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談話室にはいっぱいの来客で埋まっていた。


イスの数が足りなくて、廊下で立っている人もいる。


きっと、人づてに今日結婚式をあげる話を聞いて、かけつけてくれた人がいるんだろう。


大樹はその中に自分の兄の姿を見つけて驚いた。


兄にはなにも伝えていなかったのだけれど、両親からなにをしようとしているのか聞いたのだろう。


兄は大樹と視線がぶつかると一瞬険しい顔したが、すぐに柔和な表情に戻った。


そして一番に拍手をしてくれる。


その音に気がついた他の人達が大樹と萌がやってきたことに気がついて拍手をして、小さな会場は大きな歓声で包まれた。


ステージでは牧師代わりの担当医が待っている。


担当医はこの日だけの萌の回復に驚きながらも、兄と同じ医師であるからあの神社のことを知っているようで、なにか納得したような表情でふたりを祝福してくれた。


「おめでとう、萌!」


希の声が泣いている。


他の人たちも泣き笑いの表情を浮かべて拍手を続ける。


「誓いのキスを」


担当医にそう言われたとき、萌は一瞬戸惑った表情を浮かべた。


大樹は小さくうなづき、萌に身長を合わせてかがみこんだ。


このキスではもう命を移すことはできない。


たとえ、萌の命がここで尽きたとしても。


「萌、世界一、愛してるよ」


そう囁いて、大樹は萌にキスをしたのだった。