龍神と許嫁の赤い花印二~神々のための町~


 そして昼休み、教室で待っていると、約束通り千歳が迎えに来た。
「食堂行こう」
「うん」
 隣について歩くがどうもなにか変な感じだ。
 慣れないというか、違和感というか。
 まあ、今日初めて会った人なのだから同然と言えば当然だ。
 ふたりで歩いて食堂に入ると、周囲から視線を感じる。
「あの噂本当だったんだ」
「美波さんも桐生さんも断った、あの成宮君が転校生選ぶなんて」
「神薙の資格を持ってる成宮君は引く手あまただったのにね」
 周囲から聞こえてきた声にミトの注意が向く。
「千歳君って神薙の資格持ってたの?」
「うん。去年取った」
「ということは十五歳で?」
「そう。日下部んとこの蒼真さんと一緒。まあ、俺は蒼真さんみたいに誰か龍神の神薙はしてないけど。蒼真さんはサラブレッドで俺は雑種だから仕方ないけど」
 意味が分からなかったミトは首をかしげる。
「日下部家は代々龍花の町で神薙として、多くの龍神に仕えてきたんだ。でも俺は別に身内に神薙がいるわけでもないから、龍神のように大事な方の神薙をするには経験も年齢も若すぎるから、いざという時責任が取られないってさせてもらえてない。蒼真さんはおじいさんが保護者としてついてたから可能だったって話」
「千歳君も龍神のお世話をしたいの?」
「んー、よく分かんない。したい気もするけど、ちょっと怖い。だから、紫紺様に選ばれたミトの世話係を言い出すのはちょっと悩んだ」
 ミトは目を丸くする。
「千歳君は私が波琉のこと知ってたの? もしかして今朝登校する時見てた?」
「見てないけど、一応俺も神薙だから、情報は共有されてる」
「なるほど」
 確かに蒼真もそんなことを言っていた気がする。
 自分とは関わりがない皐月のことも知っていたし、同じ神薙なら千歳がミトを知っていてもおかしくない。
「神薙の資格持った生徒って学校内に他にいるの?」
「いない。俺だけ」
 それはかなりすごいことなのではないだろうか。
「千歳君って優秀なの?」
「んー、たぶん」
「たぶんって……」 
 大きなあくびをしながら空いた席を見つけると、ミトが座れるように椅子を引いてくれる。
「えっと、ありがとう」
「メニューなににする?」
「ラーメンにしようかな」
「分かった」
 そう言うと、ミトが止める前にさっさと注文を待つ列に並びに行ってしまった。
 追いかけようとも思ったが、席を取っておいてくれという意味かもしれないと、ミトは座り直す。
 少しして戻ってきた千歳は、当然のようにミトのラーメンも持ってきてくれた。
「ありがとうね」
「いいよ。これも世話係の仕事だから」
「そうなの?」
「うん。他の世話係は皆してるから気にしないで。ほらそっち見て」
 よくよく観察してみると、確かに特別科の子はテーブルで座っており、特別科ではない生徒が食事を持ってきたり飲み物を用意したりと甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
 それは男女変わらずだ。
「執事みたい」
 蒼真が執事の教育も受けると言っていたが、こういう時のためにあるのかもしれないなと考える。
「ねえ、千歳君はそんなに優秀なのにどうして私のお世話係になってくれたの? 私が波琉の伴侶だからかなとも思ったけど、その前に皐月さんや桐生さんからも申し出があったのに断ってるみたいだし。なにか他に理由があるの?」
 まだなにも知らない千歳のことをなにか知れるのではないかと、ミトは質問してみた。
「あんな我儘女たちは嫌だから」
 返ってきたのはなんとも歯に衣着せぬ発言。
「でもミトは、あの我儘女その一のせいで周りに無視されてても毅然としてた。それが格好よくて、仲良くしたくなった」
 千歳はまるで無邪気な子供のように笑った。
「我儘女その一に対して啖呵切ったのは見物だった。ナイスファイト」
 そう言って、ぐっと親指を立てたのである。
 もしや見られていたのかと、ミトは恥ずかしくなった。
 けれど、格好いいと言われて悪い気がするはずがない。
「私も千歳君と仲良くなれたらいいな」
「じゃあ、これからなればいいよ」
「うん。そうだね」
 互いにニコニコと笑っていると、ふと蒼真の言葉が頭をよぎる。
「蒼真さんが、千歳君はクセが強いとか言ってたけど、話してみると全然だね。どうしてそんなこと言ったんだろ」
「我儘女その一に要請された時に、自分が認めた奴以外には龍神だろうと仕えないって大衆の前で大見得切ったからだと思う」
「皐月さん相手にそんなこと言ったの? 度胸あるね」
 ミトには波琉という絶対的な盾があるが、ただの神薙である千歳には、守れる防具がないというのによく言えたものだ。
「ミトほどじゃないから」
 からかうように口角をあげる千歳をミトはじとっとにらむ。
「ブサイクな顔になるよ」
 千歳に鼻をつままれてミトは慌てて顔を後ろに背ける。
「波琉はかわいいって言ってくれるもん」
「紫紺様は目が悪いのか?」
「そんなことない!」
「だって……なあ?」 
 意地が悪そうに笑う千歳に、ミトの眉間に青筋が浮かんだ。
「千歳君!」
 肩を震わせた千歳は声を押し殺して笑う。
 この少しの間にずいぶんと打ち解けたような気がする。
 見た目に反して千歳はなんとも気安い性格をしていたのもあるだろう。
「あんまりからかってると、クロに言いつけてやる」
「クロ?」
「我が家に居着いてる黒猫」
「猫っ」
 なにが面白いのか笑いが止まらないようだ。
 もしや笑い上戸なのか。
 すると、嫌みな声で割って入る者がいた。
「あら、ずいぶんと楽しそうじゃない」
 ミトの前に立ったのは、皐月だった。
 相変わらず取り巻きを連れている。
「小娘が生意気にも神薙科で世話係を探しに行ったそうじゃない。全員に断られたらしいけどね」
 クスクスと示し合わせたように取り巻きたちが笑うが、その笑い声には力がなく、顔色もあまりよくない。
 ミトが龍神に選ばれた伴侶の上、皐月の龍神よりも位の高い紫紺の王だと知っているからだ。
 知ってなお、ミトに相対するとはかなりの愚か者だ。
 皐月も紫紺の王のことは他の生徒から聞いていたはずなのによくミトに突っかかってきたものである。
 なにかしようともミトは皐月のように波琉の名前を利用しようとは思わないが、話を聞いた波琉が勝手に動くことはあり得る。
 また嵐にならないといいなと、別の心配をしていると、皐月の矛先は千歳へと向いた。
「ねえ、成宮君。今からでも遅くないから私の世話係になりなさいよ。そんな女よりよっぽど言い思いができるわよ?」
「いらない」
「私は久遠様に選ばれた人間よ!」
「それで言うならミトは紫紺様に選ばれた貴い人ってことになるよ。それに、龍神を笠に着て好きかってする我儘女に誰が仕えたいと思うんだよ。俺はごめんだね」
 そう、千歳はぴしゃりと切って捨てた。
 思い通りにいかない千歳に、唇を引き結び怒りに震える皐月。
「どいつもこいつも私を馬鹿にして……っ。久遠様に言いつけてやるわ! 今度は警告なんかじゃない。本当に久遠様が動くことになるから覚悟しておくことね!」
 そう言うと背を向けて行ってしまった。
 なにをしに来たのかさっぱり分からない。
 ミトと千歳は顔を見合わせて苦笑する。
「千歳って怖いもの知らずね。皐月さんにあんな風に言って大丈夫なの? ほんとに久遠様が出てきたら大変なことになるのに」
「たぶん大丈夫。久遠様は温厚な方って、神薙では有名だから」
 それならいいのだが、万が一の時は波琉に助けを求めるしかない。
 波琉に頼りたくないと言っておいてずるいが、龍神には龍神に相手をしてもらわなくては、人間は神の前では脆く脆弱だから。
「龍神の位が自分のものと勘違いしている馬鹿が多いから困るよね」
 ありすも聞こえる位置にいるのに、平然と言ってのける千歳には頼もしさしかない。

 放課後、迎えに来た車まで千歳が案内してくれた。
 明日からは出迎えもするからと口角をあげる千歳は、面倒な仕事が増えたにもかかわらず楽しそうだった。
 理由は分からないが、世話係という役目を負担に思っていないならいい。
 屋敷に帰宅するや、波琉より先に蒼真に会いに行く。
 そしてリストの一番最後にあった千歳が世話係になってくれることになったと告げると、蒼真は大層驚いた。
「千歳君はすでに神薙の資格を持ってるんですね。そんなに優秀なのにリストの最後だったのはどうしてですか?」
「言っただろう。クセが強いって。誰でもやりたがる龍神に選ばれた伴侶からの要請を断るような奴だ。一筋縄じゃいかない奴なんだよ。だからミトが頼んでも絶対に断ると思ってリストの最後にとりあえず入れておいたんだ。それなのに、まあ、よくあいつを釣りあげたもんだ」
 わしゃわしゃとミトの頭を撫でる蒼真はどこか嬉しそう。
「あいつはちょっとどこか昔の俺に似て排他的なとこがあるからなぁ。仲良くしてやってくれや」
「はい」
 蒼真に言われなくとも仲良くする気満々だ。
 蒼真との話を終えると、早速波瑠にも世話係ができたことを伝えに行く。
「波琉~」
 どこか上機嫌で波琉の部屋を訪れると、いつもの優しいほわほわと温かくなるような笑みで迎えてくれる。
「ミト、おかえり」
「ただいま。聞いて、波琉。私にお世話ができたの。千歳っていう子でね、蒼真さんみたいに怒らせたら怖そうな男の子なんだけど、話しやすくていい人そうなの」
「男……なの?」
「うん。そうどけど?」
 すると、波琉から笑みが消える。
「どうして男なの? 同性で選ばなかったの?」
「確かに女の子もいたけど、千歳君以外の子には断られちゃったんだもん。でも、千歳君でよかった」
 千歳ならば対等に付き合っていけると思えた。
 機嫌のいいミトは、ふと波琉の表情が曇っているのに気づく。
「波琉、どうしたの?」
 波琉はそれにすぐには答えず、ミトをぎゅっと抱きしめた。
 様子のおかしな波琉に不安を感じたミトも抱きしめ返す。
「波琉?」
「ミトは、あんまりその子と仲良くしないでって言ったら怒る?」
「理由によるかな。仲良くしたら駄目なの?」
「駄目なわけではないよ。ただ……。これは僕の我儘かな。心配なんだよ」
 波琉は「はあ……」と、深く息を吐き、ミトを横抱きに抱き直す。
 そうすれば先ほどよりお互いの顔がよく見えた。
「ごめんね。ちょっと心配になっちゃっただけなんだ」
「どういうこと?」
 いったい波琉になにが起こったのかミトには理解できないでいた。
「うーん、あんまり言いたくないけど、簡単に言うとやきもち焼いちゃっただけなんだ」
「波琉が?」
 誰にとはわざわざ聞かずとも分かるだろう。千歳の話をしていたのだから。
「花印を持った子が絶対に龍神に選ばれるとは限らないって話したよね?」
「うん」
「それはね、人間の方だってそうだよ。もし龍神が気に入らなければ断ったっていいんだ。そこはお互いの気持ちが大事だからね」
「そうなんだ」
 ミトは少しびっくりした。
 誰も彼も龍神に選ばれるのはとても素晴らしいことだと言わんばかりの態度でいる上、龍神を崇めている。
 そんな龍神から伴侶に求められて断るという選択肢が人間側にもあるのだとは思わなかった。
 まあ、あったとしても、ミトが大好きな波琉からの求めに応じないはずがないのだが。
「それがどうかしたの?」
「花印を持った子には世話係がつけられるでしょう? それは成人してからも花印の子のそばで尽くすことが許されるんだ。それだけずっと一緒にいたら情が生まれてもおかしくないと思わないかい?」
「波琉は私が波琉じゃなくて千歳君を好きになるかもしれないって思ってるの?」
 わずかにミトの眼差しがきつくなる。
 浮気相手もいないのに浮気を疑われたら当然だ。
「別にね、神薙と恋に落ちるのが悪いわけじゃないよ。実際に迎えに来た龍神の求めを拒否して、天界に渡ることよりも神薙と人間の生を生きることを決めた花印の子もいるにはいるんだ」
「そうなんだ」
 それは初めて聞いた話だ。
「だからってわけじゃないけど……。もしミトがそんな風に神薙に恋をしたら、僕はこの町を半壊程度じゃ済ませられそうにない」
 何気に怖いことを言っている。
「ごめんね。ミトが心移りしないか心配だったんだよ」
 しょぼんとする波琉の様子に、ミトはなんとも言えない母性が刺激された。
 思わすかわいい……と思ってしまったのである。
「私には波琉が一番だから。千歳君と仲良くなりたいとは思うけどそこに恋とか愛とかはないから安心して」
 これで納得してくれるかは分からないが、ミトは精一杯の気持ちを伝えると、波琉はスリスリと頬を寄せてくる。
「そうだよね。ミトを信じるよ」
「うん」
 これで問題は解決。
 しかし、ミトには気になることができた。
「ねえ、波琉。神薙と恋に落ちる人もいるって言ってたけど、花印を持った子の恋愛事情とかどうなってるの?」
 学校でも、花印を持った生徒のほとんどが龍神の迎えが来ていない。
 伴侶に選ばれたのは皐月とありすのふたりだけ。
 その外の人たちは今後どうなるのだろうか。
「その辺りは蒼真の方がよく知ってると思うから今度詳しく聞いてみるといいよ。僕が知ってる限りだと、花印が現れて龍花の町に降りてきても、龍神がその相手を選ぶとは限らないってこと。気に入らなくて帰ってしまえば、もうその花印の子が龍神に選ばれることはないわけだ」
「うん」
「正直、まだ迎えに来ていない花印を持った者の方が立場は強い。今後迎えが来る可能性があるんだからね。けど、龍神から拒否されれば、花印を持っていてもただの人間と変わらない。龍神と縁を持つことは絶対にあり得ないんだからね。この町での立場は、まだ迎えが来ていない子よりかなり弱くなるんじゃないかな」
「龍神の伴侶になって、その後縁が切れることはあるの?」
「当然あるよ。人間同士でも離婚するように、やっぱり気が合わないってなるのは仕方のないことだからね。誰が悪いわけではないんだけど。まあ、基本的に人間は龍神に選ばれることを望んでいる方が圧倒的に多いから、さっき言った人間側から断られるってのは稀な例だよ」
 その稀な例ということは、その例になった龍神が存在するということだ。
 少しかわいそうな気がする。
「だから僕を稀な男にしないでね」
 波琉は茶目っ気たっぷりな笑顔でミトの頬にキスをした。

 久遠に言いつけると皐月は吐き捨てていたものの、千歳が久遠からなにかされることもなく、学校で千歳と行動することが多くなったミトは、無事にぼっちを卒業した。
 ミトが紫紺の王の伴侶だと周知されるようになった後は、今さらのように神薙科の生徒が世話係になりたいと言い寄ってきたが、すでに神薙の資格を持つ千歳がいるから必要ないと断れば相手はぐうの音もでないようだった。
 つけられる世話係はひとりと決まっているので、新しい世話係をつけるためには今いる千歳をやめさせなければならない。
 数少ない味方になってくれた人をやめさせるはずがないではないか。
 なので、自分の利になると思って、さぞ慌ててやって来たのだろうが、今さら来てももう遅い。
 世話係がひとりと決まっているのは、人数制限をなくしてしまうと、皐月やありすのような発言力のある生徒に集中してしまうのを避けるためだという。
 確かに、どうせ世話をするなら力のある人につきたいと思うのはおかしくない考えだ。
 なんにせよ、並み居る希望者は、千歳の名前を出して撃退していた。
 すると、数日も経てば誰も寄りつかなくなった。
 これでのんびりと静かに昼食が取れると気を抜いていたある日、ミトに声をかけてきたのはもうひとつの派閥のトップである桐生ありすであった。
「こんにちは、星奈さん」
「こんにちは……」
 やや警戒してしまうのは仕方がない。
 こんな風にありすがミトに話しかけてきたのはこれが初めてなのだから。
 皐月は相変わらず紫紺の王の伴侶と分かりつつも、ミトに暴言を吐きまくっていたが、ありすはずっと傍観者をきどっていた。
 他の生徒が皐月に絡まれた時には助けに入るのに、ミトが皐月に絡まれていても見ているだけで手も口も出してこない。
 まあ、ありすがなにもしなくとも、頼れる世話係の千歳が毒を吐いて退散させてしまうので、必要ないとも言う。
 だとしても、これまで接触をしてこなかったのに、どんな用があるというのだろうか。
 ありすはにこりと微笑みながらミトの向かいの席に座る。
 千歳は『なに勝手に座ってんだ』と言いたげな眼差しだ。
 皐月のように毒を吐かないか心配である。
 千歳いわく、ありすは『我儘女その二』らしいから。
 どんな我儘があったかはミトが転校してくる前のことだから知らないが、なにかしらのいざこざがあったのは確かのようだ。
「これまでなかなかお話ができずにいましたね」
「そう、ですね……」
「あなたのおかげで皐月さんに虐められる方が減って、お礼を言いたいと思っていたんですよ」
 これは嫌みか?と勘ぐってしまう。
 生徒の被害が減ったのは、矛先がミトに向かうことが多くなったからである。
 ミト自らがなにかしたわけではない。
「そうですか……」
 ありすがなにを言いたいのか分からずにモヤモヤしていると、同じく耐えかねた千歳が喧嘩腰でにらみつけた。
「なあ、言いたいことあるなら早くしたら? こっちはあんたにかまってられるほど暇じゃないだけど」
 龍神の伴侶にたいしてなんと強気な発言。
 ヒヤヒヤもするが、よく言ったと褒めたくもある。
 ありすは一瞬眉をひそめたが、すぐににこやかな顔に戻り、ミトに向かって告げる。
「あなたが紫紺様に選ばれた方ということは私の龍神様から確認が取れました。ということは、あなたはこの学校……いえ、この町で誰も逆らえない地位にあるということです。そこで、あなたには皐月さんに対抗する派閥のトップに立っていただきたいのです」
「は?」
 まさに目が点になる。
「皐月さんの行動は目に余ります。これまでは私が抑えていましたが、やはりお相手の龍神様の位が違い上手くいっていません。けれど、あなたのお相手は紫紺の王。久遠様より格上のお方です。あなたなら皐月さんを止めることができます」
 まるで自分に酔うようにとうとうと語るありすに、ミトの眼差しが冷たくなる。
「あなたも皐月さんに散々なことをされて腹立たしく感じているでしょう? 私も彼女には苦渋を飲まされ続けてきました。今こそ反撃の時です」
 反撃の時だなどと言われてもミトの心には欠片も届かない。
 ようは、ミトの後ろに控える波琉の力をあてにしているだけだ。
「あなたになら派閥のトップの座を明け渡してもかまいません」
「いえ、そんなの必要ありません。お断りしますから」
「えっ?」
「私は波琉の威を借りるつもりはさらさらありませんから」
 ただの学校の勢力争いに、波琉な力はもったいなさすぎる。
「でも!」
「派閥を作るのは勝手ですけど、それは私の関わりのないところでやってください。正直、私には皐月さんもあなたも同類にしか思えませんから、手を貸す気はないです。以上!」
 バンッとテーブルに手のひらを叩きつけて立ちあがる。
「ごちそうさまでした! 行こう、千歳」
「了解」
 千歳はニッと口角をあげて同じく立つと、ミトと自分の食器が乗ったトレーを返却棚に戻して一緒に食堂を出た。
「ついてきてる?」
「いや、来てない」
 それを聞いてほっと息をつくミトは、げんなりとした。
「なにあれ? ねえ、なに?」
「さっき言ってた通り派閥に引き入れたいんでだよ」
「迷惑でしかないんだけど」
「だよねー」
 気持ちは千歳も同じようだ。
 これで千歳も派閥のトップに立つべきだなんて言い出していたら世話係をやめさせている。
「なんか面倒なことになったなぁ。また来と思う?」
「さあね。でも次は俺が撃退してやるよ」
「千歳君がイケメンすぎて、波琉がやきもち焼いて町を半壊させそう」
「なにそれ、めっちゃ怖いんだけど」
 千歳が頬を引きつらせるが、実際にその危機にあったとは口にしなかった。

 放課後、さあ帰ろうと千歳も教室まで迎えに来てくれていた時、ホームルーム終わりの草葉がミトを呼び止めた。
「星奈さん、少し校長室に行ってもらえますか?」
「校長室ですか?」
「校長が話をしたいそうなんですよ。どうせくだらない世間話でしょうけど、年寄りの長話にちょっと付き合ってあげてくれませんか?」
 校長がいったいなんの用事なのか。心当たりがないミトは、千歳に目を向ける。
「どうしよう?」
「行ってきたら? 校長なら危険なこともないだろうし。俺は校長室の外で待ってるから」
 お言葉な甘えて千歳には外で待ってもらうことにして、校長室の前まで案内してもらった。
 ノックをして中に入る。
 木目調のデスクの前に、黒い革のソファーが向かい合わせで置いてある。
「よく来てくれた」
 ミトを迎え入れた校長は、柔和な顔立ちでとても優しそうな人だった。寂しい頭のせいで年を取って見えるが、まだ定年は迎えていないところを考えると思ったより若いのかもしれない。
「草葉先生からお呼びだと聞いてきたんですが、私なにかしましたか?」
「いやいや、なにもしておらんよ。どんな子か少し話をしたかっただけなんだ。お茶菓子を用意してるからそこのソファーで話そうか」
「お菓子」
 お菓子と聞いて目を輝かせるミトは、迷わずソファーに座った。
 ナッツの入ったクッキーを食べてお茶を飲んでひと息ついたところで、校長が本題に入る。
「今日、正式に神薙本部から苦情が来たんだ」
 なぜ自分に話す?と疑問に思っているのが顔に出ているミトに、校長はミトに指をさした。
「君についてだよ」
「私?」
 こてんと首をかしげるミトには覚えがない。
「神薙本部からではあるが、紫紺様の名代とした日下部家からだ。学校での君の扱いに紫紺様が遺憾に思っていることを伝えてきた」
「あー」
 そこまで言われれば覚えがありすぎる。
 学校でのあれやこれやをミトは虐めと思っていないが、波琉は大層怒っていた。
 もちろん蒼真と尚之も。
 学校に警告をした方がいいとも言っていたので、実行に移したのだろう。
「紫紺様ににらまれたら、私なんぞ木っ端微塵にされてしまう。紫紺様が学校に来られたことで無視や陰口はなくなったようだが、他になにか学校内で問題はないかね? あるなら早めに言ってくれるとありがたい。きちんと学校側で対処させてもらう」
「問題というかなんというか……」
 言っても学校側に解決できるのか疑問だったが、ミトは食堂でありすに派閥のトップに立ってくれと勧誘されたことを話した。
 途端に校長から深いため息が出る。
 口から魂まで出てきそうである。
「美波さんと桐生さんの派閥の対立は私も頭を悩ませておってなぁ。なんとかならんかね?」
 と、逆に相談され返してしまった。
「いや、私に聞かれても」
 ミトの方がどうにかしてほしい側なのだから。
「そこをなんとか、いい案はないかね。ほんとにほんとにふたりには困っておるのだ。相手は龍神の伴侶だし、腹の中では小娘どもが大人を舐め腐ってと悪態をついていても、こちらが下手に出るしかない」
 そんなことを思っていたのかと、なにやら校長が不憫に感じてきた。
「まあ、あの日下部君に比べればマシなのだがな」
 またもやため息をつく校長。幸せが逃げていかないか心配である。
 それよりも日下部とは蒼真のことではないのか。
「あいつはほんとにもう、問題児の中の問題児で、何度奴に泣かされたことか……。今思い出しても泣ける……くぅ」
 目頭を押さえて上を向く校長は本当に今にも泣きそうにしている。
 いったい蒼真はなにをやらかしたのか。
 怖くて聞くに聞けない。
「……で、いいアイデアは思いついたかね?」
 まだあきらめていなかったのか……。
「そりゃあ、波琉に出てきてもらうのが一番早い解決方法でしょうけど、私は波琉をこんなくだらない問題に関わらせたくありません」
 残念そうにがっくりする校長には悪いが、嫌なものは嫌だ。
 ありすとは違い引き際のいい校長は「仕方がない、私たち教職員がなんとかするしかあるまい」と納得してくれた。
「変わりと言ってはなんだが……」
 校長は背後から巨大なハリセンを取り出してミトの前に差し出した。
「これで私の頭を殴ってはくれまいか」
「へっ?」
「紫紺様にハリセンで叩かれると毛が生えるという話は聞いたことはないかな?」
 ずいっと身を乗り出してくる校長に気圧されながら、そんなことを蒼真が言っていたなと思い出して、「あります」と肯定する。
「私も紫紺様に叩いていただこうと尚之殿に何度もお願いしたんだが梨のつぶてだ。そこで私は考えた! 花印からは神と同じ質の神気がまとっている。ならば紫紺様と花印を同じくする君に引っ叩いてもらえば毛が生えるのではないかと!」
 校長は興奮のあまり鼻の穴を膨らませて、ミトにハリセンを渡す。
「さあ、受け取ってくれ。そして私の頭を遠慮なく叩いて欲しい!」
「えっ、えっ」
 戸惑うミトに校長はたたみかける。
「さあ、さあ、さあ! 遠慮はいらない。力の限り叩いてくれたまえ!!」
「ひっ!」
 思いっきり顔を引きつらせるミトは、ずいずいと近付いてくる校長への恐怖のあまり、ハリセンを奪い取りスパーンと頭を力の限りぶっ叩いた。
「おほー! これが毛生えの痛み! 念のためもう一度頼む!」
 ミトは怯えつつもう一度叩くと、逃げるように校長室から逃げ出した。
 外で待っていた千歳は、恐怖におののくミトの顔に焦りを見せる。
「なんだ、なにかあったのか?」
「毛が……。ハリセンが……」
 うまく説明できないミトは、その日の夜ハリセンを持った校長に追い回される悪夢を見たのだった。
 そして後日、校長室にはまたもやミトの姿があった。
 あれからちょくちょく呼び出されるようになり、お茶菓子を食べながら校長の愚痴を聞くのが日課となってしまった。
 愚痴の終わりになると、どこからともなく校長がハリセンを取り出すのである。
 そして遠慮なくスパーンと一発お見舞いして、その日の日課が終了するのだった。
「むふふふ、これで私もいつかふさふさだ」
 まだ生えていない頭を優しく撫でながら鏡を見つめる様子は、はっきり言って気味が悪い。

***

 ミトが学校にいる頃、波琉の屋敷には久遠が訪れていた。
 久遠は波琉の前に座るや、深く頭を下げた。
「私の選んだ伴侶が、ミト様に無礼なことをいたし、まことに申し訳ございません」
 波琉は片肘をついて頬を乗せる。
 久遠を見る目はひどく冷ややかだ。
 ミトの前では絶対に見せない、冷たい王の顔。
 温厚な波琉には滅多にお目にかかれない表情に、久遠にも冷や汗が浮かぶ。
「ちゃんと注意したの?」
「はい。しかし、皐月は長くこの町で大切に扱われすぎていたようです」
「ならそこは君が抑えるべきではなかったのかな?」
「……おっしゃる通りです」
 久遠は落ち込んだ様子で視線を下に向ける。
「私は……天界に帰ろうかと思います」
「伴侶の子はどうするの?」
「縁がなかったようです」
 久遠はひどく残念そうに続ける。
「皐月は、昔は明るく誰にでも分け隔てない純粋な少女でした。そんな彼女を好ましく感じていたのですが、どうやら多くの権力を手に入れ彼女は変わってしまったようです。最近では傲慢さが目立つようになりました。……今の彼女と永遠をともにする気にはなりません」
「そう。つまり、ひとりで戻るんだね?」
 久遠は苦悩した表情で静かに頷いた。
「紫紺様もお気をつけください。我らにとっては瞬きのような時間も、人間にとっては人となりが変わってしまうほどに長き時間です。紫紺様のお相手もそうならぬようお気をつけください」
「心配は不要だよ。僕にとってはどんなミトもミトであることに変わりはない。傲慢になったミトもさぞかわいらしいだろうね」
 くつくつと、波琉は楽しげに笑いながら言ってのけた。
 その目には愛おしさだけではない、激しい執着を目に宿している。
 自分の感情を揺さぶる唯一の存在。
 ミトの姿を思い浮かべるだけで、どうしようもない愛おしさが波琉を襲う。
「僕にたくさんの感情を与えてくれるのはミトだけだ。どんなミトだろうとね」
 変わってしまうならそれでもいい。
 ミトが自分のそばにいてくれるかが大事なことなのだから。
 波琉にある重い独占欲と執着心を感じ取った久遠は、やや寂しげに微笑んだ。
「私にはあなた様ほどの深い愛情を、皐月には見つけられなかったようです」
「ねらばその程度の縁ということだろうね」
 久遠は「ですね」と苦笑した。
「彼女の横暴でこれ以上周囲に迷惑をかけぬためにも、私は素早く去った方がいいでしょう」
「君が悩んだ上でそう決めたのなら僕はなにも言わないよ。僕にしてもミトを傷付けるあの娘には思うところがあったし、君から捨てられたなら大人しなるだろうからね。人間の言葉を借りるとざまあみろってところかな」
 こんな性格の悪さをミトが知ったら嫌われてしまうかなと思いつつ、波琉はうるさいハエがミトに絡まなくなるならそれでいいと考えた。
 常に波琉がここらを動かすのはミトにかんする物事だけなのだ。
「あっ、そうそう。君なら百年前に金赤に追放された星奈の一族を知っているかな?」
「百年前? いえ、金赤様からはなにもお聞きしておりませんが」
「なんだ。そっか……」
 波琉は少し残念そうにする。
「じゃあ、天界に帰ったら金赤に一度龍花の町に来るように頼んでよ。彼の口から、正確な星奈の一族の情報を知りたいんだ。百年前になにがあったか」
「承知しました」
 深く頭を下げ了承した久遠は、それからすぐに天界へと帰っていった。


五章

 朝、ミトは波琉から突然に、久遠が天界に帰ったことを教えられる。
「えっ、久遠さん帰っちゃったの?」
「うん、そうだよ」
「でも、皐月さんは?」
 彼女は相変わらず絡んでくるが、昨日も変わった様子はなかった。
「久遠ひとりで帰ったよ。伴侶の子とは関係を解消することにしたようだ。あの子の我儘に耐えられなくなったみたい」
「えー」
 ミトはひどく驚いた。
「いや、まあ、確かに我儘がすぎるだろうかど……」
 なにかというと久遠の名前を出して他者を脅すのだから、我儘で片づけられなくなったのだろうか。
「久遠にも傲慢さが目立つようになったらしいからね。自業自得ってことだよ」
「久遠さんから愛想を尽かされちゃったの?」
「まあ、そういうことだね。久遠のように心の広い龍神でも、ぞんざいに扱われたら愛情も消え失せていくってことだよ。久遠だからここまで我慢できたんだろうね」
「そっか……」
 ミトはなんだか複雑な気分だった。
 その一方で、話を聞いていたクロとチコはご機嫌だ。
『龍神の後見がなくなってどうするのかしらねぇ』
『何度チコの話を聞いて引っかいてやろうと思ったか。これで大人しくなるんじゃない?』
 お互いにチュンチュン、ニャンニャンと笑うように鳴いている。
『チコ、その女がどんな顔してたか教えてよね』
『了~解。いっそクロも来たらいいのに』
『前に試したけど、用務員に見つかって外に放り出されたのよねぇ』
 クロはいつの間に来ていたのか。用務員に見つかったと言っているが、なにもなくて幸いだった。
「じゃあ、私学校行ってくるから、クロはちゃんとお留守番ね」
『分かってるわよ。シロも目を離すとなにするか分からないからね』
 先日も蝶々を追いかけたまま外に出てしまい、町の中で迷子になって泣いていたのを、チコが見つけクロが連れ戻したという事件があった。
 あれからシロにはGPSつきの首輪をするようになったのだ。
 アホかわいいとはまさにシロのためにあるような言葉である。
 車に乗って学校へ行くと、千歳がすでに待ちかまえていた。
「おはよう、千歳君」
「おはよう。今日は朝から大騒ぎになってる」
「なんで?」
「我儘女その一の話」
 それで伝わってしまうのが切ないが、皐月のことだ。どうあっても名前を言いたくないらしい。
「それって、久遠さんの?」
「そっ。我儘女その一を捨てて天界に帰ったって皆言ってるよ」
「もう話が伝わってるの?」
 ミトでも今朝波琉から教えられたところだというのに。
「おかげで我儘女その二の派閥の奴らがいきり立ってるよ」
 これまで散々皐月に煮え湯を飲まされ続けてきたありすとありすの派閥の生徒。
 これまでは久遠という盾が皐月を守っていたが、久遠はもういない。
 ありすの派閥が調子づくのも仕方がないのかもしれない。
 一時はミトを派閥のトップにして皐月に対抗しようとしたほどだ。
 けれどミトはきっぱりと断り、その後すぐにはあきらめないだろうと思っていたが、接触してくることはなかった。
 千歳いわく、しつこくして波琉が出てくるのを警戒したんだろうという。
 あっさり引き下がるとは思わなかったので、少々消化不良気味だ。
 まあ、しつこくつきまとわれないで、よかったのはよかったのだが。
「じゃあ、昼に」
「ありがとう」
 ミトを特別科の教室まで送り届けて、千歳は自分の教室に向かった。
 中に入ると、予想外にも皐月が来ていたのである。
 プライドの高い皐月なので、きっと周りから揶揄される事態を恐れて、学校には来ないだろうと思っていたのだ。
 しかし、変わらぬ様子で自分の席に座っている。
 すると、ありすの派閥の生徒が数名近寄っていった。
「皐月さーん。よくのこのこ学校に来られたよね? 私だったらショックで寝込んじゃうのに、さすが面の皮が厚い皐月さんね」
 皐月は反論はしなかったが、ギッと相手をにらみつけた。
 けれど、久遠がいない今、恐れる者はほとんどいないだろう。
「にらんだって怖くないわよ。無様よねぇ。散々偉そうにしていて、最後は捨てられちゃうなんて」
「でも、久遠様だってあなたみたいな人、嫌に決まってるもの。いろんな人から嫌われてるんだもの。ざまあみろだわ」
 ミトは皐月を責めるひとたちにも不快感を覚えたが、これまで皐月の取り巻きをしていた生徒の誰もが助けに入らない姿が余計に不快だった。
 金魚のフンのごとく皐月の後ろをついて回っていたのに、結局は皐月といることで得られる甘い蜜を吸っていただけ。
 得られないと分かれば、蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまうのだ。
 それは皐月に人望がないからで、日頃の行い故の自業自得かもしれないが、そんなに手のひらを返してしまうなんてひどいとも思う。
 派閥の子たちも、誰も助けに入らないのを見てニヤリと笑う。
「もうあなたは終わりよ。龍神に捨てられた花印なんて憐れなものよね。私たちにはまだ龍神様が迎えに来てくれる可能性があるけど、あなたには絶対にあり得なくなってしまった。格で言えば私たちよりずっと劣ったことになるの。ちゃんと理解してる?」
 ひとりが皐月の机をガッと蹴りつける。
「これからはありすさんに逆らわないことね。あなたとじゃ立場が違ってしまったんだから」
 皐月は必死で耐えるようにしている。
 そして、最後まで口を開くこともなかった。
 いつの間にか教室に入ってきていたありすも、派閥の子を止めるでもなく、それまで皐月の派閥にいた子たちが皐月を見捨ててご機嫌うかがいをしてくるのを、微笑んで見ているだけだった。
 ありすありすと、派閥の人たちは崇めるようにありすを立てるが、皐月と一体なにが違うのだろうか。
 久遠がいるかいないかだけでこんなにも違ってくる状況にも我慢がならない。
 人間の愚かさと醜さを見てしまったようで気分が悪くなった。
 そんなホームルーム前の出来事を、校長室で校長に愚痴っていると、校長も頭を悩ませているようだった。
「本当に悩ましい状況だ」
「なんとかならないんですか? 教室の空気が悪くてかないません」
「それができたら私の頭は最もふさふさだ。まあ、星奈さんのおかげで毛に元気が戻ったようでな。肌の調子もバッチリだ。やはり紫紺様の神力とハリセンは最強の組み合わせらしい」
 上機嫌でハリセンをペシペシと手に叩きつけている校長は、以前よりも肌のつやがよくなっている気がする。
 自分にそんな力があるとは思っていないが、校長は信じているようだ。
 まあ、本人が納得していてるなら別にいいのだが、校長が言いふらしているらしく、ハリセンで叩いてくれとマイハリセンを持ってミトに頼みに来る先生ご増えたのが問題だ。
 それまで紫紺の王の伴侶ということで恐怖と怯えの眼差しで見られていたが、今では尊敬が含まれるようになったのは気のせいではない。
 主に、頭にコンプレックスを持っている中年男性と、美意識の高い女性からの支持率があがっている。
 怖がられるよりマシだが、これでいいのかと判断に困る。
 校長は一旦ハリセンを置いて真剣な表情で話し始める。
「皐月さんもなぁ。これまでの行いがあまりに悪すぎた。そうでなかったらここまで非難されることもなかっただろうに……」
 それはミトも深く同意する。
 久遠に選ばれた特別な人間だと我儘がすぎた。
「花印を持った子たちはよくも悪くも上下関係に敏感だ。龍神に選ばれた子を頂点とし、龍神に捨てられた子は、龍神を待つ子たちより立場が一番下に転がり落ちてしまったと言っていい。皐月さんはこれまで好きかってしていた分、ひどいことにならないか心配だ。星奈さん。少し気をつけて見てやってはくれまいか? 少し助け船を出すだけでいいんだが……」
 ミトの顔色をうかがうように校長は懇願する。
 頼まれてもミトは皐月にもありすにもできるだけ関わり合いになりたくないというのが正直なところだ。しかし……。
「進んで関わったりはしないですけど、あまりにもひどくて目についた時には」
 明言しなかったが、校長は「それでかまわない」と、ミトに感謝の言葉を口にした。
「では、これで失礼します」
 用も終わったのでさっさと出ていこうとしたが、ミトをの手を校長が掴む。
「待ちなさい」
「なんですか?」
「今日の日課がまだではないか!」
 そう言ってハリセンを差し出すので、ミトはいつもより力を込めてぶっ叩いた。







 校長室を出て、外で待っていた千歳と食堂へ行くと、ゴミ箱を持って中のゴミを頭からぶちまけられている皐月の姿があった。
 我が目を疑うほどの光景。
 座り込み、俯いている皐月の表情は分からない。
 ゴミをかけたのは、昨日まで皐月の取り巻きをしていた派閥の生徒だ。
 久遠が天界に帰ったと知り、さっさとありすに鞍替えをしていたので記憶にもよく刻まれていた。
 ゴミをかけた生徒は若干気まずそうな顔をしながら、そばにいるありすをうかがうよに視線を向けた。
 ありすは腕を組みながらぞくりとするような微笑みを浮かべている。
 そして、ゴミにまみれた皐月に向けて告げる。
「皐月さん、これは皐月さんがこれまでしてきたことの行いが返ってきただけんですよ。これでやっとやられた者の気持ちが理解できましたか?」
 自分は間違っていないと自信にあふれた声で、皐月さんに説教を垂れる。
 ありすに呼応されるように、周囲からヤジが飛ぶ。
「俺たちの気持ちが分かったか!」
「これまで散々下に見やがって」
「いい気味よ。当然の報いだわ」
「もう学校に来なきゃいいのに」
  中には皐月に媚びへつらっていた生徒も混じっており、態度の変わりようにミトを不快感が襲う。
 なんなのか、これは……。
 ありすは正義感から被害に遭った生徒を守っていたのではないのか。
 皐月は確かに多くの生徒をもてあそんでいて、被害者は多いが、これは違うだろう。
 ありすのやっていることは皐月と同じではないか。
 これのどこに正義があるのか。
 見ていられなくなったミトは、一直線に皐月の元へ向かう。
 後ろから千歳がやれやれという様子でついてきてくれた。
 止めるつもりはないらしい。
 ミトは再度別のゴミ箱を皐月にかけようとしたいる生徒の前に立ち皐月を庇う。
 これまで介入してこなかった紫紺の王の伴侶であるミトの登場に、ヤジも止まる。
 ありすもわずかに動揺した顔をした。
「やりすぎよ」
 ありすに向かって告げるが、ありすは強気な表情を取り戻す。
「そんなことないわ。これは因果応報。彼女の悪事が返ってきただけのことよ」
「それを指示してるのはあなたじゃない。それは因果応報とは言わないわ。ただの虐めよ」
 逆らえないと分かって集団で攻撃するなんて……。
 ミトに、村での記憶が脳裏をよぎる。
 逆らいたくても逆らえない、あの頃の嫌な記憶が今とリンクする。
「あなたは今までなにもしてこなかったのに、皐月さんのことは庇うの? それならもっと早く動いてくれればよかったじゃない」 
「龍神を笠に着てやりたい放題してるあなたたちがどっちもどっちだったから、関わりたくなかっただけ。けど、今のこの状況は見ていられない。やり方が汚いもの。理由なんてそれだけで十分よ。正義感気取ってやってるのは皐月さんと同じじゃない」
 ミトとありすの視線が交差する。
 ミトは振り返ると皐月に手を伸ばした。しかし、その手は皐月に振り払われる。
 叩かれるように振り払われたので痛みが走ったが、ミトは気にしていない。
「なんなのよ。同情のつもり? 紫紺の王っていうバックがいる者の余裕ってわけ? あんたに助けられるぐらいなら、こいつらに殴られた方がずっとましよ!」
 そう叫ぶや、皐月は立ちあがって食堂から走って出ていった。
 ミトは周囲を威嚇するように見回す。
「最低ね。あなたたち」
 何名かは気まずそうに視線を逸らしたが、ほとんどの生徒は自分が悪いと思っていない様子だった。
「学校がこんな大変なところだって思わなかった……」
 ぽつりとつぶやいた言葉は千歳だけが拾い、ミトの頭を労るようにポンポンと優しく撫でた。
 翌日から皐月は学校を休むようになった。

 一週間経っても、二週間経っても学校に現れない皐月を、さすがのミトも心配になってきた。
「蒼真さん。なにか知らないんですか?」
 花印を持った子の管理は神薙がしている。
 千歳は知らないようだったが、蒼真ならもしやと思って聞いてみたら、言葉を濁された。
「いや、まあ、なんだ……」
 はっきりとしない蒼真にミトは不審がる。
「蒼真さん、なに隠してるんですか?」
 じとっとした目を向けるミトに、蒼真は観念したように話し始める。
「実はな、ミトの言ってる美波皐月が行方不明なんだよ」
 衝撃の言葉を発した蒼真に、ミトは目を見開く。
「どういうことですか!?」
 ずいっと身を乗り出すミトを「落ち着け」と窘めて、頭を掻く。
「俺たちにも分からねぇんだよ。神薙本部がその行方を捜してるけど、所在を確認できないんだ。久遠様との関係が解消されたから、神薙本部もそいつのことは特に動向を注意してたはずなんだが、二週間前から忽然と姿を消しちまったんだよ」
「なんでですか!」
「俺に言うな。神薙たちも困ってるんだから。久遠様の元とはいえ伴侶だった人物が消えたんだから、本部は大騒ぎだ。町から出てはいないはずなんだけどなぁ」
 二週間前というと、皐月が学校に来なくなった頃だ。
「波琉なら……」
「あー、それは無理だな」
「どうしてですか?」
「とっくに頼んだ後だ。お前を虐めてた奴をどうして探す必要があるんだって断られた。紫紺様にとってはあの女は大事な伴侶を傷つける敵っていう認識だから仕方ないだろ」
 まだ怒っていたのかと、ミトはちょっとあきれてしまう。
 虐められたといってもたいしたことはされていないのだが、それでも波琉には許しがたい子とだったのだろう。
「それに、紫紺様は別のことで忙しいらしいからな」
「別のこと?」
「こっちの話だ。お前は気にするな」
 よく分からないが、波琉の協力を得られないとなると、ミトにできるのはひとつだけ。
「チコに頼んでみましょうか?」
「あ?」
「チコと町にいるたくさんのスズメたちなら、彼女がどこにいるか知っているかもしれませんよ。もし知らなくても、探すのを手伝ってくれるかも」
「その手があったか」
 蒼真は表情を明るくしてミトの両肩を叩く。
「よし、なら頼んだぞ。いろいろと手を尽くした後だから、打つ手がなくなってたところなんだよ。鳥ならもっと多くの情報が得られるかもだな」
 ということで、スズメたちによる龍花の町の大捜索が始まった。
 ミト自身は捜索の役には立たないので、手を貸してくれるスズメたちのために、スーパーに行って一番値段の高いお米を買い、スズメたちに英気を養ってもらう。
 スズメたちはお米をたらふく食べてから次々に町に散っていく。
 捜索の指揮はチコが取っていた。
 町の地図を見ながらスズメたちにどこどこを探すように指示しているのである。
 なんと頼もしいのだろうか。
 ミトは村でも動物たちに助けられてきたので違和感はなかったが、動物たちがミトに従って動いている様子を目にした蒼真はあっけにとられていた。
「話には聞いてたけど、マジか……」
 どうやら蒼真はミトの能力には半信半疑だったようだ。
 これまで蒼真の前でもクロやシロと話をしていたのに、信じられていなかったたは。
 まあ、普通の人間に動物の言葉を理解できないので仕方がない。
 スズメたちだけでなく、クロも町にいる野良猫に頼んで情報集めてくれているようだ。
 しかし、動物たちの情報網を持ってしても、皐月を見つけることはできなかった。
 無為に時間がすぎていくのを歯がゆく思っていると、事態が一変する。
 ある日何事もなかったかのように皐月が学校に登校してきたのだ。
 これには見つからないと頭を悩ませていたミトもびっくりする。
 だが、様子がおかしい。
 制服ではなく私服であり、その服も泥で汚れている。
 いつも綺麗にセットされた髪も艶がなく、ところどころ汚れざんばら状態。
 なによりおかしいのはその表情。
 目に生気がなく、人形のように表情が抜け落ちていた。
 明らかに異様なその姿に、特別科の生徒は騒然となる。
「えっ、なに? 皐月さん……よね?」
「どうしたんだ?」
「なんかおかしくない?」
 驚く生徒たちの声など耳に入っていないように、ゆらりと動いた皐月は、その目にありすの姿を映す。
 ありすに目を止めた皐月は突然豹変したように敵意を剥き出しにありすに襲いかかった。
「きゃあぁぁ!」
「ぐあぁっ!」
 まるで獣のような咆哮をあげありすの肩を掴み、噛みつこうとする。
 慌てて周囲の男子生徒が押さえ込もうとするが、目を血走らせて手負いの獣のように暴れる皐月に、多くの悲鳴が教室に響く。
 数名の男子生徒に捕まえられているにもかかわらず、皐月はそれを振り払っていく。
「ああああぁぁ!」
 皐月の迫力と人間のものとは思えない威圧感に、近付けなくなる。
 誰も動けなくなった中、再びありすに向かっていく皐月を、唯一動けたミトが飛びかかるように押さえつけようとした。
 しかし、男子生徒数名をもってしても押さえきれなかった皐月を、ミトひとりで大人しくさせられるはずがなく、恐ろしいほどの怪力で投げ飛ばされる。
 じりじりとありすに近付いていく皐月。
 ありすは恐怖で足が動かない様子で、震えているしかなかった。
 その時……。
『そいつじゃない』
 どこからか聞こえた、男性のような低い不思議な声。
 出所を探し、ふと窓の外を見ると、梟が木にとまってじっとこちらを見ていた。
 どこか梟に違和感を覚え、目が離せないでいると、皐月がありすから矛先を変えて襲ってきた。
 必死になって抵抗するが、皐月の手がミトの頬や腕に当たり引っかかれる。
 赤く爪痕がつき、ところどころ血がにじむ。
 痛みに顔をしかめながら皐月を遠ざけようとミトも暴れるが、とうとう押し倒されてしまう。
 まずい!と覆い被さってくる皐月の攻撃に身をすくめるところで、皐月の体が横に吹っ飛んだ。
 椅子や机に体を強くぶつけた後、皐月は動かなくなった。
 ミトが目を丸くして驚いていると、手を差し出してくれる人がいた。
「大丈夫?」
「千歳君……」
 千歳は怪我をしたミトの頬や腕を見て、チッと舌打ちをする。
「ごめん。もっと早く気づいてればよかった」
「ううん。助けてくれてありがとう。……皐月さんは?」
 千歳に手を借りながらよろよろと起きあがり、千歳が皐月の様子を確認する。
「気を失ってるみたいだ。念のために拘束しておこう」
 教室内にあったガムテープで、皐月の両手と両足をグルグル巻きにする。
「すぐに本部に連絡するよ。一体なにがどうしたんだ……」
 千歳はスマホを取り出して電話をし始めた。ほっとひと息ついたミトが窓の外を見ると、先ほどまでいた梟の姿はなくなっていた。

***

 波琉は学校からほど近いビルの屋上にいた。
 屋上からはミトのいる教室がよく見える。
 それは龍神の優れた五感があってこそで、普通の人間に教室の中の様子までうかがうことはできないだろう。
 波琉の手には先ほどミトが窓の外で見た梟が捕まっていた。
 梟は逃げだそうとバタバタと暴れているが、強く握りしめている波琉の手から逃れることはできずにいる。
「僕のミトを狙うなんて命知らずだね」
 怒りをあふれさせたひどく冷淡な声で梟を掴む手の力を強める。
「僕に偽物の花印を散々送って寄越したのは君かな?」
 波琉は冷たい目をした笑みを浮かべ問い詰めると、梟はとうとうあらがうことをやめて静かになった。
『百年の恨みは忘れはしない』
 梟は波琉に向けて強い力をぶつけてきたが、それを軽くいなして、逆に梟の攻撃を上回る神気をぶつけた。
 すると、梟は煙のように消えてしまったのである。
 静寂に包まれる中、波琉はそこから見える教室へと視線を向ける。
 どうやらミトは元気な様子で動いており、波琉はほっとする。
「さて、どうしようかな……」
 波琉のつぶやきは、近くにいた蒼真にだけ聞こえていた。

***

 気を失ったままの皐月は、千歳が呼んだ本部の神薙によって連れていかれた。
 しばらく呆然としていたありすだが、気分が悪くなったと保健室へ草葉がつき添っていった。
 残った生徒は燦々たる有様になった教室を掃除し、ほぼ元の状態に戻した。
 ほぼというのは、割れた花瓶や折れた椅子はどうしようもなかったからだ。
 まさか椅子が折れるとはと、壊れた椅子を見た全員が顔色を悪くする。
 先ほどの騒ぎは夢ではないのだと、その椅子が証明していた。
 ようやく落ち着きを取り戻した頃、別の騒ぎが起こる。
 なにやら怒鳴り声が聞こえて、今度は何事だと特別科の生徒が玄関ホールへ見に行くと、ミトは知らない龍神と思われる人が大声で騒いでいた。
「あれは我儘女その二の相手。位は紫紺様や久遠様に比べたらそれほど高くない」
 ミトの知らない情報を千歳がこっそり教えてくれる。
「へぇ」
 誰だかを知ることはできたが、なにをしに来たのかは、本人が叫ぶ言葉で察しがついた。
「皐月という女を出せ!」
「落ち着いてください」
「これが落ち着けるか! その女が私のありすを襲ったそうではないか。久遠様に捨てられ、気でも触れたのか? とりあえずその女を引き渡せ! 私直々に罰をくれてやるわ!」
 ありすが襲われたことを聞きつけてやって来たようだ。
 どうやら龍神との仲は良好らしい。
 しかし、それで教師たちを困らせるのは問題である。
 そもそも皐月はとっくに神薙本部に連れていかれてしまったのだから、引き渡せと言われても教師たちも困るだろうに。
 教師たちが必死で落ち着かせようと苦慮している時、「騒がしいよ」と、たったひと言で場を支配してしまう声が響いた。
 ゆったりとした様子で現れた波琉は、ありすの龍神に目を向ける。
「気持ちは分かるけど、彼らを困らせるのはよくないね」
「しかし、紫紺様っ!」
 波琉はありすの龍神の耳元でなにやら囁いた。
 ありすの龍神はなにかに驚き、目を大きくしている。
「それは本当ですか?」
「うん。だから今は引いてくれるね?」
 柔らかな声色で問う波琉に対して、ありすの龍神は深く頭を下げて「承知いたしました」と言って学校を去っていった。
 あからさまにほっとした表情をする教師たちは、波琉に平身低頭で何度も感謝を伝えている。
 軽く手をあげて挨拶してから、波琉はミトに向けて歩いてくる。
「ミト、怖かったでしょう?」
 まるですべて見ていたかのように話す波琉は、ミトを抱きしめてポンポンと背を軽く叩く。
「波琉」
 正直言うと怖かった。しかし……。
「大丈夫。千歳君が助けてくれたから」
 ミトは「ねっ」と、千歳に向かって笑いかけると、波琉も千歳をそこで初めて認識する。
「へぇ、君がミトの言ってた千歳君か。これからも“世話係”としてミトをよろしくね」
「は、はい。“世話係”として頑張ります」
 なにやら千歳は頬を引きつらせていたが、ミトにはふたりの間で行われた牽制を察するのは難しかった。
 その日はもう授業どころではないと、そのまま波琉とともに屋敷に帰ることになった。
 車の中で、ミトは波琉に問うた。
「皐月さんがどうして急にあんな風になったのか、波琉はなにか知ってるの?」
「……彼女は操られてただけだよ。龍神にね」
「えっ! 波琉と同じ龍神が!?」
「いや、同じではないよ。龍神は龍神でも、堕ち神となった龍神だ」
「堕ち神?」
 ミトはきょとんとした表情で首をかしげる。
「龍神でありながら天帝より天界から追放され神でなくなってしまった憐れな元龍神をそう呼ぶんだよ。とっくに消滅してしまったと思っていたけど、まだ存在を保っていたようだ」
 波琉は強い意思の籠もった眼差しを走る車の外に向ける。
 波琉の真剣な表情は、なにかとても理解しがたい大きなことが動き出しているように感じて不安になった。
 ミトの心配そうな顔に気づいた波琉は、いつもの柔らかな笑みを浮かべる。
「そんな心配することでもないよ」
 一転してけろりとした表情になった波琉に、ミトはついていけなかった。
「大変なことが怒ろうとしてるんじゃないの? 元龍神だなんて……」
「あはは、ごめんね。無駄に不安にさせちゃったかな。全然たいしたことないよ。天帝から神の資格を取られちゃった半端者だからね。王である僕の敵じゃないから」
「そうなの?」
 それを聞いてようやくミトもほっとした。
「そうそう。それに、強かったとしても、僕がいる限りミトに手出しなんてさせないよ。だって、ミトは僕と一緒に天界に行くんだから。僕が守るよ」
「うん、行こう。約束ね」
「約束」
 なにがあってもこの絆が切れてしまわないように。
 どんなことが待ち受けていても一緒に乗り越えていけるように。
 ふたりの指は絡まった。


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