1970年代。
日本は高度成長期に入っていた……と思われます。
(作者が生まれてない時代なので、詳しくはわからないです)
親父とお袋がまだ結婚したての頃。
多分20代前半だと思われます。
僕にも詳しい話は教えてくれなかったのですが。
きっと父方のおじいちゃんの親戚の話。
親父たちが生まれ育った街は、工場とか炭鉱とか港の仕事。
いわゆる、ブルーカラーの人々で栄えていた街で、うちの親戚はみんなほぼ同じ系列会社で働いていました。
おじいちゃんもそのうちの一人で、ほとんどが大きなグループの傘下にあった子会社ばかり。
まあ血の気が荒い男たちでした。
そして、親父からしたら、叔父にあたる人だと思うのですが。
働いていた会社の慰安旅行によく参加していたそうです。
その旅行先というのが、東か南あたりのアジア圏、某国だと聞きました。
おじさんと会社仲間の人たちは、帰ってくると。
いつもニヤニヤ笑って、同僚のおじいちゃん家にお土産を持ってくるらしいのですが。
それを見た若かりし頃の親父は
「チッ!」
と舌打ちをうって、その集団を睨むらしいのです。
理解できなかった新妻のお袋が、
「どうして怒っているの?」
と尋ねます。
「ありゃ、ただの旅行じゃない。一族の恥だ」
なんて捨て台詞を吐いたりして。
「え? 慰安旅行でしょ? なにが恥ずかしいの?」
親父はため息を吐き、お袋に説明をします。
「はぁ、お前は女だからわからないのだろうけど……ありゃあ、ただの慰安旅行。海外旅行じゃない。買いに行ったんだよ」
察しの悪いお袋は首を傾げます。
「え? 買う?」
「わからん奴だな。女の子とそういうことをするために、比較的安い某国に集団で遊びにいったんだよ……」
「あっ、そういうことね」
ですが、ここでお袋は疑問が残ります。
確かにおじさんは、妻帯者ですが、
「まあ男ならそんな遊びもするのでは?」
と思ったそうで。
実際、僕の親父もきっと経験してるはずです。(多分、豊富)
「そんなに嫌うこと?」
「年齢だよ……日本とは違うだろ」
「あ……」
ここでようやく理解したお袋でした。
甘い石鹸の香りで、ホクホク顔で帰国した集団を見て、お袋は軽蔑したそうです。
後に、僕はこの話を聞いて、よく理解できませんでした。
「その話、なにが悪いの?」
「遊んだりしてたお父さんでも、ドン引きするぐらいの年齢ってこと。わからない?」
中学生ぐらいの時に教えてもらったので、僕は首を傾げていました。
「へ?」
大人になった今ならなんとなくですが、想像できます。
多分、当時の日本の感覚なら。
中学を卒業したばかりの女性がいたとして、15歳、16歳ぐらいで成人感覚で扱われていたと思います。
早い話、嫁いだり、集団で就職したり。
ということは、日本国内でも16歳ぐらいの若者が、そういう街で働いていても不思議じゃない時代……な気がします。
キャバクラやピンクの接待を楽しめた親父ですら、軽蔑する年。
一体いくつなのでしょうか?
その、おじさんという人の好みが、もし16歳よりも、もっともっと下の世代だったら……。
僕はこれ以上の想像を……やめました。