「いい加減に寝なさいよ」


母親からそう言われても、萌はクローゼットの前から動くことができなかった。


明日は人生で初めてのデートだ。


絶対に心に残るものにしたい。


そのためにはまず自分の服装が気になった。


「ねぇお母さん、こっちのスカートとワンピース、どっちがいいと思う?」


「どっちも同じ青色でしょ。変わらないわよ」


「スカートとワンピースだよ? 同じなわけないじゃん! ちゃんと見てよ!」


「はいはい。それじゃワンピース」


「なにそれ、ちゃんと見てくれた!?」


萌は本気で悩んでいるのに母親には軽く返されるばかり。


時間はすでに夜11時を回っていて、それでもまだまだ決まらない。


「あのね萌、服装のことで大樹くんが萌のこと嫌いになったりすると思う?」


「それは……」


「ね? 服装も大切だけど、それくらいのことで嫌われることはないんだから、安心しなさい」


そう言われたらもうなにも言えない。


萌は母親が選んでくれた青いワンピースをクローゼットから取り出して、ハンガーにかけた。


明日はきっと楽しい1日になる。


一生忘れることのできない最高のデートになる。


萌はそう信じてベッドに潜り込んだのだった。