「……ピ」

 やがて、ピィちゃんの呻き声が弱くなる。骨も羽毛も嘴も何もかも炎の中で燃え尽きる姿を目にしながら、段々と小さくなる声に必死に耳を傾けた。ともすればグロテスクなその光景から、誰一人目を逸らさなかった。

「……」

 そしてついに鳥の姿の原型すらわからなくなり、全く声が聞こえなくなった。数分後、炎は静かに鎮火していく。シュウッと萎むように消えゆく炎。その場に残ったのは灰の山のみ。握りこぶし2つ分程度の小さな小さな灰の山。

「…ピィちゃん」
「そんな…」

 復活するから死んでも問題ない、ベニクラゲなどの不老不死の生態を知った時、心のどこかでそう思ってた自分がいた。
 でも違う。そうじゃない。実際に目にしてみてわかった。生まれ変わるのと、死にゆくのは別だ。今この瞬間、ピィちゃんは確実に命を失った。辛く苦しい業火の中、体を燃やしながら、苦しみながらこの世を去っていった。
 きっとこの灰から新しい命が生まれる。それは間違いなくピィちゃんだけど、そうじゃない。理屈ではなくそれを肌で感じ取った。
 死にたくて死んだわけじゃなく、自身の命を繋ぐための死。それを何度も何度も繰り返してこの子達は今まで生きてきた。個を殺し、種を存続させる。生物の存続としては正しくても、ピィちゃん自身としてはやりきれないことこの上ない。
 もっと生きたかっただろうなと、そう思うと悔やんでも悔やみきれない。

「……」
「……」
「……」

 死んだら消えていなくなってしまう。たとえ生まれ変わったとしても変わらない。個が1つの命を健全に全うする。それがどんなに難しく、幸せなことか。
 イタズラに奪われてはいけない。どんな条件でも軽く見てはいけない。命は想像するよりも遥かに重いんだと、僕らは今はっきりと理解した。
 そしてそれは僕らの心にぽっかりとした穴を空けるにはあまりにも充分すぎた。