僕には年の離れたいとこがいます。
 16才差ぐらいでしょうか?
 母方のいとこで、叔母の娘なのですが、年が相当離れているから、姪っ子感覚です。

 叔母は結婚を実母、(僕の祖母)から、かなり反対されていたので、結婚が遅かったらしく。
 でも、今の旦那さんはとても温厚な人で優しく、年をとってもずっとラブラブ。
 僕は夫婦として、とても尊敬しています。

 僕からしたら、叔父さんなのですが、とにかく優しいです。
 いつもニコニコ笑っていて、
「幸太郎くんも酒飲まない?」
 なんて気づかいできる素敵な男性。
 子どもたちもあまり叱らないし、奥さんのことを愛してるし、なんていいお父さんなんだろうと、いつも感じていました。

 ある年のこと、僕はお盆に母と兄と三人で鹿児島に帰省しました。
 その時に、いとこちゃんも来ていて、僕もあまり飲めなかったけど、宴会だったから、コークハイを軽く飲んだりして。
 そして、ちょっとシャイな、いとこちゃんは、この時小学校の3年生ぐらい。

 僕が交際中のカノジョ、(現在の妻)とメール交換していると、叔母さんにイジられて。
 お返しにいとこちゃんに話を振ります。
「あのさ、僕は今カノジョいるんだけど、いとこちゃんはクラスに好きな人いる?」
「い、いないよ……」
 これは怪しいと思い、ちょっといじってみたり。
「ウソぉ~? 僕なんて小1の時には好きな子いたよ?」
「……」
 黙りこんでしまう、いとこちゃん。

 そして、それまでニコニコ笑っていたおじさんも、無表情で酒がストップしてしまいました。

 (あれ? なにかいけないこといったかな?)

 なんて思っていると、母親である叔母さんがフォローに入ります。
「いとこちゃんは、あれよね? パパが世界で一番好きなんだよね?」
「う、うん!」(おじさんをチラ見して)
 その答えを聞いて、またニコニコの仏顔に戻るおじさん。
 酒がグイグイ進む。

 僕はおかしいと思い、再度ツッコミを入れてみました。

「その好きは別の意味でしょ? パパ以外の男の子だよ? いるよね?」
「い、いないよ……」(おじさんを二度見して)
 またしても、表情が固くなるおじさん。

 そしておばさんが、言います。
「違うもんね? そんな子いないよね? いとこちゃんはパパと結婚するんだよね?」
「う、うん!」(おじさんをチラチラ見て)
 ニコニコ笑って頷くおじさん。焼酎が進む進む。

 (えぇ……マジか。この親子)

 僕はそれ以来、彼女に異性の話を振らないようにしました。

 それから時は経ち、彼女が僕よりも背が高くなり。
 厳重な管理下の元、勉学とスポーツに励む女子高生へと成長。
 携帯電話も持たされず。

 そして、帰りはいつも父親であるおじさんが車で迎えにいくのです。

 ここで、勘違いしないで頂きたいのは、おじさんといとこちゃんの親子関係はとても良好です。
 真冬の朝、寒いからと、いとこちゃんがおじさんの部屋に入ってきて。
「パパ寒い~」
「おぉ、いとこちゃん寒いのぉ? パパの布団の中においでぇ~」
 と思春期の父娘とは思えないぐらいの仲良しなんです。

 その日もおじさんは、ニコニコ顔で愛娘を迎えにいきました。
 校門の前で、車を停めて待っていると。

 セーラー服を着た愛娘が、学ラン服の男の子(イケメン)と何やら、仲良く話している。

「!?」

 おじさんはきっと情報を一切遮断されていたのだと思います。
 激しく動揺し、頭がパニックになっちゃったようで。

 おじさんに気がつく、いとこちゃん。

 (あ、見られた)

 車内に乗り込むと。
「た、ただいま。パパ」
「うん。おかえり……」
 案の定、様子がおかしい。
 いつもなら、駄弁りながら、帰路を楽しむというのに。

 沈黙が続く車内。
 いつもより、運転が荒く感じたそうです。

 おじさんはハンドルを強く握りしめ、アクセルを踏み込み、猛スピードで県道を突っ走るのです。
 5分ぐらいの間だったのですが、初めてキレる父親の姿にいとこちゃんは、戦慄を覚えたそうな。

 たまたま、その日は奥さんであるおばさんを近くで拾う予定だったので、車を停めておばさんが車内に入ると、異様な空気に気がつきます。

 沈黙の中、車は猛スピード山道を走り抜ける。
 危険を察知したおばさんが、いとこちゃんに理由を聞くことに。

 先ほどの男の子の名前を聞いて。
「あぁ、あの子ねぇ。いとこちゃんの部活の関係で先輩なんだよね? だから、挨拶程度の関係だったよね?」
「う、うん。そうそう!」
※二人で話を合わせた可能性あり。

 すると、鬼の顔だったおじさんは、いつものニコニコ顔に戻り。
「そうかそうかぁ~ ねぇ、いとこちゃんはまだまだパパと結婚したいのかなぁ?」
「う、うん! 約束だからね」
 車は通常運転となり、車内は一気に平和なムードになったそうで。

 余談として、いとこちゃん曰く。
「生きた心地がしなかった」
「あの日、お母さんが一緒にいなかったらと思うと……」

 成人したいとこちゃんは、元気に働いており、未だに彼氏とか一人も噂が届いてきません。
 (情報規制の可能性あり)

 僕も娘が二人おりますが、その時がくれば、泣きながらお酒を飲んでいると思われます。