

「ピイッ!」
「ふふっ、ピィちゃんちょっと待っててね。2人が今日の分の宿題を終わらせたらきちんと遊んであげるからねー」
「ピピピィ!」

 ピィちゃんが早く!と言ったような気がした。

「というか不知火さん、宿題随分進んでるね。僕なんて部活で全然進んでないんだけど」

 不知火さんは宿題を計画的にやっていたようで、もう終わりが見えているとのこと。僕と同じ時間部室にいたはずなのだが、いつやってたんだろうか。

「まだ終わってはいないけど、今日のノルマ分はやったって感じかな。あと部活を言い訳にしたくないし」

 うわ、すごい正論。グサッと刺さった。僕が顔を顰める。

「やーいやーい」

 なんだ翔のやつ。僕より遥かに進んでないだろ。
 僕がキッと睨むと、翔は「おぉ、怖っ」とでも言うかのようなジェスチャーをとって不知火さんに目線を向けた。

「不知火さんってもしかして頭いい?」
「すごく失礼な聞き方じゃない?」
「そ、そんなことないよ?」
「ふぅん?まぁそこそこかな?」

 そういう謙遜する人ってだいたい、上から数えて数番目に名前がある子が多い。完全に偏見だけど。

「私の場合は体育出れない分、座学取らないと示しつかないかなって」
「不知火さんって偉いよね」
「うん、俺もそう思う」
「えー?そうかなぁ?」

 暑い部室の中で少し頬を赤らめる不知火さん。
 不知火さんは結構簡単に照れる。人と関わらないようにしてたせいなのか、結構ちょろい面が多い。

「まぁ、そんな不知火さんも間違えるんだね。小説問題の問3、主人公の気持ちはしっかり間違ってるよ?」
「え、嘘!?」

 翔に指摘されて不知火さんがワークを見直す。僕と同じ現代文のワークをやっていた。

「あははっ!有真も現代文の気持ちを答える問題苦手だよね!なんかほら、友達少ない同士似るんだなって」
「なんだと?」
「聞き捨てならないわね」

 ちょっとおふざけで馬鹿にしてきた翔。僕と不知火さんは顔を見合わせる。

「翔、その生物のワーク、問1と4と5間違ってるから」
「えっ!?」
「あと私たち答え教えないから」
「そんな!ごめんって!」

 反撃成功。不知火さんとまた顔を合わせて2人で笑ってなんとなくハイタッチ。

「ピィー」

 その姿にピィちゃんも笑うように鳴いていた。この夏の空気はとても青く見えた。