「大樹くん」


声をかけてきた萌の母親は初めて会ったときよりも随分と老けて見えた。


白髪が増えて疲れた顔をしている。


体力的にも精神的にも追い詰められているのがわかって胸が痛む。


「こんにちは」


「毎日来てくれてありがとうね。だけど、あなたはあなたの生活を大切にしなきゃ」


萌と同じようなことを言われて思わず少しだけ微笑んだ。


似たもの親子といった感じがする。


「大丈夫です。部活にもちゃんと出てるし、問題ありません」


そう答えるとふと母親がなにか思いついたような顔になった。


「そういえばあの子の絵はどうなったのかしら」


それは大樹へ向けた言葉ではなく、つぶやきだった。


「絵、ですか?」


萌が美術部に入部していることはもちろん知っている。


病気になってからは家に持ち帰って作業していることも聞いていた。


だけどどんな絵を描いているのか、絵が完成したのかどうかは知らされていない。


もしかしたら、未完成のまま家に置かれているのかもしれない。


「よかったら、あの子の絵を見に来てやって」


「あ、はい」


そう言うと母親は大樹に頭を下げて病室へ入っていったのだった。